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初心に返る

 一同が沈黙する中、腕を組みしながら何か思いついたのかサバーブが口を開く。


「……私たちがサリーレという会社を持てる様になったのは何故だ?」


「確かあの時は流彗星号をどうするかで俺たちはなす……譲り合っていたんだよな……。」


 リランドは思い出す様に答えると机に突っ伏していた連宋がそれを補足する。


「それを考えると遺跡で入手した流彗星号をミカエルさんからボーナスとしてもらったから?」


 二人の言葉を聞きサバーブは大きく頷いた。


「そうだ。私たちが会社を設立できたのは流彗星号という遺跡宇宙船を手に入れたことが大きい。所謂一攫千金という物だな。」


「一攫千金……そうか!俺たちで又新たな遺跡を見つけることが出来たら……。」


「うむ、わしらの借金の返済の目処はつく。そうだろう?サバーブ?」


 なんとなく希望が見えたのか連宋は顔を上げながら答えた。しかしサバーブは遺跡を見つけるという言葉に機微を振って応えた。


「そうじゃない。第一、遺跡というのは狙って見つけることが出来る物ではない。それに遺跡自体の出土品が借金返済の足しになるのかは不明だ。」


「ではどう言う事だ?」


 リランドが首を傾げてサバーブの方を見た。


「私たちは誰も行ったことのない場所、未知の場所に行った事で遺跡を見つけ流彗星号を得たに過ぎない。」


「未知の場所……誰も行った事のない場所……。」


「……そして、その先には……まさか!?」


 リランドや連宋の反応を見ていたサバーブはニヤリと笑う。


「リランド、連宋、先ずはこれを見てくれ。」


 サバーブが自分の端末を操作すると会議室のモニターに人類が到達した範囲の宙域図が映し出される。


「簡易宙域図か……。」


 モニターを眺めるリランドを横目に映し出される宙域図にサバーブは線を書き込んだ。


「これが未知の場所へ行く道。私は行ったことのない”蓬莱共和国”星系への新規航路を見つけるべき何だよ。」


 サリーレを倒産の危機から救うサバーブの提案は新規航路の開拓であった。そのサバーブの提案に連宋が疑問を呈する。


「だがサバーブ。この航路だと正に未知の宙域。どんな危険があるか判らない”宇宙のサルガッソー”と呼ばれる場所も通る航路ですよ?大丈夫なのか?」


「”宇宙のサルガッソー”か……宇宙船の墓場とも言われる場所だな。数多くの宇宙船が行方不明になっていると言う話だ。」


 リランドが思い出した様に呟くとサバーブの方へ顔を向けた。


「そうだ。数多く……普通・・の宇宙船が行方不明になっている場所だ。」


 サバーブの言葉を聞き脳裏に何か閃いたのかリランドと連宋はサバーブの方へ詰め寄った。


「そうか!俺たちの船、流彗星号改は普通・・の船ではない!」


「ああ、わしらの船、流彗星号改なら”サルガッソー”も物ともしない!」


 サバーブ、リランド、連宋の三人は腕を突き出すと固く握手する。


「「「やってやろうぜ!」」」


 大きな声で笑い合う三人の後ろでキャサリンはじっと彼らを見つめていた。


(相変わらず無茶なことを考える人達ですね。この事は他の二人に相談が必要ね……。)


 増えるだろう業務を想像しキャサリンは軽くため息を吐いた。


 ---------------


「……と言うのがこの間の会議のあらましになります。」


 サリーレの取締役会議の翌日、全く同じ場所に三人の女性、キャサリン、レイチェル、アリシアが顔をつきあわせていた。

 彼女らの会合は一般には婚約者会議として認識されているが実際はサリーレの財務を握り会社の屋台骨を支えている者達の会議である。

 議長役を務めるアリシアが最初に口を開く。


「お二方、急な会合にお集まりいただきありがとうございます。特にレイチェル様は大変な時期だと言うのに……。」


「問題はありません。今は安定期に入っています。それで?取締役会議で決まったことは何でしょう?」


 大きくなったお腹を少しさすりながらレイチェルはキャサリンの方を向いた。キャサリンはレイチェルの言葉を受け机の中央に置かれた端末に会議の情報を表示させた。


「取締役会では現状の改善策として”流彗星号改による新規航路の開発”となりました。」


 アリシアは会議の情報を精査すると少し首を傾げた。


「キャサリン様、この情報では流彗星号改が廉価品と言うことで価格が非常に安価になっています。仮に廉価品でない場合は?」


「廉価品で無い場合は想定できないのです。シルビィちゃんによると流彗星号を売却した場合、権利放棄と見なし未公開機関の機能を停止し分解処理になるそうです。」


「残るのは公開されて情報に基づく機関だけ……だから廉価品ですか……。」


「ええ、その上、未公開機関にはシルビィ自身も含まれます。」


「「!」」


 キャサリンの言葉はその場に居合わせたアリシアとレイチェルを十二分に驚かせた。


「……実質売却不可と考えた方が良いでしょうね。」


「はい。」


「反物質の売買などでは現状維持。そうなると会社の業績を上げるには”流彗星号改による新規航路の開発”、そしてこれが何処まで現実的な案なのかと言う事でしょうか?その辺りはどうなのでしょう?レイチェル様?」


「……そうですね、トレーダー協会の判断では実現不可能となっています。理由は……。」


 レイチェルが端末を操作すると画面に各種表の様な物やグラフ、周辺の宙域図が映し出された。」


「今までに新規航路開発の目的で探索に出かけた船は七隻。これらは全て未帰還になっています。」


「七隻が未帰還……辺境とは言え結構な数ですね。」


「はい。しかしこれらの船は通常の探索船や貿易船です。流彗星号改は廉価宇宙船と言う事になっていますので通常の宇宙船より少し性能が良いぐらいと評価されています。」


「では少し良い性能では無い流彗星号改はでは?」


「流彗星号での探索なら実現の可能性は七十%。当然、それ以上の性能である流彗星号改はそれ以上かと……。」


「分の悪い探索では無いと言う事ですか……さてどうしましょうか?」


 アリシアは少し考えに耽る。

 彼女から見ても成功は十分見込める探索だ。それにサバーブ達なら成功率が低くても探索に出かける事は十分予測できる。


「私たちはサバーブ様達が気兼ねなく探索できる様に手はずを整える……でよろしいでしょうか?」


「そうね。今更言って聞く連中ならそもそも探索なんて考えないわよね。」


「はい。キャサリンさんの言うとおりです。わたしもそのつもりで動いていましたから。」


 この日、影の取締役会議(財務相会議とも言う)で流彗星号改での探索が決定された。

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