エリュテイア星系
「最初の目標星系は”エリュテイア”だ。」
サバーブの一言で流彗星号改はエキドナ星系から次の星系に向けてジャンプの準備に入る。
流彗星号改のメインモニターに様々な情報が流れ、サバーブと連宋はその準備の為に操作パネルの上で指を忙しそうに踊らせていた。
そんな中、やる事が無くなって一人暇になったリランドが椅子を回転させサバーブの方へ体を向けた。
「で、サバーブ。エリュテイア星系にした理由は?」
「理由か?名前の由来となった”エリュテイア”について調べてみた。そうしたら興味深いことが判った。それが決め手だな。」
「興味深いこと?」
「ジャンプ方向確認……”エリュテイア”は古い言葉で”紅色の女”の意味があるらしい。だが、主星のエリュテイアは紅色ではない、鮮やかな白色だ。」
「色が違うのか?!それは匂うな。」
「だろう?……方向良し。ジャンプカウントダウンに入る。リランド、ジャンプの体勢に入れ。」
「了解。」
リランドはサバーブに対し片手を上げると座席を所定の位置に戻しシートベルトを固定した。
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エリュテイア星系はエキドナ星系に比べ少し太陽系よりにある事と入植可能な惑星を一つ持っていた為、エキドナ星系に比べて多くの人々が住んでいた。
人口に比例して港湾施設が発達しており、イラメカ共和国と比較的近い事もあって観光客を乗せた船が多く訪れている。
その為、観光船を狙う宇宙海賊が数多く出没する事態となっていた。
「……と言う理由で臨検が厳しくなっているらしいですよ。」
流彗星号改のAIであるシルビィは港湾施設への入港を前にサバーブ、リランドや連宋にエリュテイア星系の現状を報告していた。
「臨検か……ま、見たとしても専門家ではないのだろう。臨検に専門家が混じる事は無いし、特に問題は無いと思うぞ。」
リランドは港湾局にいた時、何度も船の臨検を行ってきた。その経験から答えたのだ。
「この規模の船の場合、監察官は最大五人で行動する。わしの経験から言うと船の臨検と言っても見るのは船橋、船倉、機関室の三つが主だろう?だから恐らく三人だな……それにこの船には特に珍しい物はないし時間は掛からないだろう。」
これは連宋が臨検を受けた経験からそう判断した意見だ。二人とも同じ様な内容の答えだったのでサバーブは安堵の息を吐いた。
「どうやらそれほど警戒する必要は無いみたいだな。専門家で無い限り流彗星号改の性能が見破られる事はないだろう。ごく普通に、自然にしていれば問題ないと言う事だな。」
だが、何事も無く臨検を終える事が出来るという考えは数時間後否定される。サバーブは流彗星号の操縦席で苦虫をかみつぶした様な顔でリランドと連宋の二人に尋ねる。
「……リランド、連宋……何故、臨検の監察官がこんなにいるのだ?」
今現在、流彗星号改はエリュテイア星系の臨検を受けていた。
監察官は五人。
しかし、やって来たのは五人だけでは無かった。監察官一人に対し助手が二人、見習いが二人で合計二十五人の男女が流彗星号改に押しかけたのである。
やって来た監察官(とその助手達)は物珍しそうに流彗星号改の中を見て廻っていた。
そして船倉を臨検していた時、査察官の一人が瞠目し声を上げた。
「これが話に聞いていた三騎の機動型強化防護服ですね。変形可能な白。これが“連邦の白い奴”ですか……。」
「主任、遠距離型の青、近距離型の黒も持っている武装が凄い物ですよ。」
「そうですね。遺跡品のレプリカ……これで帝国の野望を阻止したと考えると胸が熱くなりますね。」
他の監察官や助手、見習達も同意する様に頷いている。
サバーブが唖然とした表情でその様子を見ていると監察官の一人が済まなさそうな表情で声を掛けてきた。
「どうも、騒がしくて済みません。有名人が来ると判って皆はしゃいでしまって……。」
元々、有名人が来る事が少ない星系の場合、少し有名な人達が来るだけで騒ぎになる。
サバーブ達は“帝国の野望を阻止した”という超有名人であり、彼らの乗る宇宙船が遺跡宇宙船のレプリカである事は周知の事実であった。
珍しい物見たさに人が集まるのは無理もない事であったのである。
「……ところで質問したいのですが、有名なあなた方がこの星系に立ち寄られた理由は何でしょうか?」
「理由ですか?新規航路の開発に当たって周辺の星系を調査しようとやって来たのです。」
「新規航路の開発ですか……。」
「ええ、それに当たってこの星系に関して疑問点がありまして……。」
「疑問点?私が答える事が出来る問題ならお答えできますが……。」
「何、簡単な疑問ですよ。恒星“エリュテイア”は白く輝くG型の恒星なのに何故、紅色の女と言う意味のエリュティアなのか?と言う事です。」
「ああ、その事ですか……確かに変な話ですけど。命名された当初は“赤い星”のように見えたからですよ。」
エリュテイアが発見された場所、奇しくもその位置はサバーブが調べた海賊の出現位置と合致していた。