18-04 不明の期待
短いです
俺にはすべてのことが分かってる。
巫女神の〈欠片〉たちがやろうとしていることも。
奴らは〈白柱〉を使って〈九門〉を開くつもりだ。六つの白柱で一つの〈秘石〉が作られる。しかし、白柱から作られる秘石は〈偽石〉や〈仮石〉とも呼ばれる。その効力は秘石と比べ物にならない。少なくとも八つ必要な秘石のうち、八門の半分、四つの門から本物の秘石を取ってこなければならない。それを巫女神の欠片たちは知らない。
俺が十二可能世界の間に仮の通路を設けたのを利用して、巫女神の欠片たちは世界間を〈種針〉を持ったまま移動出来た。それで何かを勘違いしているらしい。
好きにやればいい。
あいつらに出来ることはない。
問題が起こるとすれば、白柱を暴走させてしまった時だが……。
まあ、それよりも、世界にはもっと危ない奴らが現れたようだ。
一人は北ユーラシアに協力している少年だ。〈非在〉という力を使いこなし始めている。こいつがその気になればどんな軍隊でも敵わないだろう。
もう一人は〈氏神〉と呼ばれている半精神体のような存在。こいつは〈越権〉という力で、どんな相手よりも数段上の能力を発揮するらしい。時間制限があるために万能ではない。そいつと一緒にいるアスカという女も〈五色界〉という十二可能世界を飛び越える術を使う。本当は〈十二天色界〉という術だがそのことはまだこの世界の誰も知らない。
さらにもう一人、米共和国の選挙に介入しようとしているアンノウンの女がいる。この女は能力を発揮し切れていないが、人を惹きつける力がある。その力は人々の意識を変え、世界を変える可能性を含んでいる。
それに、羽山健敬という男……。
俺はすべてのことが分かっている。
わかってはいるが、分からないようにしている。
すべてを知れば、すべてを知っているわけではないという可能性を放棄しているという点から見て、完全ではないからだ。
何より、すべてを知ってしまったら詰まらないではないか。
俺が知ってしまえば、世界に現れた異常者どもの動きがすべて無駄になる。
俺はコトが収集不可能になったところで、誰にも思いもよらない圧倒的な力で、すべてを収めてしまう方が楽しいと考えた。今そう言う気がしたのだ。
だから、巫女神の欠片たちの未来も、世界に表れた異常者たちの未来も見ないようにした。
それに鬼の動き。鬼たちは俺に歯向かおうとしている。その方法も俺は見ない。
そうだ、見ないのだ。
鬼の棟梁を今すぐここに呼び寄せようとかとも思ったが、いや思う前に指が動いて呼び寄せてしまいそうになったが、俺はぐっと堪えた。
今阻止してしまっては楽しみも何もない。
すべてがわかることは世界を今すぐ消し去るのと変わりがない。
わからないという完全性を俺は内側から湧いて来る光りとして味わった。
俺は光りに満たされた。
俺はその光りの一端を虚無空間に作り出した重力の場に触れさせた。光りは歪んだ。しかし、それは既存の世界で流通している光りの屈折とは違っていた。その屈折を俺は色々に弄ってみた。自分の気に入る屈折を作り出した。本当のところは、光りを曲げるのでも屈折させるのでもない。ただ気に入る空間を作ったのだ。そうして、その仮構の小さな空間に無数の粒による区切りを与えた。その世界に水のようなものが出来、何かが生まれた。それは小さな爪一本と丸い腹を持った生物だった。その生物は次々に分裂していった。
俺は十二可能世界とはまったく別の次元空間を構築しようかと考えていた。パラレルですらない世界、まったく断絶している世界を。
何故なら、今の十二可能世界の異常者たちの動きは、きっと俺に届かずに、すぐに終わってしまうだろうから。
俺は順調に十二可能世界の統合を進ませて、巫女神の中に、完全に隔絶された、他の可能性をまったく持たない一現実世界を作り出して、何も動かない無機質な世界に生きる巫女神や巫女神の欠片や、異常者たちを見るのにすぐに退屈してしまうだろうから。
名ばかりの未来がある一現実世界が、石のように閉じていくのは見ていられなくなるだろうから。
俺は明けた朝のヴェールの上に、前日の夜を無理矢理に引き戻した。俺には時間の前後もない。過去の夜でも未来の夜でも同じだ。それを便宜上そのように使うだけだ。
とにかく、前日の夜を毛布にして俺は眠りについた。俺の予想を裏切ることが起こるのを期待して。




