現実拡張RPGの謎
警告と共に装備が失われる。
いち早く武器の消滅に気がついたのは連宋であった。
「不味いぞ、サバーブ。わしの武器が全て消えた。」
連宋はメインウエポンである槍や刀だけで無く懐や袖口に様々な棒手裏剣を隠し持っていた。当然、先頭に立っていた連宋はいつでも対処できる様に手の中に棒手裏剣を隠し持っていたのである。その為、サバーブやリランドよりも早く武器の消失に気がつき驚きの声を上げたのである。
「俺の銃も無い!不意に肩が軽くなったと思えば……ホルスターごと無くなった!」
「……私のも無いな。不味いな……端末も無いぞ……。」
リランドやサバーブは自分達の懐にあるガンホルダーに手を差し込み、銃が無くなっている事を確かめている。
遺跡でもある惑星上で頼みとしている武器だけでなく流彗星号との通信手段が失われた事は彼らにとって大きな痛手であった。
今後を考えると一旦立ち止まって対策を練るべきなのであるが、先ほどまで赤く点滅し警報音を鳴らし続けていた表示は緑に変わり、先に進む様に矢印が城塞都市の方角を指し示す。
「先に進めと言う事か……。」
立ち止まって考え込むサバーブにリランドが声を掛ける。
「サバーブ、ここは先に進むほかは無いんじゃないか?確かに装備がなくなったのは痛いが、無くても何とかなるだろう?いざとなれば俺の拳や連宋の技で対応できるだろう。」
「……仕方が無い、それしか無いか。」
サバーブは少し諦めた様に溜息を吐くと城塞都市へ向かって歩き始めた。
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シタデールは城塞都市と言うだけあり、高さが20mもある石壁が一辺500mの長さの正方形を形作っていた。
都市の四隅には更に倍近くの高さの塔が立っている為、シタデール自体が犯罪者達を閉じ込める監獄の様な印象を受ける。
丘の上から続く道の突き当たりにシタデールへ入る為の門があり、その門の両脇には兵士が槍を構えて立っていた。
その門へサバーブ達が近づくと兵士は異口同音に言葉を発した。
「「ようこそ!冒険者の集う町シタデールへ。」」
「冒険者?ここにはそんな職業があるのか?」
「「ようこそ!冒険者の集う町シタデールへ。」」
「……」
何を聞いても同じ事しか繰り返さない兵士二人にサバーブは頭を抱えた。そんなサバーブの肩に連宋は軽く手を乗せる。
「サバーブ。これはRPGお決まりのお約束……何時もの台詞という奴だ。多分この二人は門番でNPCなんだろう。だけど進んだ技術があるのに言葉にバリエーションがない所を見るとこれは意図した物かな?」
「意図した物か……。」
そんな二人の横をリランドが何事も無いかの様に通り過ぎる。
「ん?二人とも何をしているんだ?問題が無いのなら先へ行くぞ?これはゲームの様な物なんだろ?」
「待て、待て、リランド。そう先に行くな。」
「RPGの様な物であってゲームだとは確定した訳では無いからね。」
サバーブと連宋は先に進むリランドを慌てて追いかける。
門から続く道はシタデールの大通りらしく多くの人が道を行き交っているが誰も一言も発していない。動き方も奇妙でまっすぐ進んでいたと思うと途中の枝道へ来るときっちりと直角に曲がり枝道の奥へ消えて行く。しばらくすると枝道から人が出てきて同じ様に直角に曲がり大通りを進んで行く。
その動きを見た連宋が懐かしい物を見る様な目で見る。
「……懐かしのRPG感がすごいな……。そう思わないかリランド?」
「うーん。動きには違和感しか無い……。」
「昔のRPGはこんな感じだった……これはARだからARRPGと言う所か……。」
三人はその大通りを道なりに進むとひときわ目立つ大きな看板が四つ見えた。行き先を示す緑の矢印はその一つを指し示している。
<冒険者の院>
<ボッタクリ商店>
<ビルガメシュの酒場>
<イマヌエル寺院>
<冒険者協会> <-
<試練の迷宮>
「……ここまで来たら仕方が無い。矢印の通りに進むぞ。」
サバーブの言葉にリランドと連宋も同意する様に頷く。
矢印が示す冒険者協会の中は役所の受付の様な形になっていて何人かの事務員や何かの装備をした者が忙しそうに動いているが例によって言葉を一言も発しない。
今まで冒険者協会を示していた矢印は受付の一角を示していた。
サバーブ達がその受付窓口の前まで来ると受付に座る女性?が口を開く。
「ようこそ、冒険者協会へ。登録ですか?」
その言葉と同時に空中に”はい/いいえ”の文字が浮かび上がった。
その文字を見たサバーブは何を考えたのか”いいえ”の方を選択する。
「判りました。では転職でしょうか?」
再び”はい/いいえ”の文字が浮かび上がるとサバーブは”はい”を選択する。
「承りました……エラー。お客様の登録が確認できません。登録からやり直してください。又の利用をお待ちしております。」
「やはり登録する必要があるのか……。だが……。」
NPCの前で額に皺を寄せ考え込むサバーブに連宋が首を傾げる。
「サバーブ、何かおかしな事があるのか?何か考え込んでいるが?」
「……少し奇妙だと思ってね。ここは異星人の遺跡のはずだろう?言葉などは異星人の翻訳技術なら……と言う事で説明できるかもしれないが、対応しているこの者達は一体何なのだ?」
「?ゲームの登場するNPC、ノンプレーヤーキャラクター。運営側が用意したキャラクターだと思うのだが?」
「では何故我々人類と同じ姿で現れる?異星人遺跡のキャラクターなら異星人の姿では無いのか?流石に異星人の技術で異星人にも対応……と言うのは無理があると思うが?」




