神龍召喚
最終迷宮の文字を見た現地人のユキチは一人大騒ぎをしている。サバーブはそんなユキチをいぶかしげに見た。
サバーブにはユキチが言った”久しぶりの異邦人”の言葉が頭隅に引っかかっていたのである。
(ユキチが言った久しぶりと言うのはいつの事だ?私達の感覚から言うと一、二年といった所なのだが……。)
「ユキチさん、あなたは今久しぶりの異邦人と言ったが前に我々のような者が来たのはいつの事なのだ?」
サバーブの言葉はユキチの顔に影を落とす。だが次の瞬間、何事も無かったかの様にユキチは話しだした。
「前に来たのは……わてがもう少し二十代の頃やから十年前やね。」
このユキチ、見た目通り三十代後半の様だ。見た目通りの年齢なのは老化防止薬を一切使ってないからだろう。
「十年も前なのか……と言う事は直近の利用者は十年前、おそらくスカイスター号の生き残りだな。で、ユキチさん、その来訪者は何人で今もいるのか?」
「やって来たんは一人やで。そやけど、もうおらん。怪我が惨かったのもあるけど、生きる気力が無くなったんか死んでしもうたんや……。」
(死んだ……だが、これは無理もない事かもしれない。いきなり見知らぬ場所に飛ばされ装備が消滅。帰るあても無い。これは未来に絶望したのかもしれないな。しかし怪我か……なぜ致命傷を負う様な怪我をしていたのだろうか?)
サバーブは腕組みをすると考えを巡らせる。するとユキチが当時を思い出したかの様に呟いた。
「……あの人もちゃんと冒険者登録をやってれば怪我をしても死ぬ事も無かったんやけどなぁ……。」
その言葉にサバーブは何かの引っかかりを覚えた。
「ユキチは怪我の原因を知っているのか?」
「ん?ああ、前の来訪者が怪我したんは試練の迷宮へ行ったからやで。そこで出てくる魔物は何とかなったけど、罠に引っかかったんや。普通やったら迷宮から出た時に怪我が治るんやけど……彼女は冒険者登録をしてなかったら怪我がなおらへんかったんや。」
サバーブはユキチの口から信じがたい事が出た為、思わず尋ね返した。
「迷宮から出ると怪我が治る!?」
驚きの声にリランドと連宋も何事かと注視する。
「そや。だから迷宮で死なんかぎり大丈夫なんや。けど。冒険者カードが無いと……。」
「無いと……。」
「死んでしまう。光になって消えてしまうんや。」
ユキチからの意外な答えにサバーブ達三人は異口同音に口を開いた。
「「「はい?光になって消える?」」」
「そや……迷宮で死ぬのと同じ事がおきたんや。ただ迷宮で死んだ場合、装備が全てなくなった上、冒険者ギルドの前に復活するんや。でも能力も著しく下がり今までと同じ様に探索できん様になるんや。だから迷宮で死ぬのはタブーなんやで。」
ユキチの言葉を聞いたサバーブ達三人は唖然とした表情になると体の力が抜けたのかその場に膝をついてしまった。
そして、サバーブ、リランド、連宋は愕然とした表情のまま口を開く。
「……何てことだ……。」
「くっ!罠だったか!」
「……この連宋、一生の不覚!」
三人の落ち込み様に何が理由なのか判らないユキチは右往左往する。
「なんや、なんや、なんや?折角最終迷宮へ行けるのに何で落ち込んでるんや?」
慌ててサバーブ達の顔を見廻すユキチの肩に連宋がそっと手を置く。
「ユキチ君。これは”誤セーブ”をしてしまって落ち込んでいるだけなんだよ。」
ユキチが他の二人、サバーブとリランドの方へ顔を向けると二人は同意する様に頷いた。
状況をまるで理解できていない(当然だが)ユキチを横目にサバーブ達は額を付き合わせ今後の方針身を話し合う。
「とりあえず誤セーブは置いておいて、上に戻る方法だが……。リランド?」
「俺が思うにここのクリアー、迷宮の攻略しか無いだろう。なあ、連宋。」
リランドの言葉を受けて連宋は大きく頷く。
「わしもリランドと同じ考えだ。サバーブ、確か最終迷宮へ行けるんだよな?」
「ああ、神竜を召喚すると行けるらしい。召喚するか?神竜?」
「召喚か……だが、俺にはすごく嫌な予感しかしないんだよな。」
「それは私も同じだな。」
サバーブが同意する隣で連宋も二三度頷く。
「ともあれ召喚するのにこの場所は狭いだろう。……ユキチさんこの近くに大きく開けた場所はないかね?」
「あ、それなら……。」
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サバーブ達がユキチに案内された場所は冒険者ギルドの建物の裏側にある大きな広場だった。
その広場は細長い幅広の道路の様に見え、道の中央には白い線が広場の端まで引かれている。そして、その先は大きな湖になっている様だ。
「……よし。ここなら十分な大きさだろう。」
そう言うとサバーブは自分の冒険者カードに表示されている”神竜召喚”の文字に触れる。
すると目の前の広場の上空に虹色のゲートが開きそこから見覚えのある機体が姿を現した。
「ふはははは!またせたな諸君!」
その機体から両手を腰に当て胸を張り得意げな顔をする幼女が真っ赤なゴーカートの上に仁王立ちしながらゆっくりと降りてきた。




