神秘の星系
宇宙気流に流される流彗星号改の行く手に現れた宇宙ゲートは虹色の輪をゆっくりと拡張していった。
輪の大きさが流彗星号改よりも少し大きな輪になった時に拡張は止まりゲートでの移動の準備が完了したとばかりに明るく輝いた。
「大きさは流彗星号改の二隻分の大きさだね。問題ないか?サバーブ?」
出現したゲートを観測していた連宋の問いかけにサバーブは胸を叩いて答えた。
「任せろ。私を誰だと思っている。この程度の間隔なら目をつぶってでも通り抜ける事が出来る。」
実際にサバーブはこれより狭い間隔であった小惑星間を宇宙巡洋艦で通り抜けるという荒技を行った事があった。
それに比べて十分に余裕のあるゲートをくぐり抜けるのは、サバーブにとってさほど技量を必要としていない行為なのである。
「私が流彗星号改を動かせ……いや、まだ誘導は続いている。ゲートの向こうにも宇宙気流は続いているのではないのか?連宋?」
「ああ、その通りだ。わしが観測した所、ゲートの向こう側に流れ込んでいると言った様子だ。」
「だとすれば、無理に流彗星号改を動かす必要は無い。流れに任せた方が安全だろう。だが、周囲への警戒は必要だ。」
サバーブはそう言うとリランドや連宋の顔を見た。
「OK、俺は何時でも反撃できる様に荷電粒子砲の準備をするか……。」
「わしは引き続き周囲の観測を行うよ。」
三者三様に緊張する中、流彗星号改はゆっくりと虹色に輝くゲートに突入していった。
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少し長く感じるゲートを通り抜けると目の前には星々が輝く神秘的な世界が広がっていた。
中心に主星である星がひときわ大きく輝く。
その周囲には様々な色の数多くの星が光る。どうやらこの星系の惑星達が存在している様だ。
だがその数は両手では足りないほどの数が輝いている様に思えた。
「……何という惑星の数だ……。」
メインスクリーンに映る光景にサバーブが二の句を告げないでいる通り、多数の惑星が一つの星系に存在するといった事がこれまで発見されたり観測されたりした事はない。
これが最初の発見である。
数多の惑星が輝く光景を前にリランドが首を傾げた。
「……なぁ、サバーブ、これだけの数が何故見つからなかったのだ?」
「わしも不思議に思うぞ。何故か判るのか?」
リランドと連宋は答えを待つ様にサバーブの顔を見た。
「……おそらく……連宋、この星系の宇宙気流はどうなっている?」
「宇宙気流?ちょっと待ってくれ、観測データーをメインスクリーンに表示させる。」
連宋が端末操作すると神秘的な光景の半分が観測データーと宙域図に置き換わる。
宙域図の中心には恒星らしい物がひときわ大きく表示されその周囲に数多くの惑星が小さな光点で表示された。
そして、そこから少し離れた位置に流彗星号改を示す赤い三角のマーカーと宇宙気流が表示される。
「現在も流彗星号改は宇宙気流の中か……この表示からすると宇宙気流は星系の周囲を大きく流れている様だな。幅はゲート前にあった宇宙気流の二十倍以上か……。」
宙域図に示された宇宙気流は緑色に表示され、恒星と惑星達の周囲に円を描く様に流れている様だ。
その宙域図を見て頷くサバーブにリランドは問いかける。
「サバーブ、宙域図を見て何か納得している様だが、惑星が発見されない理由と何か関係があるのか?」
リランドの問いかけにサバーブは頷く。
「ああ、その通りだ。宇宙気流と惑星が発見されない理由は密接に関係する。……リランド、エリュテイアの名前の由来を覚えているか?」
「確か……『恒星が赤く見えた』だったか?」
「恒星が赤く見えたのは観測地点の前に宇宙気流が流れていたからだ。」
「宇宙気流が?その程度で色が赤く変わるのか?」
「正確には宇宙気流を通る青い光は強く散乱し赤い光は弱く散乱する。だから宇宙気流を通る光は赤く見える事になる。」
「なるほど?それで惑星が観測されない事と何か関係が?」
「……赤い光は弱く散乱するのであって散乱しない訳ではない。光が通る距離が広く観測対象と観測者までの距離が大きく離れていた場合、散乱によって光は届かない。」
「そうか!光が届かない、見えない物は観測する事が出来ないという訳だな。」
「そう言う事だ。おっと、そろそろ目的地の様だぞ。」
流彗星号改は数多くある惑星の一つに移動する。
移動した惑星軌道上には巨大な宇宙ステーションがありそこには数多くの宇宙船が繋がれている様に見えた。