未知の航路に向けて
エキドナ星系は辺境の星系であり人類星系連邦の中では太陽系から最も遠く離れた位置にある。イラメカ共和国や蓬莱共和国の宙域に近いと言える場所だ。
しかし、近いと言ってもあくまで直線距離で近いだけでイラメカ共和国や蓬莱共和国の宙域へ移動する為には遠回りを余儀なくされていた。
と言うのもイラメカ共和国や蓬莱共和国とエキドナ星系を結ぶ直線上の宙域に未踏宙域が存在する為である。
”宇宙のサルガッソー”、サルガッソー宙域。
遠い昔に地球上に存在した船の墓場と言われた場所の名前がついているこの宙域はその由来どおり探索に向かった七隻の宇宙船全てが未帰還になっている。
また、周辺宙域の星間物質の濃度が高く宙域外からの観測では何が存在するのかはつかめない場所でもあり、宙域図のサルガッソー宙域は空白のままであった。
出発に際してサバーブ達は空白のある宙域図を前に額を合わせながら流彗星号改の運航計画を練っていた。
「やはり直接横断する前に周辺の遺跡を確認するべきだろうな。リランドはどう思う?」
「……こうして現在判っているゲートの位置を表示させると何かあるとしか思えない配置だな。」
サバーブ達の前に映し出されている宙域図には現在判明しているゲートの位置が表示されていた。
その位置は規則正しく網の目状に配置されており、サルガッソー宙域の部分だけ不自然に空白になっている状態であった。
その事に対して連宋は流彗星号改のAIであるシルビイに尋ねた。
「シルビィ。サルガッソー宙域のゲートが反応していないのはどういう訳だ?」
「それは簡単です。単純に発見していないからです。」
「……だそうだ、どうするサバーブ?」
連宋に尋ねられたサバーブは両手を頭の後ろで組むと座っていた椅子にもたれかかった。
「“未発見”と言うことはゲートが存在すると言うことか……だが、その地点へ直接移動するのは流彗星号改をもってしてもリスクは大きい。」
サバーブの言葉にリランドも首を振って同意する。
「確かにそうだな。未知の危険か……宇宙海賊連中なら簡単なんだがなぁ……。」
「確かに宇宙海賊なら問題にならないな。……と言うことは……。」
サバーブは端末を操作すると宙域図にいくつかのマーカーを追加する。
「……これが遺跡の位置と宇宙海賊のよく出没する場所だ。」
「ほう!見事に遺跡の位置と重なっているな。ん?この場所には遺跡は存在しないのか?」
リランドが宇宙海賊のマーカーの一つを指さす。
「……エリュテイア星系の少し先の宙域だな。たしか遺跡があるとの噂があったな。」
「ほほう。」
サバーブの言葉を聞いたリランドは子供が見たら泣き出す様な凶悪な笑みを浮かべる。その隣で連宋は別のマーカーを指さした。
「ではサバーブ。こちらの海賊マーカーも、もしかして?」
「オルトロス星系か……遺跡の噂はないがもしかしたら存在するのかもな……。」
「となると候補は二箇所、わしはどちらでも問題ない様に思えるが……サバーブはどう考える?」
連宋の言葉に対しサバーブは腕組みをしながら眉間に皺を寄せ深く考え込んでいる様だった。そして大きなため息を一つ吐くと口を開いた。
「少し考えさせてくれ。そうだな、出発までには考えをまとめる。」
するとリランドが困難な案件が解決した時の様な笑みを浮かべるとサバーブの肩を叩いた。
「了解!では次の目標はサバーブの考え通りと言うことで……。」
「うむ。わしもそれで問題ないな。」
連宋もリランドと同じ様にサバーブの肩を叩く。
「おいおい、それじゃ私の責任重大じゃないか。リランド、連宋、お前達二人の考えはどうなんだ?」
「俺はどちらでも良いし。」
「わしもリランドと同じだな。」
そしてリランドと連宋はお互いに顔を見合わせるとサバーブの方へ顔を向けた。
「「じゃあ、ヨロシク!」」
「……まったく仕方が無いな。」
最終的な決定をサバーブが行うのは今に始まったことではない。三人が選択に困った時の習慣の様な物だ。
「さっきも言ったとおり出発までにどちらに向かうか決めておく。出発は三日後、遅れるなよ。」
「「了解!」」
かくして流彗星号改は未知の航路に出発した。