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間話:ロイ・カークランドの事情

 ロイ・カークランドは多忙を極めていた。暫定とは言え連邦の大統領になることが内定している為である。

 そんな中でも孫娘のアリシアとの食事は外すことのできない物であった。

 カークランド家所有する惑星上の一角にそのレストランはあり、日頃から多くの観光客で賑わっているが週一度の食事の為に今日は貸し切っていた。

 ロイはレストランの中でも一番展望の良い席で孫娘のアリシアと向かい合わせの席で食事を楽しみ歓談していた。


「ふむ、なるほど、サバーブ君達は新しい航路の開拓に出かけたと……。」


「はい。私としては少しさみしい気持ちもありますが……。」


「そうか……それで、サバーブ君達、サリーレは大丈夫なのかね?私個人としても支援をしてやりたい所なのだが……。」


「暫定とは言え連邦の大統領だからですか?お祖父様?」


「そうだ。彼らを支援する事は連邦の権力を私的に流用していると取られても仕方が無いだろう。これは悪しき伝統を作る事になりかねない。確か太陽系の古い言葉で……何と言ったか……。」


「”李下に冠、瓜田に靴”ですね。」


 アリシアの言葉にロイの頭の奥にしまわれていた本の一ページがはっきりと思い出された。


「スモモの下で冠を触る、瓜畑の中で靴を直す。官僚たる物、人に疑われる様な行動を行ってはいけないのだよ。」


「物事は最初が肝心……と言うことですね。」


「そうだな。」


 ロイはそう話すと口の中が乾いたのかワインを口にする。その向かい側でアリシアは軽くため息を吐いた。


「でも反物質の暴落さえなければ……サバーブ様やその友人方も運がよろしくないですね。」


 そう呟くアリシアの言葉に対してロイは首を横に振った。


「アリシア、私はむしろ運が良いと思うよ。我々も含めてね。」


「え?」


「少し考えてみようか……もし仮に反物質の暴落が無い場合はどうなるのか?」


「暴落しなかった場合ですか……反物質は次世代のエネルギーとも言える物です。そしてそれを私たちカークランド財閥やサリーレで独占しているので会社としての収益は莫大な物になります。」


「問題は一企業、しかも小さな企業が次世代のエネルギーを独占販売・・・・している事だ。あの時点でカークランド財閥も後始末に忙しく販売に手を出していなかったからね。当然、サリーレでだけで独占販売しているとなると各方面からの干渉が多くなる。」


「……お祖父様はサリーレが販売権を取り上げられる恐れがあったとお考えでしょうか?」


 ロイはアリシアの言葉に大きく頷いて見せた。


「間違いなく連合政府や各星系が軍を使ってでも強制徴収しただろう。」


「強制的にですか?軍を使うと言っても彼らには流彗星号、隔絶した性能の宇宙船があるのですよ?」


「アリシア、超高性能の宇宙船とは言え戦略に於いては個人の力に等しい。戦術に於いては個人の力が覆す事はあるが戦略に於いて個人の力が戦局を覆す事は無いよ。軍に対抗する為に流彗星号を使ったとしよう。そうなると最悪”宇宙海賊”と見なされるだろうね。」


 軍などの大きな力の前ではどの様に優れた物であっても無力であるというロイの言葉はアリシアに重く響いた。そのまま黙ってしまったアリシアにロイは優しく声を掛ける。


「アリシア、反物質で出来た恒星と言う物は個人の手には余る物だ。例えそれが会社でも同じ事。あれは人類全てがその恩恵を受ける物だ。彼らが見つけた物はあまりにも大きすぎた宝なのだよ。」


「……大きすぎた宝……それはカークランド財閥であっても……でしょうか?」


「ああ、そうだ。現にカークランド財閥にも売却の話があったぐらいだ。」


「そうなのですか、初耳です。」


「その後すぐにイラメカ帝国との戦争が始まってしまったからね。戦時徴収されない様にするのが精一杯だったよ。」


 反物質が彼らの手から離れるのは時間の問題であった。

 しかし、イラメカ帝国との戦争の影響で各星系がサリーレを通さずに反物質を手にすることが可能になり強制徴収の可能性は消えた。

 ロイ・カークランドの言う通り彼らは運が良かったと言える。


「次は未知の航路か……一体何を見つけてくるだろうね。」


「……今度も手に余る様な物でしょうか?」


「恐らく……彼、いや彼らはその様な星の下に生まれているとしか思えないよ。」

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