表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
硝煙香るロング・バケーション  作者: たいふーんMkⅣ
第二章:Walk along the razor`s edge
24/25

第二十三話 Little Green Bag

 アメリカ合衆国、バージニア州とワシントンD.C.を分つポトマック川の川辺には、その触手を四方へと伸ばしあらゆる場所へと浸透させ、根を下ろす強大な祖国が世界の覇者となるのをを影から支えてきた組織の総本山が存在する。名はジョージ・ブッシュ情報センター。この施設が存在する一帯を世間では「ラングレー」と呼称するが、ラングレーは通称であり、実際はマクリーンと言う地名である。


 ポトマック川を渡るチェイン・ブリッジは、一日に二万台以上もの車が行き来しており、その殆どはマクリーンやアーリントンの住宅街からD.C.への通勤者で占められている。


 その橋をスーツ姿の男が歩いて行く。早朝であれば、この橋を利用する者の殆どが西から東へ、DCへ出勤する者達であるが、それに逆行する者は仕事終わりの夜勤者でなければ何処へ向かうのか、想像するのは容易い物である。


 50がらみの、頭髪に白髪の混じったその男の傍に一台のセダンが停車し、パワーウィンドウがするすると下がるればスーツの男と同様、白髪が混じった初老の男が助手席側に身を乗り出しながら声を掛けた。


「ジョーイ、君は歩きか。送るぞ」


「俺が健康のために歩いてるのは知ってるだろう。何の用だ」


「良いから乗れって、たまには文明の利器を頼るのも悪くないぞ」


 CIA局員、ジョーイ・アップルトンは面倒くさそうにしながら、歩道の手すりを跨いで半開きのドアを開いて助手席へ滑り込む。高級ラグジュアリーほどでは無いが、安くも無い。程々の内装の、程々のセダン。中央情報局勤務と言う身分にはおあつらえ向けの選択である。


「普段はこの時間に走ってすらいないだろうに、早起きでもしたのか」


「長い付き合いだ、前置きは必要ないな。聴くが、キューバでアセットを動かしてるそうじゃないか。なにやってるんだ」


「今は『バティスタ』だよ。くだらん国名だがね。いったい何の事を話しているのかわからんが、俺がその手の話をできないのを知ってるはずだろう。たとえお前が俺より高い俸給を貰っていようともね」


 走る車内でジョーイはポトマックを眺めながら吐き捨てる。溜息が混じるその言葉にはかつて肩を並べた同僚が、自分よりも高い身分に収まっている事への説明の出来ぬ感情が混じっていた。


「3年前のケルマーンを忘れた訳じゃ無いだろう」


「その節は済まないと思っているよ、今その話を出すのか」


「お前のアセットがやらかして、こっちの仕事がご破算になって、更に尻拭いまでやらされたんだ。その借りを返してくれても良いんじゃないのか」


「くそ」


 悪態をつくジョーイに対し、ハンドルを握るキム・ドナヒューは続ける。


「お前の仕事が上手く行っていない所まで知っている。潜り込ませているアセットから一週間かそれ位か連絡が付いてないんだろ。遅かれ早かれ、このまま行けば俺のデスクにお前の仕事がスライドしてくるのは目に見えてるな」


「俺を脅すのか」


「脅すつもりはない。だが選択肢を与えてやる事はできる。何の仕事をしているかは知らないが、ひとつケチが付くか、俺に借りをもう一つ作るかだ」


「お前は中東が担当だろう、こっちに介入するつもりか、誰の権限で」


「善意さ、誰の命令でもない。同じ釜の飯を食った仲だろ。別に丸く収まりさえすればお前の手柄にしたって一向に構わん」


 ジョーイは暫し黙りこくり、忌々しそうに、唸るように言葉を紡ぎ始める。


「畜生、わかったよ。80年前のやり残しさ。アナディルには続きがあったんだよ。ケネディもマクナマラも、フルシチョフの言葉に踊らされて安心しきっていたが、結局あの熊野郎どもは今度はU-2の眼にバレないよう基地を作っていた訳だ」


「陰謀論者の噂だと思っていたんだがな」


「カストロを黙らせるにはそれぐらいするしかなかったんだろう。なんにせよ、今になってその噂って奴が、信憑性を帯び始めたもんだから、行って根掘り葉掘り探って、事実なら核弾頭をほじくり出して来いとのお達しなのさ。キム、お前のアセットは何処でこの件を知った」


 今度はキムが黙る番だった。ハンドルを握る手を数度握っては開き、眼鏡の位置を直し、キムは車を路肩に停めた。キムの下に情報が回ってきたのはアレックスの独自の情報源からであるが、その情報源という物が厄介な物であり、民間人や軍人、政治家を抱き込んだ程度の物であれば暈かしはするがそういう情報源があると答えられただろう。しかしフリーランスの傭兵で、まして重要度こそ低いが情報局の手配リストに名を連ねている事に加え、厄介事の種と一部の人間に知られる人物であるのは口外するにはリスクがあり過ぎた。そんな人物からの情報を得ようなどと、自身の信用に関わって来るものだ。


「うちのアセットが独自の情報網から。それ以上は言えん。そこそこ機密度の高い相手だ」


「そこは掘り下げんで置こうじゃないか。なぁ、キム、俺に手柄を譲ると言ったが、何のためだ、この件に首を突っ込んでお前に何の得がある」


「俺に得なんか無い。俺も良い歳だ。それなりの俸給、ウッドリー・パークに家を持って妻と子供二人の生活。充分だ、これ以上出世する気も無い」


「では、猶更何のために面倒事に首を突っ込むんだ、俺を憐れんでいるつもりか、冗談じゃない」


 キムは窓を開け、ポトマックから流れてくる涼しげな川の風を浴びながら、道路脇に立つ支柱の上ではためく星条旗を見やった。


合衆国(ステイツ)のためさ」




 

「確認が取れた」


 ヨハンナはアレックスから秘匿回線を通じて送られてきたメッセージを見て呟く。内容はオーランドが語っていた、冷戦時代のソ連製核弾頭の捜索という内容の仕事が、事実であると告げる物であった。


 内心、完全にホラ話だと疑って掛かっていたヨハンナは、アレックスから虚偽の仕事だとの連絡が来て、オーランドを簀巻きにしてロシア人に献上するのを楽しみにしていた節があり、事実確認が取れた事で本当にCIAの仕事を手伝わねばならなくなったことに若干の面倒を感じていた。


 とは言え、唾を付けた仕事を投げ出すのは些か寝覚めの悪い話であり、ロシア人達に追いかけられたままバカンスを過ごす気にもなれない。此処で投げ出せばCIAに尻をつけ回されるのも事実であり、サキもこの件に乗り気、とまでは行かないが多少のやる気を見せている以上、駄々を捏ねても仕方がない話である。


「情報をまとめるぞ」


 買い出しから戻った要員や、休憩中だった者を全員集めたヨハンナは、セーフハウスのテーブルにオーランドの情報とカザコフから得た情報とをまとめた資料を広げる。紙媒体の情報も全て確認しやすいようデータ化し、立体映像装置で投影したそれを、慣れた手つきで操作していく。


「まず差し当たって私らを襲撃してきた奴らの詳細から話そうか。ひっ捕らえた野郎から得た情報ほか、オーランドの権限をちょちょいと使って調べた情報も追加してある」


 ヨハンナ達を襲撃してきた部隊は厳密には部隊名は存在しておらず、アフリカや中東で運用していたPMCの類でも無かった。彼らはロシア政府または内務省や関係各所から「外注業者」と呼ばれている者達で、高度に訓練された特殊部隊出身者で構成されており、GRUやSVRなど、情報機関に属していた者である事もほのめかされているが、詳細は「不明」で占められている部分が殆どであった。


 しかし、今回バティスタに送られている人員の殆どは、その部隊長も含め「第300特殊訓練ユニット」、通称「人狼」と呼ばれた部隊の出身者達で構成されていた。「人狼」はロシア軍内で最高機密に類する部隊であり、詳細は大統領ですら知らないと言われている。軍の一般的な指揮系統には属さず、一説によれば参謀総長か国防相か、それらが持つ直属の私兵部隊とも噂されているようだが、これも詳細は不明であった。


 ただ判明している事は、彼等人狼が世界中でもトップクラスの練度を誇るTier1部隊で、常に最新鋭の装備を配備されており、更には開発段階の先進装備も供給されているという事だ。


 ヨハンナは戦中、雪に包まれたカムチャッカで彼らと対峙していた。撤退戦の最中、殿を務めたヨハンナの部隊は、ある特殊資材を巡って白銀の世界を文字通り血の色に染め上げる白兵戦を人狼たちと繰り広げ、最終的には特殊資材の起動によって撃退したのだった。


 彼らは部隊規模こそ最大でも中隊規模、最大でも3個中隊程度の人材しかいないと言われているが、人類史上初めて実戦投入された光学迷彩を身に纏い、高度な電子戦技術によって通信を遮断し、電子機器すら無力化してくる人狼たちにヨハンナの部隊は多大な出血を強いられた。


 しかしカムチャッカ撤退戦の折にヨハンナは前述の特殊資材を使用して壊滅に追い込んだはずであるが、まさかこんな場所で生き残りに出くわそうとは。ヨハンナは昔を懐かしむように軽く笑みをこぼすと、次の情報を映し出す。


「こいつは」


「奴らのリーダー、らしい。名前はライーサ、ライーサ・アルトゥーホヴァ」


 皆一様に資料に目を凝らすが、たった今ヨハンナが口に出した名前以外に、情報と呼べるものは存在しなかった。推定30代前半、女性、黒髪、身長170㎝台。その程度で、顔写真すら存在しなかった。


「それだけか?」


「それだけ。名前なんか調べたって全然ヒットしねえ。新顔か、CIAも知らないような人間なんだろうな。あとはチェチェン野郎だって話をとっ捕まえたアイツが言ってたぜ」


「まったく、じゃあ次だ。次の一手はなんだ。奴らを探して全員潰すのか」


「いや、奴らの通信機器とウェアラブルデバイスを調べたが、流石に暗号化が固くてな。一部分だけプロテクトを解けたが、まぁ、奴等こっちの持ってるデバイスを締め出して、追跡は不可能さ」


 くそ、とマヌエルが悪態をつく。たかだか数人程度始末しただけでは腹の虫がおさまる訳も無く、作戦能力のある部隊が健在である以上、気を抜けば何度でも襲撃を受ける恐れがある。これから一々人狼なる追跡者の干渉を警戒しながら行動するのは、どうにも窮屈で仕方がないという気持ちがあるのはヨハンナも重々承知していた。とはいえ、追跡不可能な物は仕方がない。いったんロシア人達の追跡は取り止め、別の仕事に取り掛かるしかない。


 オーランドが咳払いを一つ。それは自分に喋らせろという意思表示であった。話すべき内容はあらかた話し、他に喋る事も無いヨハンナはオーランドを一瞥して発言を譲った。此処から先の話題は自分が話すよりオーランドが話した方が良い。


「さて、やっと僕の仕事に取り掛かれるという訳だ。長かったよ、結構急ぎの仕事でもあるんだけどね、こうなった以上君達のやり方に従うより他は無い。不本意だが、仕方ない話だ」


 オーランドののらりくらりとした話し方には皆心底うんざりさせられていた。このセーフハウスに着く以前から、車内の会話など随分と回りくどい、要領を得ない喋り方をされており、何かを話す度に一々脇道に逸れては修正し、一分で終わる内容を五分以上かけるのだから、皆眠たくなって仕方が無かったのだ。


「さて、これまで話した通り僕の仕事はこの国、バティスタに眠る旧ソ連製核弾頭の捜索任務だ。捜索と言っても、まずはその核弾頭が存在するか、情報の真偽を探る所から始めなければならない」


「噂だけでCIAはお前を送り込んだってか、蒸し返すようだが随分な話じゃないか」


 マヌエルが灰皿に煙草を押し付けながら口を挟む。


「まぁ、別に完全に噂だけで動いた訳じゃあ無いのは確かだ。この資料を…これどうやって動かすんだい」


 立体映像装置の操作が分からないオーランドに変わり、持ち主のヨハンナが溜息をつきながら求める資料を表示してやる。この場合紙の方が早かったか、何でも電子化するのは良くないかと、ヨハンナは古いタイプの人間に若干辟易した。


「これを見て欲しい、この国がキューバからバティスタに変わった直後のハバナ港の航空偵察写真だ。航空写真は前時代的だって思うだろ、困った事にこの頃はまだ宇宙(そら)の掃海が済んでなくて、衛星は軒並みダウンしたままだったから、まともに使える偵察衛星が無かったんだよ」


「そんなの軍隊飯食ってりゃ誰でも知ってる、良いから続けろ」


「この、此処に停泊している船はロシア船籍の船だと以前から特定していた。この船の他に十数隻が頻繁にハバナ港とムルマンスクを往復していたんだ。勿論ラングレーはこれを大使館の夜逃げ程度にしか見てなかった。だがおかしいだろう? 普通なら飛行機で良いのにわざわざ船便で時間を掛けるなんて。で、その後の調べで大使館は人員の移動含めて全くの入れ替えは無し。じゃああの船は一体なんだったんだ? となるわけだ」


 ヨハンナを一瞥したオーランドは指ですいと横へスライドさせる動きをして、次の資料をと促す。


「それで、港湾職員とかに金を握らせて――「とか」って言ったのは金を握らせたのはトラックドライバーとかも含まれるからね。で、ロシア人達は船から何か大掛かりな荷物を降ろしてたって話が出た。こっちの手の内でトラック強盗に見せかけて積み荷を確認したら、ビンゴ、大当たりさ。内容物は大した物じゃあ無いが、積み荷には相当数のフィルムバッジが含まれていたんだ」


 ここまでは自分の仕事でも何でもないというのに、さも自らの手柄と言わんばかりに得意げなオーランドを余所に、話を聞く皆は続きを促す様な視線を送る。マヌエルもヨハンナも、オーランドが話を始めてから既に煙草を三本消費していた。


「勿論それが核兵器の存在を証明する証拠になる訳じゃあ無い。ジュラグアの原子力発電所を再建するって話があるのは知ってたし、つい最近だって大統領がカリブ海経済連携協定(Caribbean Economic Partnership Accord :CEPA )に基づいてエネルギー開発を進めるって言ってたし、その為に革命直後から動いてたって不思議じゃあない」


「話が長すぎる。結論から言え。ジュラグアの再建計画はロシア資本ではなく、アメリカのGEゼネラル・エレクトリックと提携して行うから核・放射線関連の物資や資材をロシアの船から降ろす必要が無い。そしてバッヂと同時に運んでて良いはずの放射線対応の防護服類の差恩材が無かったことから、核関連施設以外の場所での使用を想定されていたって話だろ」


「そう、その、それ以外の場所って言うのがさ、上の連中は核兵器の保管場所とか、それこそミサイルサイロなんじゃないかって考えた訳でね。僕らの出番って事」


 その後の顛末は知っての通り、オーランドは何処かでミスをやらかした挙句、ゲリラ達に捕まって今に至る。ここでようやく時系列が現在に追いつき、この先の話に入る事が出来ると、待ちわびた様子で見長椅子の上で姿勢を直し、コーヒーを啜り、煙草に火をつける。


「で、目星はついてるのか」


「それが全然。あぁ待って、怒らないでくれよ。考えはあるんだ、これを見てくれ、次の資料を」


 表示されるCIAによる手配書。添付された写真は若干不鮮明な盗撮写真であり、その男が今まで一度も法執行機関に逮捕されていない事を表している。ゆるいウェーブの掛かった黒の長髪、無精ひげの男の名前はエステバン・グティエレス。シエン・フエゴスに居を構える大物実業家であり、バティスタの海運を支配する男である。


 グティエレス一族は古くよりキューバの海運を司り、エステバンの父や祖父は独裁者バティスタやカストロの時代にあっても巧みに彼らに取り入り、産業に乏しいこの島国の懐事情を支える柱の一端を担っていた。そしてその事業は決して合法的な物だけではなく、数々の違法な物品類の密輸・密造に始まり、密入国や、時にはスパイ活動の片棒を担ぐことすらあったと言われている。つまりグティエレス一族は古くより続く、二つの顔を持った巨大な犯罪組織と言えるものだった。


 しかし、麻薬をはじめ各種密輸事業は当然ながらいついかなる時代でもご法度である。まして、独裁政権下ではその手の犯罪者は厳しい取り締まりに活動を阻害され、財を成すことなど不可能にも思える。当然ながらバティスタもカストロも、それこそ革命の戦いの最中にあっても彼らはグティエレス一族の活動の一切に手出しをしなかった。それはひとえに、彼等自身がグティエレス一族の力が無ければクーデターによる国家掌握も、革命を成す事も、革命後の国家を維持する事も出来なかったからに他ならない。


「ロシアからの物品類は主にコイツの所有する物件に運び込まれてる。そしてこいつの物件からの荷物も、ロシアの船に積まれている。このエステバンって男は昔からロシア野郎とお友達って訳だ」


「そしてこいつの親父とジイ様はキューバ危機の折、ソ連のアナディル作戦を物流で支援したって言う話だ。素晴らしい一族だな、代々悪党の家系だ。おっと、アカ野郎はこの中に居ないよな?」


「つまり、このエステバンって野郎を探れば何かわかるんじゃないかって話だな?」


 「そのとおり」と得意げなオーランド。しかし大抵こういった「悪党の親玉」は疑り深く、警戒心が人並み以上で、余所者を嫌うのが常で、おいそれとお近付きになる事は出来ないのが一般常識である。


 ではどうするのか、その解決法は至ってシンプルで、アリストパネスが語ったように人間がゼウスによって二つの性に分たれて以来、別れた肉体が一つになろうとする本能を利用する他にない。つまり、相手が男であるならば「女」を利用すればよいだけの話である。これは相手が余程自分に厳しく警戒心が強いか、男色でなければ大抵の場合有効だ。


 そしてこの場にはおあつらえ向きの人間が二人ほど存在する。顔立ちは整っており、片方は女としては逞しすぎるきらいはあれど、それを補って余りあるほどの「女性的魅力」を備えている。役者としては充分である。


「おい、私達にやれって言うのか? この、このなんかナルシスト感がほとばしる男に色気振りまけって言うのか」


 集中する視線にヨハンナが抗議する。集中する視線にはサキも含まれており、自身も女だというのに、完全にヨハンナに丸投げした形である。


「他に誰がやるんだ、コイツが男の胸毛と堅い尻を好んでる方に賭けるってのは、ちょっと現実的じゃないと思うがな」


「うるせえ、色仕掛けするにゃ身体が出来上がり過ぎだし、私ぁ三十過ぎてんだぞ、良いトシこいた女が男に乳見せびらかして色気振りまけってのか、気色わりぃ。サキのが若いし、肌も奇麗だろうが」


「私はほら、角が邪魔でしょ」


「だ、そうだ」


 オーランドを囮にした時の同調圧力が自分に回って来たヨハンナは、しかしそれ以外に妙案を出す事も出来ず、酷く不服そうな表情を浮かべたまま押し黙る事しかできなかった。


 ヨハンナを餌に使う事に賛成していたサキ自身は、それ以外の方法でエステバンに接近する策は考えていたのだが、ヨハンナを使う方が面白いと、この場では発言せずに後になってマヌエル達に進言、ヨハンナには黙ったままで予備案として採用されるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ