1-8:お会計を
「あ、そうだアズマ君。お姉ちゃんなら何か入れ替わりの戻り方知っているかも!」
つめた〜い水をようやくまともに飲めるようになったので、今後どうするか考えていると、ニニリーがパンと手を叩いてそう言った。
「ナナリーが?……確かに知っていそうではあるが……」
ナナリー•ハンナリー。
ニニリーの一つ上の姉でこの食堂の裏に医療店を構えている。性格はニニリーとは似ても似つかず真逆の性格で、趣味は魔導学と神学。ナナリーならこの現象の治し方を知っていそうだが、個人的に、エウロスを連れて会いたくない。・・・しかしそうは言ってられないよなぁ。
「何よ。あんた怖気付いてんの?」
「ある意味では怖いし、お前、というか俺の身体が心配なだけだ」
「うん?意味わかんないわよ。治る方法があるならば行くわ。おばあちゃんは言っていたわ。急がば回れ!ってね!」
人差し指掲げてドヤ顔で言い放つエウロスに引き笑いをするニニリー。
お婆ちゃんが耄碌しているのか、エウロスがアホなのか。絶対後者だろう。
「とりあえず会計するか」
腰を触って、財布を探すも、エウロスの身体であった。自分の身体じゃないことを失念していた。こいつ、財布も何も持ち物を持っていないんだが……。
「懐に財布入ってるから出してくれ」
無理矢理手を入れてもいいが、自分で目立つ行動をするなと言った手前謹んでおく。
「んー?」
エウロスは懐に手を突っ込んでガサゴソと探す。しかし一向に見つかる気配がなく、反対側、なんなら懐に顔を突っ込んでまでも探した。
「ないわよ」
「ちゃんと探したのか?皮の財布だぞ?」
「探したわよ!あたしのせいにする前に自分で探しなさいよ!ほら!」
両手を広げて胸を大きく差し出す。
昨晩ギルドの酒場を出る時は持っていたのを記憶している。仕方ない、自分で探すか。
もぞもぞと腕を入れて服の中にしまっておいた財布を探す。
「んっ」
内ポケットに入れておたんだけどな?反対側か?
「あっ」
ないな。倒れたりしたから服の下の方に入ったか?
「んあっ」
「何なんだ!さっきから変な声出しやがって!」
俺が財布を探すたびに自分の変な声を聞いてられなくなり、財布探しを中断して顔を上げて文句を言う。
「あ、あんたが変なところ触るからこそばゆいのよ!」
その割にはなんで恥ずかしそうにしてんの?
「はわわわわ。ま、まだ、お昼ですよ」
こっちもこっちで両手で顔を覆って指の間からこちらを見ていた。
何なんだこいつら。
最後にあるとしたら服の何処かが破れていて、服の生地の内側に入ってしまっている事だろう。
二人を無視して、上半身の服を軽く叩くように触れてみるも、そんな感触はなかった。
だとすれば考えられる事は三つ。
一つ、どこかに落とした。
一つ、療養所に忘れた。
一つ、盗まれた。
落としたのなら落とし場所を巡って、運が良ければ誰かが拾ってくれている。
忘れたなら取りに行けばいい。
最悪なのが、盗まれただ。
「おいエウロス、お前金は持っていないのか?」
財布を探した距離のまま耳打ちをする。
「あるわけないじゃない。あたし財布は持ち歩かないの。それに天界と下界の金銭は違うわよ。
なによ、靴の底にでも緊急用のお金隠してないの?ダメダメねー」
こいつに言い負かされると妙に腹が立つな。
いや、負けてない。こいつだって金持ってないからな!負けるな!俺!
「ギルドカードでお支払いも出来るけど・・・」
「その手があったか!」
ギルドの一員ならギルドカードを所持しており、ギルドの依頼を受け熟すと、ギルドポイントが貰える。そのポイントはギルド加盟店なら使える仕組み。
俺はギルドカードを入れていた場所に手を突っ込む。そして引き抜いて、ニニリーと対面する。
「ニニリー!これを!」
「はい。では確認しますね」
ギルドカードを店に置いてあるレジ魔道具に通して帰ってくる。
「アズマ君。どうやらポイント無いみたいですよ?」
「嘘だろ?一万ポイントくらいは残っていたはずだが」
「前回の使用記録を見るに、療養所で払っていますよ」
そういえば勝手に追い出されたけど、前払いで支払われていたのか・・・。二人分の値段だからそれ相応か。
もう最終手段を取るしかないな。
「ニニリー!」
「ど、どうしましたか?」
優しいニニリーになら、この頼みは通るはずだ、家に帰ればお金はあるし、持ってこられる。
「ツケ……ってできるか?」
「できません」
スパッと即答で言いきられてしまった。
そこはシビアなのねニニリーさん。
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