会社がピンチ
一部と二部を分けました。
内容は変わっていません。
話は少し前まで遡る。
イラメカ帝国を退ける手伝いで会社の名前が広く知られる様になったのも束の間、サリーレの取締役全員が未曾有の危機に陥っていた。
と言うのも反物質プラントにつぎ込む為に増資した金額、三千億クレジットがほぼそのまま借金として残ってしまったのだ。
この借金は会社の借金であるのだが、取締役であるサバーブやリランド、連宋の借金でもある。
会社の業績に問題が無い時はそれでも良かった。
しかし、現在サリーレの業績は急下降中。その為、急遽対策会議を開いたのだが会議室には重苦しい雰囲気に包まれていた。
その重苦しい雰囲気の中、サバーブが口を開く。
「現状のまま何も対策をしなければ借金だけが増え会社は倒産する。問題はどうするかだが……。」
そう言うとサバーブは腕組みをしながら深いため息を吐いた。その斜め向かい側に座るリランドが後ろに座るキャサリンに声を掛ける。
「キャサリン、サリーレを売却した場合の売却額はいくらだ?」
「反物質プラント込みで二千億クレジット。反物質プランだけでも千九百九十九億九千万クレジットなので一千万クレジットかと……おまけですね。」
「……おまけか……流彗星号の値段も含めて?」
「はい。流彗星号は取締役三人しか操縦する事が出来ない為、宇宙船としての価格はないものと判断されました。できの悪い劣化レプリカとして判断されたので。」
ブラックホールの彼方に消えた流彗星号は新しくなったが性能を著しく変化させたレプリカとして登録されていた。多くの人々は”変化させたと言う”内容を劣化させたと認識している様だ。
「ただ現状を考えて反物質プラントの売却はお勧めできません。このプラントがあるおかげで何とかサリーレの業績を維持しています。ですがこのプラントを売却するとなると……。」
「……借金取りが大挙して押しかけると言うことか……。」
「はい。」
キャサリンの説明を聞いていた連宋は肩を落とすと大きなため息を吐いた。
「……あの時、イラメカがゲートを活性化しなければ……。」
当初の計画では反物質を売却した利益で借金を返済できる算段であった。だがイラメカとの戦争でその計画がすべて駄目になった。
戦争による被害が大きい為、各星系での反物質の需要がなくなった訳ではない。イラメカ軍が各星系を攻撃する為に宇宙ゲートを活性化した事による弊害だ。
簡単に言えば、各星系に置かれていた異星人の宇宙ゲートが活性化した為、そこから反物質を取り出すことが可能になったのである。
つまり各星系が自前で反物質を調達することが出来る様になってしまったのだ。
その為、サリーレが大きな資金源と計画していた反物質の取引価格が暴落した。今では反応炉に使われる重水素より少し高いぐらいの価格で取引される様になったのである。
通常、星系軍との取引は十数年単位で行われるがサリーレで取引していたのは太陽系連合軍であり近隣の星系軍である。
太陽系連合軍の取引は連合自体が消滅したことで無くなり、近隣の星系軍の取引でも適正価格になってしまった。
(ゲートのある星系ならば適正価格で取引してもらえるだけでもましである。)
そして輪を掛けてサリーレの業績を悪化させたのは新しい輸送会社の台頭である。
今まで星系から星系へ荷物を運ぶ為にはジャンプドライブが装備された輸送船で運ぶのが一般的であった。
しかし各星系のゲートが活性化されたことでゲートを開くことが可能になり、別の星系への移動がジャンプドライブ無しで移動できる様になってしまったのである。
ジャンプドライブは燃料タンクに次に大きな推進機関である。その為ジャンプドライブの搭載は船の積載量を大きく減らす要因となっていた。
その為、ジャンプドライブを積んでいない宇宙船はジャンプドライブを積んでいる宇宙船よりも積載量の方が大きく大量に荷物を運ぶことが可能になる。
宇宙ゲートを使用する料金は各星系に支払う必要があるがそれを加味しても今までの輸送の為のコストとは雲泥の差があった。
結果、積み荷あたりの単価が半額以下になってしまったのである。
最近のサリーレ請け負うのは宇宙ゲートがない星系、エキドナ星系の様な人類が生存できる惑星のない星系への輸送、惑星クラピアや暗黒宙域への観光が主な収入源となっていた。
適正価格とは言え近隣星系との反物質の取引は十数年後には終了する。そうなるとサリーレの経営はいよいよ苦しくなり破産する事が目に見えていた。
「……その前にサリーレの経営を安定化させる必要があるのだが……何のアイデアも浮かばない。このままだと我が家は……。」
そう言うと連宋は机に突っ伏した。その様子を見てサバーブが声を掛ける。
「そう言えば連宋、子供が生まれるのは何日だったか?」
「半年後だよ……しかも五つ子だ。」
「五つ……。それは大変だな。うむう……今更給料を上げる訳には行かないしなぁ。」
サリーレの取締役達であるサバーブ達はサリーレからあまり給料をもらっていない。と言うのも会社からの配当だけで生活が可能だと判断していたからだ。
その分、従業員の福利厚生に充て職場環境を良くし会社の企業価値を上げる目的があったのである。
サバーブの言葉を聞いたリランドが大きく頷く。
「そうだな、業績が悪化しているのに給料を上げる理由にはならない。それよりサバーブ、カークランドさんの方はどうなんだ?」
「カークランドさんか……いずれは私も連宋と同じ様に……。だがサリーレの業績がこうでは……。」
「いや、アリシア・カークランド嬢ではなく、カークランド提督の方だ。」
「うっ!……カークランド提督は星系連邦の大統領だからな。」
「援助は期待できないな。うむむむむ。キャサリン、現時点での銀行への債務は確か……。」
「現在の借金は三千億クレジットです。」
三千億クレジットを三等分しても一千億クレジット。この金額は到底個人で返済できる様な借金ではない。
その金額を頭に浮かべた三人は同じ様にこう思った。
(((悠々自適な第二の人生になるはずだったのだが……どうしてこうなった?)))