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ユキチ・タンバ

 ユキチ・タンバは試練の迷宮近くにある人口五十人足らずの小さな村で生まれ育った。

 祖父母、両親ともこの村の出身だ。

 祖父母の前、もう死んでしまった曾祖父母は別の場所から来たらしいのだがよく判らない、父母の話によると来訪者だったらしい。


 村には作物を作る畑はあるのだがそれで全ての村人を食べさせるほど収穫出来る訳では無い。

 その為、村では冒険者登録が出来る様になる五歳の頃から迷宮に潜る事を義務づけられている。

 迷宮には様々な魔物が出て倒すと土色や銀色の円盤石を落とす。これは魔石と言われ、その石を交換屋に持って行くと食料などと交換してくれるのだ。

 その為、村の大人達は男女問わず迷宮に潜るのである。


 また村では登録が出来る様になるまで迷宮に潜る事は禁止されていた。

 これは登録せずに迷宮に潜るとそこで受けた傷が治らないからだ。冒険者登録さえすれば致命傷を受けないかぎり助かる可能性はある。


 ユキチは他の子供達と同じく五歳の頃から迷宮に潜っていた。

 迷宮は一層目なら小さな子供でも対処できる魔物が出現する。二、三層でも慣れた大人なら怪我をする事はあっても致命傷を受ける事は無い。その為村のほとんどの者は一から三層で魔物を倒していた。

 朝早く起き食事をすると迷宮に向かう。

 魔物をお倒しながら一層から三層を移動し再び一層目にある入り口に戻ってくる頃には夕方になる。

 迷宮から出ると交換屋で必要物などを魔石と交換、家に帰り食事をすると就寝する。

 これがユキチに何時もの日課だ。


 その日もユキチは何時もの様に迷宮へ向かう。何時もの様に一層目から順番に魔物を倒して行く。

 だがその日は少し違った。

 二層目に差し掛かった時、見知らぬ人物に遭遇したのだ。


 銀色の長い髪を持つ人物。身長はユキチより少し低いぐらいだろうか?

 髪の長い人物がおっかなびっくり階段を下りて行く姿が見えたのだ。その上、後ろから見て判るぐらい村の者達とは全く異なった服装をしている。

 その人物が階段を下りた先で周囲を見廻した時にチラリと見えた横顔は女性の様に思えた。


「おおー!美人じゃん、ぜひ仲間に……ちゃうちゃう、話でも聞いてみるか……。ちょっとちょっとそこの姉さん!」


 ---------------


「ワタシ、オーキン。」


 銀髪の女性は自分の事を指さしそう名乗った。そしてオーキンはまっすぐ天を指す。


「ワタシ、アチキタ。」


ユキチにはオーキンが指さす場所に覚えは無かった。ユキチが知らない場所、別の場所から来たと言っている様だった。

父母の話から判断するとオーキンは恐らく来訪者という人なのだろう。


「わてはユキチ・タンバ。試練の村の出身やで。」


「ワテユキチ?」


「あ、ちゃうちゃう。ユキチ、ユキチ。」


ユキチはオーキンと同じ様に自分を指さしながら名前を連呼した。その姿を見て理解したのかオーキンはユキチを指さした。


「ユキチ」


 ユキチはオーキンに同意する様に大きく頷いた。


「しかし困ったな。この後少し下まで潜るんやけど……。」


「???」


「通じてないか……。」


 オーキンにはユキチの言葉が片言しか通じていない様だった。


「魔石を稼がな今日の飯が食えん。ま、一人ぐらい増えてもすぐ下の階なら何とか対処できるやろ……。」


―――――――――――――――


 ユキチはオーキンを連れて魔物狩りに精を出す。

 オーキンも勝手が判ってきたのかユキチの手助けをしてくれる様になってきた。 片言の言葉しか通じなかったがユキチにとって見かけた事が無い女性と迷宮で共闘するのは楽しかったのである。

 しかしそんな楽しい時間も不意に終わりを告げる。


「ユキチ?」


オーキンに呼び止められユキチが振り向くとオーキンは今正に壁の模様に触れようとしている所だった。


「あ、あかん!それはっ!」


ユキチは必死で手を延ばすが極わずかに間に合わなかった。その次の瞬間、壁面の腰の高さほどの位置に穴が開き、矢が飛び出す。

オーキンが罠に引っかかってしまったのだ。

 壁に隠された銃口からクロスボウの矢が飛び出す罠、オークンの腹部に深々とその矢が刺さってしまった。

 何時もなら回避する罠であったが言葉があまり通じなかった為か罠について注意を促す事が出来なかったのも原因だろうか?

 ユキチは急いでオーキンから矢を引き抜くとオーキンを背負う。


「大丈夫だ!外に出れば助かる!」


 この時ユキチは事態をそう深刻には考えていなかった。

 ”迷宮で怪我を負っても地上に戻れば元通り、怪我は何時もの様に無くなる。”そう考えていたからだ。


―――――――――――――――


「何で、何で傷が治らない?何で?」


 地上に戻ってもオーキンの怪我は治らなかったのである。

 ユキチはオーキンを背負ったまま迷宮の出入りを繰り返すがオーキンの傷は治らない。


「何で、何で……。」


 女性を背負いながら途方に暮れて青い顔をしているユキチに迷宮にやって来た村の大人達が声を掛けた。


「どうしたユキチ?その背負っている女性は一体?」


「コウアンさん。実は……。」


ユキチはオーキンと出会ってからの事をコウアンに話した。


「……ユキチ、その女性、オーキンさんのカードを確認したか?」


「カード?そんなの持っているのが当たり前やから確認なんて……まさか!」


 驚いた顔をするユキチにコウアンは黙って頷く。

結論から言うとオーキンは迷宮に潜る時に必要な冒険者カードを持っていなかったのだ。冒険者カードを持っていれば迷宮脱出時に怪我が自動的に治るが、持っていなければ怪我が自動的に治る事は無い。


 結局、ユキチは来訪者オーキンの最後を看取る事になった。

 オーキンはその命がつきる時、ユキチが見守る中で光となって消えてしまったのである。


 その日以来、ユキチがその日の終わりに冒険者ギルドへ向かう事が日課として加わった。


 ---------------


 オーキンが光になって十年ぐらい過ぎた頃。

 ユキチは冒険者ギルドで騒いでいる三人の男達を見かけた。見た事の無い者で着ている服も自分の物とは著しく異なっていた。

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