無人のステーション
リランドの言葉にサバーブと連宋は固唾を飲み込む。
「……だが奇妙だな?ステーションの通路側に遺体は無く船内には遺体が存在する。荷電粒子砲を持ち出す様な戦闘なら通路側にもっと遺体があるはずなのだが?」
サバーブはリランドの言葉を受けて少し考え込んだ。
「そう言えばそうだな……この場所に来るまで周囲を探索していたが、私には何も見つける事は出来なかった。」
「俺も同じ意見だな。で、サバーブ。つぎはこの船内の捜索だな……。」
リランドが船の探索を行おうとした所で連宋が制止する。
「ちょっと待ってくれ。わしは必要ないと思う……と言うよりも無駄だろね。この船自体は海賊船だから。」
「「海賊船!?この船が?」」
サバーブとリランドは異口同音に驚きの声を上げた。
と、言うのも遺体があったこの船はどこから見ても彼らには普通の貿易船にしか見えなかったのだ。
驚きの声を受けてリランドは宇宙船の入口に固定されている長方形のプレートを指さした。
「一見すると普通の貿易船に見える。けどこの船体番号”EXGP-15A2-DAG0”これはあり得ない番号だよ。」
「「?」」
連宋の言葉にサバーブもリランドも同じ様に首を傾げる。船体番号があり得ないと言われても彼ら二人の認識では単なる文字や数字にしか見えないからだ。
「この番号の最初の四文字が船の種類とメーカーを示している。次の四文字が認可番号、そして最後の四文字の内最初の三文字が製造年、次が法定検査回数だ。」
サバーブは感心した様に大きく頷く。
「へぇ、そうなのか……と言う事は”DAG”……ん?流彗星号改と同じ番号だ。製造年が同じなのか?」
「そしてリランド話から食料パックの年代から判断すると、彼らがここに来たのは少なくとも五年以内。製造年が流彗星号改と同じぐらい古い船が検査をした事が無いと言うのはあり得ない。」
「そうか!宇宙船の法定検査は十年に一度。検査は可動の有無関わらず必ず行われる。」
「だから古い船で検査がゼロはあり得ない。ま、このタイプの海賊船はイラメカから蓬莱辺りの宙域でよく出没する連中だね。」
「イラメカから蓬莱か……では我々と同じ様にここへ来た可能性が高いな。」
サバーブの言葉に同意する様に連宋は大きく頷く。
「多分ね。この状況だと他の船も似た様な物だと思うよ。」
「となると、問題はこの場所の異常さだ。エアロックの内側と外側でこれほどの違いが出るのは何故だ?」
そう言うとサバーブが周囲を見廻した。
エアロックには荷電粒子砲で焼け焦げた跡が残っている。しかし、外側はその焼け焦げた跡が一切無いのであった。
「リランド、そいつが持っていた食料パックをかしてくれ。」
サバーブはリランドから焼け焦げた食料パックを受け取ると何を思ったのかボーディングブリッジの床にそのパックを放り投げた。
「サバーブ、一体何を?」
問いかけるリランドにサバーブは人差し指を唇に縦に当てる。その姿を見たリランドと連宋はサバーブのジェスチャー通りに黙って事の成り行きを見守った。
そして十分後。
ボーディングブリッジの巾木の一部が開き小さな円盤状の機械が現れる。床から少し浮いて動くそれは焼け焦げた食料パックを回収すると元の巾木の中に戻っていった。
「なるほど、このステーションの掃除を行っている機械か……。やはり生きているのかこのステーションは……。」
「何だって!生きて……いや、まてよ?当然考えられる事だな……。」
リランドは驚きの声を上げかける、しかし脳裏に自分が親となっている幼女を思い出したかの様に頻りに頷く。
「後はここに辿り着いた連中の行方だな。」
サバーブの呟きに連宋が疑問を投げかける。
「消えた連中?……サバーブは生きている連中がいてどこかへ行ったと思っているのか?」
「そうだ。間違いなく生き残りはいただろう……だがその生き残りは一人もいない。ならどこかに移動したと考えるべきだと思う。」
「ステーション内にいないとなると……。」
連宋は海賊船のエアロックとは反対方向、ボーディングブリッジの先を見た。
ボーディングブリッジの先には待合室の様な通路があり大きな天窓がある。
天窓の先は宇宙空間となっていて、この星系に存在する数多くの惑星が輝いているのが見えた。




