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ラストダンジョン

 地上に降りた真っ赤なゴーカートの周囲にはいつの間にか数人の人達が両膝をつきシルビィを拝んでいた。


「神竜の巫女じゃ、神竜の巫女様がご降臨なされた。」

「おお!神竜の巫女よ!」

「ありがたや、ありがたや……。」


 シルビィを周りで拝んでいるのは白髪の老人が大部分を占めている。彼らだけでは無く、明らかに若く顔立ちの整っている人、町のNPCの姿もちらほら見える。

 どうやら彼らは空中に現れた流彗星号を確認する為にやって来たのだが、流彗星号から降りてきたシルビィを見て神竜の巫女と勘違いしている様だった。

 その様子を見たサバーブは軽く溜息を吐く。


「予想外に……いや、予想通りか?」


 リランドは腕を組みながらシルビィを無遠慮にじっと眺める。


「うむ……コマーシャルの撮影時と同じ顔をしているな。と言う事はまんざらでも無いのか?」


 連宋はリランドの言葉を聞くと大きく頷いた。


「言われてみれば口元が緩んでいなぁ。まんざらでも無いのか?ビィが来たのは良いとして、あの様子だとしばらく時間が掛かりそうだな。」


 連宋の予想通り、シルビィがサバーブ達の元にやって来たのは降下して一時間以上経ってからの事だった。


 ---------------


 シルビィはやって来るなり開口一番


「モテすぎるのも考えものじゃのう……。」


「お前はどこかのせんべい柔道家か!」


 シルビィに対し容赦の無い突っ込み(空手チョップ)が連宋から入る。サバーブは二人の間に割って入ると真剣な表情でシルビィを見た。


「……ところでシルビィ。ここへやって来たと言う事は脱出の算段がついたと言う事で良いのだな?」


「うむ!……と言いたい所だが実際はそう簡単な事では無い。今の状態ではこの惑星から離脱すする事さえ出来ない。」


「離脱が出来ない?それは流彗星号改の性能が制限されていると言う事か?」


「大気圏離脱と言う事であればYes。流彗星号改の性能と言う事だけならNoだ。」


 シルビィの説明によると流彗星号改は大気圏離脱が出来ないだけで、その性能は十二分に発揮できるのだそうだ。

 話を聞いていたリランドは少し不満そうな顔をしながらシルビィに尋ねる。


「……とは言った物の流彗星号改は宇宙船だからな。ところで俺の強化防護服アーマースーツは普通に使えるのか?」


「それは問題ありません。ラストダンジョンへ挑む最終装備として登録しています。」


「ああ、最終装備ね……って、ラストダンジョン?何故ラストダンジョンが関係する?」


 リランドは鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をした後、猛烈な勢いでシルビィに詰め寄った。


「それは私がこの場所に転移できた理由と関係する。そもそもこの惑星がどんな惑星か判っているのか?」


 そう言うとシルビイはサバーブ達の考えを確かめる様に顔を見廻し眺める。

 リランドは今ひとつ判っていない様子であったが、連宋とサバーブには何か思いつく事がある様だった。

 そしてサバーブが何かを確かめる様にゆっくりと口を開いた。


「……それはこの惑星が娯楽を提供するリゾート惑星と言う事か?」


「うむ。その認識で間違いない。……ここでは少々手狭だしパネルも無い、続きは船に戻ってからしよう。」


 サバーブ達が周囲を見廻すといつの間にか村人が取り囲み、今度はサバーブ達を含めて祈りを捧げている様だった。


「神竜の巫女と伝説の戦士達じゃ……。」

「ありがたや、ありがたや……。」

「……。」


 その様子を見たサバーブ達は肩をすくめ再び軽い溜息を吐く。

 そんな三人を横目にシルビィが上空に向かって手を振るとそれに呼応するかの様にゆっくりと流彗星号改の大きな船体が村はずれの広場に着陸するのであった。


 ---------------


 流彗星号改に戻ったサバーブ達は船橋ブリッジの自分達の座席に着くと体を伸ばし寛いでいた。

 出発してそれほど時間は経っていないのだが、未知の遺跡探索という緊張した時間を過ごした為か三人の顔に少し疲れが見える。

 連宋は自分の座席で凝った体をほぐす様に大きく伸びをする。


「やれやれ、今日の宿はどうなる事かと思ったが、流彗星号改ここに戻ってこられて一安心だ。」


「一安心?それは早計という物でしょう。」


 緊張がと行けて気が抜けている様に見える三人にシルビィが歯に衣を着せぬ発言を行う。

 その言葉を受けてサバーブは眉根を寄せて真剣な表情をする。


「早計……それはこの惑星から離脱できない事やラストダンジョンとやらと関係しているのか?」


「然り。この惑星はリゾート惑星と言ったと思うがこの惑星は体感型RPGを実査に楽しむ為の惑星なのです。」


 RPGと言う発言を聞いて連宋が口を挟む。


「RPGと言うとドラゴンを倒したりダンジョンを探索したりするあれか?」


「そうです。この惑星、冒険惑星サバイブは惑星を巡り、各ダンジョンを攻略してラストダンジョンに挑む。そしてラストダンジョンのボス、マンキーヤードを封印して攻略完了となります。」


「封印?倒すのでは無くて?」


「設定上は一応神ですので……”封印”か”打倒”かと聞かれた時は”封印”を選ぶ事を推奨します。もらえる物に武装”大地の槍”が増えますので……。」


「大地の槍……何か凄そうな槍だな。それは何処で?ここか?」


「いえ、ここではありませんね。海流渦巻く地で大海流に呑まれ流された先にあるダンジョンを攻略すると手に入りますよ。」


「流される事が前提かい……まぁ、わざわざ取りに行く暇はないか……話がそれた悪い。」


 連宋が軽く頭を下げ謝罪するとシルビイはそれを受け入れるかの様に頷く。


「……では話を戻します。このサバイブではラストダンジョンに向かう為の乗り物はいくつか存在し、その一つはプレイヤーが持ってきた船です。私は最終の移動手段としてサバイブに登録されており、登録のおかげでラストダンジョンへ移動する事が出来るのです。」


「?」


 シルビイの言葉を聞いていたリランドは首を傾げて疑問符を浮かべた。


「従って登録が解除、つまりラストダンジョンを攻略しないかぎり登録が解除できないのでこの惑星から離脱できないという訳なのです。」


「「「な!なんだってっ!」」」


 異口同音にサバーブ達三人の声が船橋ブリッジに響く。現状を考えたサバーブは少し唸りながら腕を組む。


「……これは大変な事になった様だぞ……。」


 ---------------


「……と思った時が私にはありました。」


 ぽつりと呟くサバーブが操る強化防護服アーマースーツの足下には巨人と見紛う人が土下座の姿勢で慈悲を乞うていた。


『お願いです!何卒、何卒ご勘弁ください!』


「ラスボスは一応”神”という設定だったとわしは記憶しているのだが……。」


 連宋は頭を掻きながら少し残念そうな顔で戦闘前のラスボスの姿を思い出していた。

 ダンジョン最下層まではモンスターとの戦闘は一切無くラスボスの部屋の前までやって来ると部屋の入り口には重厚で豪勢な作りの巨大な扉があった。

 扉は非常に大きく、強化防護服アーマースーツが並んでも楽に通行できる幅や高さがある。サバーブの強化防護服アーマースーツが扉を開くと、その先には漆黒の絨毯が玉座まで伸びていた。

 玉座には身の丈が5mはあろうかという巨人が座っていた。

 その巨人は部屋に入ってきたサバーブ達を確認するとゆっくりと立ち上りながら語り出したのだ。


『‥‥やっと来た‥この日が‥‥。』


 その姿を見たリランドはサバーブに耳打ちする。


「おい、何か語り出したぞ……。」


「連宋、これは一体?」


「ああ、ラスボスの語りというヤツだね。終わるまで攻撃してこないよ。」


「攻撃してこないのか……。」


 連宋の話を聞いたリランドが少し首を傾げながら手に持った荷電粒子砲プラズマカノンを構える。


『私のただ一度の敗北!ゴミの様な人間に神が……』


 話を続けるラスボス”マンキーヤード”にリランドの放った荷電粒子砲プラズマカノンの光が襲いかかる。


『1000年の間この辱めに耐えて……ぐぉっ!何をする貴様ら!』


「お、効いているぞ。サバーブ、連宋、たたみ掛けるぞ!」


「「了解!」」


 リランドに続いてサバーブと連宋の強化防護服アーマースーツから光子騎兵銃フォトンカービンの無数の光が襲いかかる。

 両者ともリランドほど射撃の腕が良くない為か命中するのはその半分にも満たないが威力は十分な様だった。


『だが、今日でそれもおわ……。やめろ!やめろ!攻撃を止めろ!』


「良いぞ!サバーブ、連宋!効いているぞ!」


 リランドはそう言うと荷電粒子砲プラズマカノンの引き金を引き絞る。


『お前達を葬り去り……うわぁぁぁ!剥げる!剥げる!』


 そして硬質の何かが砕ける様な甲高い音がすると光の嵐が”マンキーヤード”が立つ場所を埋め尽くす。


『あの敗北がエラる……ぐおおおおお、かくなる上はっ!』


 次の瞬間、周囲を震わす様な轟音が響き渡り辺り一面に砂塵が舞い上がる。


「ん?何だ?打ち方止め!」


 濛々と巻き上がった砂塵が晴れた後には、両膝をつき両掌と額を地面につけ許しを請う巨人マンキーヤードの姿があった。


『何卒ご勘弁ください!』


 サバーブ達は巨人の異様な態度にしばらくの間言葉を失っていた。

 荷電粒子砲プラズマカノンを構えたリランドはサバーブと連宋の方を見る。


「……どうする?」


「どうすると言ってもなぁ……。」


 巨人の処遇を尋ねられたサバーブは光子騎兵銃フォトンカービンを構えたまま考え込む。

 それを見た連宋が


「だが、これを倒さ……封印か?どちらにしても何とかしないとこのゲームは終わらないのだろう?」


『そ、それでしたら私が残りの台詞を言えば自動的に戦闘判定に入り、


 考え込んでいたサバーブが巨人に尋ねる。


「どの様な台詞だ?」


『……僅かな傷を拭い完全復活を遂げるのだ?』


 巨人が最後の台詞を言い終えた瞬間、辺りを白い光が包みこむ。

 サバーブの目にはあまりにもまばゆい光で側に立っているはずのリランドや連宋、巨人の姿を確認する事が出来なかった。

 そしてその光が晴れたると何処か判らない小島に三人で立っている事に気がついた。


「何処だ、ここは?」


 ―――――――――――――――

 ラストダンジョン最下層の部屋で巨人が安堵の息を吐いた。


『ふぅ、何とかなったか。ナノスキンが剥がれ始めた時にはどうなるかと思ったよ。』


 そしてゆっくりと立ち上がると辺りを見廻す。

 先ほどまでの戦闘(一歩的な砲撃)の跡は既に無く、いつも通りの通路がそこにあった。

 巨人はいつもの通り玉座に戻り腰を下ろすと首を傾げた。


『一体何だったのかな?あれは……。プレイヤーの武器に荷電粒子砲プラズマカノンは登録していないはずだが……。』


「あれはわたしが強制的に割り込ませてもらったからだ。済まなかったな。」


 首を傾げる巨人に扉の影から声を掛ける者がいた。柱の影から出るその姿見た巨人は驚きの声を上げる。


『あなたは一体?一体何の用で?』


「……何、ちょっと聞きたい事と、命令モジュールを持ってきた。」


 声の主はその小さな手に握られたモジュールを巨人の方へ差し出した。

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