間話:サリーレ本社にて
サリーレ本社はエキドナ星系の惑星ハイドラを周回する大型宇宙港レルネー1の一等地にある。
通常、宇宙港の一等地と言えば超一流財閥が使用する区画なのだが、エキドナ星系は人類星系連邦でも辺境に位置する。
その為、一等地でも利用価格は連邦の中心地である惑星エギルの百分の一以下と言う安さである。
利用価格が安い事もあって周辺にも各商業施設が立ち並ぶその中心に三百階建ての白亜の塔の様にそびえ立つのがサリーレ本社ビルであった。
元々この場所はレルネー1の中でもハズレの位置だった。
サリーレも当初は小さなビルだったが、会社の規模が大きくなるにつれて本社ビルも大きくなっていった。
しかし、この場所にサリーレの本社ができた(あった?)事で最新の港湾設備が作られ、それに伴ってトレーダー協会が移転してきた。
すると協会に倣うかの様にレルネー1のいくつかの施設が移転もしくは支所が建てられる。サリーレが定期的に反物質を納入する事と相俟ってその数はどんどん多くなっていった。
やがてサリーレ周辺はレルネー1の第2港と呼ばれる様になったのである。
サリーレ本社ビルの方も設立当初の仕事、星系探索や物資輸送だけならこの様に大きく高い建物は必要ない。
サリーレは食品(宇宙レンバス)から輸送船(レプリカ流彗星号輸送船版)まで様々な物を扱う総合商社化しつつあったからである。
サリーレ本社ビルの中は中空になっており、低重力環境を生かしてその中空を高速で移動できる移動エリアになっていた。
中空エリアは安全の為、30m毎に休息エリアがもうけられており何人かの社員は休憩時間だろうか、そこで寛いでいる様である。
その休息エリアを抜け更に上に向かうと最上階、サリーレ本社の意思が決定される場所である社長室があった。
社長室には円卓とも呼ぶべき白く大きな丸テーブルがあり、そのテーブルの周囲には八脚の椅子が均等に並んでいる。
丁度リランドが肩を落としていた頃、キャサリンは椅子の一つに座り流彗星号改からの報告を受け取っていた。
流彗星号改からの報告はサバーブ達からの報告ではない。流彗星号自身であるシルビィからの報告である。
キャサリンは報告を読み終えると同じ様に椅子に座る二人、アリシアとレイチェルの方を向いた。
「報告書のよるとリランド達はリゾート惑星群の中継ステーションを手に入れたようね。これは大きなビジネスになるわ。アリシアもそう思わなくて?」
「はい、私の試算によりますとリゾート惑星群を訪れる観光客の数は年間一千万人が見込まれ、近隣からの送迎だけで2千億Crの収入が見込まれます。」
アリシアの返答にレイチェルは大きく頷き感心した様に言葉を発した。
「あっさり借入金が返せる額ね。でもそれだけの事業展開が可能なの?」
「我々サリーレが保有している宇宙船だけでは不可能です。保有宇宙船を増やす事も重要ですがこの商機を逃さない為にも一部港の貸し出しも考慮すべきであると思います。」
宇宙港を貸す上でメリットとデメリットがある。
メリットは送迎用の宇宙船が無くても収入を得る事が出来る。デメリットは同じ様に送迎をしている場合、相手の事業規模によっては自分達の送迎事業が割を食う事になる。かといってサリーレの保有する宇宙船でその需要が賄えるかというと不可能なのだ。
キャサリンは人差し指を軽く動かしながら熟考する。
「……ビィちゃん。送迎用の宇宙船を早急に作るとして時間はどのくらい掛かるのかしら?」
キャサリンはシルビィと会話を行う為に少し顔を上げs腰高い位置に目を向ける。するとキャサリンに返答する為か中空にシルビイの姿を映し出したモニターの画面が浮かぶ。
「送迎用の宇宙船ですか?送迎人数と船の数にもよりますが?」
「送迎人数は二百人、船の数は二十隻かしら?武装は軽い物で良いわ。そうね……。」
キャサリンは軽く指を動かし端末の画面を出現させると宇宙船を作る上で必要な項目を選んでゆく。
「……その仕様でしたら約半年で出来ますね。費用は総額で五百億Crですね。」
「レイチェル?」
「問題ありません。その為の内部留保です。」
レイチェルの言葉にキャサリンとアリシアは大きく頷く。
「ではその方向で。」
「受理しました。送迎用宇宙船の製作を開始します。宇宙船の外観はやはり流彗星号と同じ姿で?」
流彗星号と同じ姿と聞きキャサリンは首を横に振る。
「それは駄目ね。あの宇宙船の姿では送迎用には向かないわ。早急に別の形を考えるべきね。案は無いのかしら?」
「了解しました。後ほどサンプルを何隻か送ります。」
「ではそのサンプルを見て決めましょう。それから後は……ビィちゃんよろしくお願いね。」
キャサリンはシルビィとの会話を終えるとアリシアやレイチェルの方へ向き直った。
「では、次の議題、我が社の男女性比率の不均衡、女性比率の高さについて……。」
以降、”続々、三匹が宇宙をゆく!” へつづく。




