探索業務
サバーブの監察官との話を聞いた連宋が首を傾げる。
「場所により色が変わるか……恒星エリュテイアは変光星には見えないが?」
「ああ、変光星ではないな。違う色に見えるのはもっと別な理由だろう。臨検の監察官によるとジャンプ距離の短い古い宇宙船がジャンプアウトする場所だそうだ。そこは……これは私が調べた資料にもある事だが海賊連中がよく出没する場所らしい。」
海賊と聞き今度はリランドが反応する。
「俺の経験からすると連中はジャンプアウト後の宇宙船を狙う。奴らが出没するのも当然だな。」
「……と言う事はエリュテイアが観測された宙域にジャンプアウトすると海賊に襲われる危険がある訳だが……。」
サバーブはそう言うとリランドの方へ一瞬、視線を走らせる。
「海賊連中が何匹来ようと有象無象と同じ何も問題ない。第一……。」
「「第一?」」
サバーブと連宋の二人がリランドの方を凝視する。リランドは少し首を傾げると二人に問い返した。
「海賊程度がこの流彗星号改の武装に抵抗できるとでも?」
「確かに。」
「うむ。」
納得する様に頷く二人に姿を見ていた監察官達は何かを期待するかの様な表情でお互い顔を見合わせた。
「聞いたか!海賊程度だって!」
「やはり、連邦の英雄はひと味違う。」
「こ、この船なら海賊連中がでるというあの宙域の探索も……。」
「た、確かに!では探索を依頼すれば……。」
「おお!それは良い考えだ!」
盛りあがる監査官を横目にリランドは首を振る。
「盛りあがっている所、申し訳ないのだが俺たちサリーレは探索の業務を受けてはいないんだ。」
リランドの言葉に監察官達の顔に落胆の色が浮かぶ。サバーブは首を振り探索を断ろうとするリランドを制止した。
「まて、リランド。サリーレに探索部門を設立すれば問題は無くなる。それに探索の業務は良い考えだぞ?」
「……そうか!航路の確認も出来て一石二鳥という訳か!」
サバーブ、リランド、連宋の三人はお互いに顔を見合わせ大きく頷いた。
「「「この探索受けよう!」」」
「で、ではこちらの事務所までご足労をお願いします。」
船を下り事務所に戻る監察官の後をサバーブ達はついて行くのであった。
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サバーブ達三人が通された部屋は十二畳ほどの会議室で大きなモニターの前に二つの長机と椅子が縦に並んで置かれていた。机には端末が埋め込まれており、画面にはモニターと同じ画像が映し出されている様だった。
机の前の椅子に座ったサバーブは開口一番
「それで探索して欲しい宙域というのは?」
急に質問を投げかけられた監察官は慌てた様子で端末を操作する。
「こ、これがエリュテイア星系周辺の宙域図です。宙域のこの辺りが探査目標となります。」
監察官は少し長い棒を持ちスクリーンに映し出された宙域図のある一点を指し示した。
「……エリュテイアから十光年という所か……ショートジャンプの距離だな。」
「はい。そうです。海賊がよく出没する宙域を避ける為にショートジャンプの目標にしている宙域でした。最近は海賊の数が少なくなったのでショートジャンプを行う船は激減したのですが、航路の都合上ショートジャンプ行う船がいまして……。ここ一年の間で五隻の船がこの辺りの宙域で行方不明になっているのです。」
「一年で五隻か……多いな。」
「その内一隻はエリュティア星系軍の調査船でして……。」
「調査船が?海賊が原因だとすれば海賊の規模が大きくなるな……。調査船からの通信は?」
「ジャンプ前の通信を最後に連絡はありません。」
話を聞いていた連宋が口を挟む。
「サバーブ、星系軍の調査船ならジャンプアウト地点は判明しているのではないか?」
サバーブは連宋の言葉を聞き監察官に対し目で促す。
「あ、調査船がジャンプアウトした地点は宙域図のEX135.2827、EY34.4011になります。」
「了解。リランド、連宋、ここを中心に調べてみよう。」
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ジャンプアウトした直後、流彗星号改の船橋に大きな振動が伝わった。それと同時に船橋に非常事態を知らせる警報が鳴り響く。
流彗星号改のモニターから座標情報を受け取った連宋が叫んだ。
「大変だ!サバーブ!流彗星号改が流されている!正体不明の力が加わっているみたいだ!」
「何らかの力?連宋、流彗星号の周囲はどうなっている?」
「ちょっと待ってくれ……。」
連宋は端末に指を走らせると流彗星号近辺の情報をメインモニターに表示させた。その表示されたデーターを見たサバーブが驚きの声を上げる。
「流彗星号の周囲に1気圧の窒素78%酸素21%だと?この雰囲気で流されていると言う事は気流、宇宙気流という物だろうか?」