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発売日の悲劇  作者: しろ組
3/5

三、ギリギリ

三、ギリギリ


 羊史は、何とか、列へ並ぶ事が出来た。自分の前には、十数人の老若男女が、並んで居た。初老の老人と小学校低学年くらいの少女や顔を覆面と黒眼鏡(サングラス)で、完全に隠している体格良い外套(コート)を着た者やぽっちゃりした螺髪頭の若者と長髪で、なよなよした友達(ツレ)といった面々が、目に留まった。そして、最後尾へ並んだ。

 その直後、前方で、シャッターの上がる音がした。

 少しして、腰の曲がった猿顔の男性が、出て来るなり、「今日は、いつもよりも早く開店します!」と、告げた。そして、踵を返した。

 その瞬間、羊史は、満面の笑みを浮かべながら、左手で、小さくガッツポーズをした。現物(ゲーム)を手にする瞬間が、近付いて来たからだ。

 しばらくして、背の低いモヒカン頭の赤い特攻服の不良(ワル)の少年が、自転車で、羊史の前に割り込んで来た。

 少し後れて、リーゼントで、ヘラヘラ顔の少年とスキンヘッドで、強面(こわもて)の少年も突っ込んで来た。

「モヒさん、ギリギリ、間に合いましたねぇ」と、ヘラヘラ顔の少年が、モヒカン頭の少年へ、語りかけた。

「いつもよりも、早起きをして、正解だったな」と、モヒカン頭の少年が、頷いた。

「お堂の中で寝たのは、失敗でしたね」と、スキンヘッドの少年が、おどおどしながら、口にした。

「集会が、長くなり過ぎたから、家からよりも、お堂からの方が、ゆっくり寝られると思ったからよ」と、モヒカン頭の少年が、にこやかに、理由を述べた。

「流石、モヒさん。頭良いぜ」と、リーゼントの少年が、称賛(ヨイショ)した。

「へ、伊達に、南高の番長は、やってねぇよ」と、モヒカン頭の少年が、したり顔となった。

「モヒさん、一生、付いて行きます!」と、スキンヘッドの少年が、一礼した。

「おう」と、モヒカン頭の少年が、上機嫌に、応えた。

 羊史は、苛々しながら、順番を待った。不良達と揉めるよりも、やり過ごした方が、得策だからだ。

 しばらくして、不良達の番となった。

 白髪の男性が、やって来るなり、「そちらの方で、本日分は、売り切れとなります」と、不良達と羊史の間へ、右手を割り込ませながら、淡々と告げた。

 その瞬間、「ええ〜!」と、羊史は、項垂れた。割り込んだ不良達の所為で、買えなくなった事に、絶望したからだ。

 突然、「店員さん、その方々は、ズルをして居ますよ。モーフォッフォッ」と、背後から、聞き覚えのある声が、異を唱えた。

 羊史は、振り返った。次の瞬間、「あ…!」と、面食らった。まさか、先刻、ぶつかった茶色い背広の男とは、思いもしなかったからだ。

「おい! 俺達が、そんな事をする訳無いだろうが!」と、スキンヘッドの少年が、睨みを利かせながら、凄んだ。

「おじさん、言い掛かりは、止しとくれ。ちゃんと、そこの奴にも、了解して貰ってんだからよ」と、リーゼントの少年が、口添えした。そして、「だよな?」と、威圧して来た。

「君、それは、本当かい?」と、白髪の店員が、尋ねた。

 羊史は、勇気を振り絞り、「割り込んだまま、何も言って来てません!」と、否定した。ゲームを入手するラストチャンスだからだ。

「てめえ! 黙って居るのは、認めているのと同じなんだよ!」と、スキンヘッドの少年が、恫喝した。

「モーフォッフォッ。不良のお兄さん方に割り込まれちゃあ、誰だって、恐くて、黙っちゃいますよ」と、茶色い背広の男が、口を挟んだ。

「今日のところは、帰って貰えんかな? どうやら、君らの不正行為を目撃している方も居られるからね。次に、同じ事をやられたら、出入り禁止にさせて貰うよ」と、白髪の店員が、警告した。

「くっ!」と、スキンヘッドの少年が、歯噛みした。

「モヒさん、どうします?」と、リーゼントの少年が、問い合わせた。

 モヒカン頭の少年が、口元を綻ばせるなり、「良いだろ」と、口にした。

 リーゼントの少年も、薄ら笑いを浮かべた。そして、「おい、帰ろうぜ」と、スキンヘッドの少年へ、声を掛けた。

「小僧! 帰り道には気をつけなよ」と、スキンヘッドの少年が、意味深長な言葉を発した。

 間も無く、三人が、走り去った。

「さあて、並んで居ても仕方ありませんので、私も、ここで、失礼しましょうかねぇ〜」と、茶色い背広の男が、口にした。

「お、おじさん、あ、ありがとう!」と、羊史は、満面の笑みで、礼を延べた。不良達へ、言ってくれた事が、嬉しいからだ。

「いえいえ。人として、当たり前の事を言っただけですよ。早く、列に戻って下さい」と、茶色い背広の男が、促した。そして、踵を返した。

 羊史も、言われるがままに、列へ並ぶのだった。

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