特撮映画の特典フィルム
映画館の暗さに慣れた目には、八月の太陽は殊更に眩しい。
だけど僕達三人が先程まで観ていた映画は、夏の日差しより遥かに眩しくて鮮烈だったんだ。
何しろ、僕達小学生の間で人気のヒーロー番組が映画になったんだから。
「映画で観るマスカー騎士、やっぱり格別だね!家のTVと大違いだよ。」
「修久もそう思うか?再生怪人達が襲い掛かって来る所なんか、鳥肌物だったな!」
僕の一言に同調してくれたのは、お金持ちの黄金野君だ。
「そろそろ来場者特典のフィルムを開けてみないか?俺、修久や黄金野が何を貰ったか気になっちまってよ。」
ガキ大将の鰐淵君の一声で、僕達はポジフィルムの袋を揃って開封する事にしたんだ。
「おっ、雷電キックの大写しだ!」
「僕のフィルムも捨てた物じゃないよ、鰐淵君。変身シーンのハイライトだから。」
鰐淵君も黄金野君も、割と良い場面のフィルムを貰えたみたいだね。
「修久のも満更悪くねえじゃんか。マスカー騎士とギル大佐の戦闘シーンだからさ。」
「う…うん…」
鰐淵君はフォローしてくれたけど、後ろ姿のマスカー騎士より敵幹部のギル大佐の方が目立っているんだ。
「羨ましいかい、修久?それなら僕と鰐淵君のフィルムを焼き増ししようじゃないか。修久のと合わせて家で現像してやるよ。」
優越感剝き出しの気障な口調だったけど、黄金野君の提案は有り難い物だったよ。
翌日の夕方。
写真を受け取りに来た僕と鰐淵君の前に、黄金野君は首を傾げながら現れたんだ。
「驚くなよ、二人とも…」
淡々とした口調で念を押すと、黄金野君はフィルムと写真をテーブルに並べた。
「なあ、修久?ギル大佐って、こんな顔じゃなかったよな?」
鰐淵君に倣って確認すると、写真の中のギル大佐は、映画で見た時より彫りが深くて目も落ち窪んで見えたんだ。
「本当だ、鰐淵君!これじゃ、まるで別人みたい…」
「別人なんだよ、修久。」
僕の後を受けた黄金野君の声は、暗く沈んでいた。
「その俳優は、ギル大佐になる筈だった人なんだ…」
詳しく聞いてみると、当初は別の俳優さんがギル大佐を演じる予定だったらしい。
ところが、その俳優さんがクランクイン直後に急死したので、急遽代役を立てて撮影をやり直したんだ。
「撮影会社に聞いてみたけど、前の役者さんで撮影したカットは屋内セットの場面だから、こんな構図は有り得ないんだよ…」
黄金野君の暗然とした声を聞きながら、僕達はフィルムと写真を交互に見比べるばかりだった…