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発売日の悲劇  作者: しろ組
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四、しかし、回り込まれてしまった

四、しかし、回り込まれてしまった


 羊史は、“人気ゲーム”を入手し、足取り軽やかに、帰路に就いて居た。そして、茶色い背広の男とぶつかった場所まで戻って来た。

 その瞬間、割り込みして来た不良達が、行く手を阻んだ。

 羊史も、面食らった表情で、立ち止まった。不意を突かれたからだ。

「よう。俺達のゲーム(ブツ)を渡せや!」と、スキンヘッドの少年が、右手を伸ばして来た。

「こ、これは、僕が買ったんだ! なんで、渡さなきゃあいけないんだよ!」と、羊史が、語気を荒らげた。

「モヒさんが、順番を譲ったんだから、今度は、お前が、ゲームを譲る番だぜ」と、リーゼントの少年が、理由を述べた。

「そんな勝手な屁理屈なんて、聞ける訳無いだろう!」と、羊史は、憮然となった。割り込んで、不正を指摘されて、勝手に居なくなっただけで、譲るには、該当しないからだ。そして、すぐさま、反転した。係わるだけ、時間の無駄だからだ。

 しかし、三人に、回り込まれてしまった。

 羊史は、逃げられなかった。そして、「くっ!」と、歯噛みした。まさか、家の手前で、絡まれるとは、思、いもしなかったからだ。

「腕ずくで、持って行っても良いんだけど、俺達が、強盗になっちゃうから、君の意思で、出してくれないかなあ〜」と、モヒカンの少年が、遠回しに脅した。

「モヒさん、優しいー!」と、リーゼントの少年が、称賛した。

「モヒさんの温情だ。素直になれよ」と、スキンヘッドの少年も、口添えした。

 羊史は、屈する形で、モヒカンの少年へ、ゲームを差し出した。一刻も早く、不良達との恐怖(ホラー)な時間から脱却したいからだ。

「良いだろ」と、モヒカンの少年が、満面の笑みを浮かべた。そして、右手で、ゲームを掴み取るなり、前籠へ雑に投げ入れた。

 羊史は、黙って見る事しか出来なかった。

「モヒさん、何処でやりますか?」と、リーゼントの少年が、問うた。

「近場で言うと…」と、モヒカンの少年が、腕組みをした。

「だったら、半黄(パンキー)の家なんか、どうですか?」と、スキンヘッドの少年が、提案した。

「そうだな! あいつの家だったら、ゲームクリアまで居ても、文句言われねぇからな!」と、モヒカンの少年も、頷いた。

「あいつ、進学校に受かった途端、見下して居ますよ」と、リーゼントの少年が、口にした。

「確かに、賢い学校へ受かって、見下しているねぇ〜。中学時代、散々、可愛がってあげたのにねぇ〜」と、モヒカン頭の少年が、ぼやいた。

「モヒさん、あいつに、ヤキを入れやしょうか?」と、スキンヘッドの少年が、半笑いで、意気込んだ。

「お前、それをやっちゃうと、ゲームが、出来なくなってしまうぞ!」と、リーゼントの少年が、指摘した。

「今日は、あくまで、半黄の家へは、ゲームをやりに行くだけだ。ヤキを入れるのは、別の日にしろ」と、モヒカンの少年も、口添えした。

「わ、分かりやした!」と、スキンヘッドの少年が、素直に聞き入れた。

「半黄の家へ、出発だ!」と、モヒカンの少年が、意気揚々に、言った。

「おう!」と、二人も、右手を突き上げた。

 程無くして、三人が、背を向けて、走り去った。しばらくして、大通りへ出るなり、左へ曲がった。

 羊史は、項垂れた。結局、不良達の手へ、ゲームが行く運命(さだめ)だったからだ。そして、「僕は、不幸の星の(もと)に生まれたんだな…」と、嘆いた。

 間も無く、衝突音が、響き渡った。

 その一瞬後、不良達を前面部へ、引っ掛けたままで、大通りを疾走する黄色いバキュームカーが、通り過ぎた。

 羊史は、唖然となった。まさか、天罰が下るのを()の当たりにするとは、思わなかったからだ。その直後、「ざまぁ見ろ!」と、口にした。

 そこへ、「モーフォッフォッ。如何でしたか?」と、背後から声がして来た。

 羊史は、恐る恐る振り返った。次の瞬間、「おじさん、脅かさないでよ〜」と、安堵した。先刻の茶色い背広の男だったからだ。そして、「もう少し早く来てくれたら、持って行かれなくて済んだのに!」と、不満をぶつけた。助けにしては、遅過ぎるからだ。

「モーフォッフォッ。申し訳ございませんねぇ。私も、どうしても外せない用事が有りましたので。まあ、これを、お詫びの印に…」と、茶色い背広の男が、ゲームを差し出した。

「ん?」と、羊史は、視線を向けた。その刹那、「あ…! えっ? ええ!」と、目を白黒させた。諦めていたゲームが、眼前に在るからだ。

「これで、許して下さい」と、茶色い背広の男が、申し出た。

「は、はい…」と、羊史は、信じられない面持ちで、頷いた。嬉し過ぎて、天にも上る気持ちだからだ。そして、「おじさんは、買えなかったんじゃあ?」と、怪訝な顔をした。順番的に、不可能だからだ。

「先に並ばれて居た方が、不良達の手口を知って居られたので、あなたが、ゲームを取り上げられる事を見越して、ゲームを譲って下さったのですよ」と、茶色い背広の男が、理由を述べた。

「そうですか。でも、その方は、出来ないんじゃあないんですか?」と、羊史は、眉根を寄せた。自分と同じように、発売日を待ち侘びて居ただろうからだ。

「モーフォッフォッ。その方は、不良達に取られても構わないように、二本買っているそうなのですよ。だから、お気になさらずに…」と、茶色い背広の男が、回答した。

「じゃあ、貰いますね」と、羊史は、受け取った。そして、「その方にも、お礼を言って下さいね!」と、小躍りしながら、帰路に就くのだった。

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