表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホラー小説集

特撮映画の特典フィルム

作者: 大浜 英彰

 映画館の暗さに慣れた目には、八月の太陽は殊更に眩しい。

 だけど僕達三人が先程まで観ていた映画は、夏の日差しより遥かに眩しくて鮮烈だったんだ。

 何しろ、僕達小学生の間で人気のヒーロー番組が映画になったんだから。

「映画で観るマスカー騎士(ナイト)、やっぱり格別だね!家のTVと大違いだよ。」

修久(のぶひさ)もそう思うか?再生怪人達が襲い掛かって来る所なんか、鳥肌物だったな!」

 僕の一言に同調してくれたのは、お金持ちの黄金野(こがねの)君だ。

「そろそろ来場者特典のフィルムを開けてみないか?俺、修久や黄金野が何を貰ったか気になっちまってよ。」

 ガキ大将の鰐淵(わにぶち)君の一声で、僕達はポジフィルムの袋を揃って開封する事にしたんだ。


「おっ、雷電キックの大写しだ!」

「僕のフィルムも捨てた物じゃないよ、鰐淵君。変身シーンのハイライトだから。」

 鰐淵君も黄金野君も、割と良い場面のフィルムを貰えたみたいだね。

「修久のも満更悪くねえじゃんか。マスカー騎士とギル大佐の戦闘シーンだからさ。」

「う…うん…」

 鰐淵君はフォローしてくれたけど、後ろ姿のマスカー騎士より敵幹部のギル大佐の方が目立っているんだ。

「羨ましいかい、修久?それなら僕と鰐淵君のフィルムを焼き増ししようじゃないか。修久のと合わせて家で現像してやるよ。」

 優越感剝き出しの気障な口調だったけど、黄金野君の提案は有り難い物だったよ。


 翌日の夕方。

 写真を受け取りに来た僕と鰐淵君の前に、黄金野君は首を傾げながら現れたんだ。

「驚くなよ、二人とも…」

 淡々とした口調で念を押すと、黄金野君はフィルムと写真をテーブルに並べた。

「なあ、修久?ギル大佐って、こんな顔じゃなかったよな?」

 鰐淵君に倣って確認すると、写真の中のギル大佐は、映画で見た時より彫りが深くて目も落ち窪んで見えたんだ。

「本当だ、鰐淵君!これじゃ、まるで別人みたい…」

「別人なんだよ、修久。」

 僕の後を受けた黄金野君の声は、暗く沈んでいた。

「その俳優は、ギル大佐になる筈だった人なんだ…」

 詳しく聞いてみると、当初は別の俳優さんがギル大佐を演じる予定だったらしい。

 ところが、その俳優さんがクランクイン直後に急死したので、急遽代役を立てて撮影をやり直したんだ。

「撮影会社に聞いてみたけど、前の役者さんで撮影したカットは屋内セットの場面だから、こんな構図は有り得ないんだよ…」

 黄金野君の暗然とした声を聞きながら、僕達はフィルムと写真を交互に見比べるばかりだった…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 鳥肌が立つくらいぞくぞくして怖かったです! 映画に出れなかったから、せめてフィルムで目立ちたい……という亡くなられた役者さんの執念を感じました。 [一言] 演じている方が急遽交代というと…
[良い点] 面白かったです。 怪傑ライオン丸のタイガージョー変身前の役者さんも途中降板してますね。 あと、死んでないですが、藤岡弘さんも仮面ライダーを危うく途中降板しかけてました。
[良い点] 役者の執念ですかね? 最後にゾッとさせられました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ