現地人
サバーブは驚いた顔をする男をいぶかしげに眺める。
一見するとごく普通の一般市民の様な姿をしているが、異星人によって配置されたNPCである可能性は捨てきれない。
男を見ながら考え込むサバーブにリランドが声を掛ける。
「どうした?サバーブ。待望の現地人じゃ無いのか?それとも何か気になる事でもあるのか?なぁ、連宋?」
「……いや、リランド。サバーブはこの男がNPCではと疑っているのでは?わしにはRPGによくあるイベントのようにも思えるからね。」
リランドと連宋が遅々として進まない会話を繰り広げていると男が助け船を出した。
「お前さんがた、わてがそこいらの人形じゃないかと疑ってなさるね?大丈夫だ。わてはちゃんとした人間だ。人形じゃ無い。その証拠にホレ……。」
そう言うと男は腕を動かし空中に一枚のカードを表示させた。リランドはそのカードを一心に見つめる。
「……冒険者登録カード……ユキチ・タンバ 狩人Lv8……タンバとは変わった名前だな……。」
「タンバか……リランド、この名前はわしと同じ極東系の名前だ。」
「極東系?」
「地球のニッポンという地域を指す言葉だ。リランド、お前も見た事があるドラマのアンビシャス・ノブナーガとかランページ・ショーグンとかの地域だ。」
「ああ、あれか!最後の方でショウグーンが暴れてセイバイするヤツ。」
「そうそう、それだな……でこれがNPCでは無い証明になるのは何故だ?」
連宋は首を傾げながら中年の男、ユキチに尋ねた。
「ん?名前の横に何んも出てないやろう?人形なら名前の頭に小さく”NPC”とマークが出るんや。他にはパーティを組んだ時とかもな。君らのカードにも同じ様に表示されるはずやで。」
「わしらのカード?そのような物は無いのだが?」
「驚いた!冒険者登録がまだやったんか。ここで食料を調達するには魔石が必要や。登録すれば魔物を倒して魔石を稼ぐ事が出来るんやで。食料だけや無い、武器も魔石で買うんや。」
ユキチの話によると魔石とやらが無いとここで生活は出来ない様だ。
「まぁ、ここで生活するのに冒険者カードを手に入れない選択はないで。それにアンさん方はわてより強そうに見えるからもっと強い職業になれるはずやで。」
「……冒険者カードか……登録によるペナルティが有るかもしれない。ここは慎重に考えないと。」
少し躊躇するサバーブにユキチは大きな声で笑いながらサバーブの肩を二三度大きく叩く。
「大丈夫や、そんなに気にする事はあれへん。」
「し、しかしな……。」
「大丈夫、大丈夫、男は度胸や。……おう、すまんがこの旦那の……えーっと、名前はなんて言うんや?」
「……サ、サバーブ・Q・デジトだ。」
「ササバーブさんでっか……。」
「いや、サバーブだ。」
「はいな、……サバーブ・Q・デジトと。で、サバーブはん、でここに触って……お、職業が出てきたで。何々……。」
サバーブがユキチの突き出した冒険者カードに触れるとカードの上の空中の極わずかな範囲に文字が並ぶ。
表示された職業の項目を見たユキチが驚きの声を上げた。
「何々……神竜騎兵……聞いた事の無い職業や!神の文字が入ってるさかい最上位職業やろか?!」
その隣では何時も間に冒険者カードの登録をし終えたのか、リランドと連宋がお互いの職業を見比べていた。
「リランドは神銃士って名前からして銃を使うのか?普段と変わりないのでは……。」
「そういう連宋も征魔大将軍……ってそのままでは?」
リランドと連宋の言葉が耳に入ったユキチはからくり人形の様にゆっくりとリランド達の方へ顔を向けた。
「こ、この二人も聞いた事の無い職業!あんさん方は一体……。」
「聞いた事の無い職業と言ってもなぁ、連宋?」
「そうだね。ゲームによってどんな事が出来るクラスなのか判らないから何とも……。」
連宋は表腕を広げて首を横に振り、“お手上げである”というジェスチャーをした。
「それなら職業の説明を見れば良い。職業の名前を長押しすれば説明が出る!」
「説明が?どれどれ……。」
連宋はユキチに言われたとおり表示されている職業の名前を長押しした。
-征魔大将軍-
侍系列最上位クラス。
侍系列の特典に加え魔物、人に対しての特攻、刀、槍、弓の武器に習熟。侍系列に対する統率ボーナスあり。
「魔物?」
「魔物ちゅうんはダンジョンで出てくる敵を指す言葉やで。」
連宋の行動を見てリランドも同じ様に職業の名前を長押する。
-神銃士-
銃士系列最上位職業。
銃士系列の特典に加え、|銃器術(ガン=カタ)に習熟。
その為、銃士であった接近戦でのペナルティは消失している。
「銃器と白兵戦か……隙が無いな。リランドらしいと言えばその通りだ。で、私は……。」
リランドの表示を横から覗いたサバーブが職業の名前を長押する。
-神竜騎兵-
竜騎士系列最上位職業。
竜騎士系列特典に加え神竜を召喚し契約ができる。
神竜によって最終迷宮への移動が可能。
その表示を見たユキチが驚きの声を上げる。
「最終迷宮やて!」