1-6:常識を知れ
がぶり!ガツガツ!むしゃむしゃ!はふはふ、かっかっかっかっ!かちゃん!ごくごく。ドン!
「ぷはーっ!生き返りますわ!こんなに美味しい料理初めて食べたわ!」
注文した料理を平らげて満足そうに自称エウロスはそう言った。
数分前は不浄だのなんだのとぶつくさ言っていたのに、この掌の返しようは尊敬できるかもしれない。
「いつも食べてるじゃないですか、大袈裟ですねー」
「あなた、どう?あたしの宮殿に勤める気はない?」
「ひえっ、それって共に暮らすって事ですよね?」
「そうよ。あなたが、あたしに尽くすなら飽き足りない幸せな時間を提供するわ!」
「しあわせな……じかん!」
椅子から立ち上がってスパァンといい音を立てて自称エウロスの頭を叩いた。
俺の自慢の石頭がこの細腕を傷つけた。痛い。
「何すんのよ!痛いわね!」
「ちょっと耳貸せ」
何か妄想をしているニニリーの陰になるようにテーブルの下で秘密会議を始める。
「な、なによ」
「あのな、俺とお前は身体が入れ替わってるんだ。これからはお互いに発言と行動に気をつけよう」
「いやよ。どうしてあたしがあんたの私生活に気を遣わなければいけないの?メリットを提示なさい」
この女、既にここへ連れてきてやった恩を忘れているのか?
そちらがそんな態度を取るならばこちらも、それ相応の態度を取らせてもらおう。
「じゃあ俺がこの身体を使って女神エウロスを語り、往来で全裸になって踊って色んな男を誑かしてもいい訳だな。そんな事をすれば天界でお前の印象どうなるだろうな~。ま、なんせお前は俺の私生活に気を使わないんだからな。俺もお前の気を使う必要はないってことだ」
「あ、あんた最低ね!」
「お前が約束してくれれば、俺だってそんなことをしないでもいい。
ちゃんとしていればこうやって美味い飯だって食える。お前さえ約束してくれればなー」
嫌味ったらしく言ってやると自称エウロスは顔を歪めた。
「くっ!分かった!分かったわよ!行動言動に気をつければいいんでしょ!見てなさい!」
そう言うと自称エウロスは立ち上がってニニリーの手を握って真剣な眼で見つめる。
ニニリーは、はわはわ言いながら何事かと焦っていた。
「毎朝いえ、毎食作ってくださるかしら。
報酬は現金。現金がいやでしたら、物品でも構いませんでしてよ」
履いていた靴を脱いで思いっきり自称エウロスの頭を叩いて、耳を引っ張ってテーブルの陰に持ってきて、第二回秘密会議を開いた。
当のニニリーは顔を真っ赤にして放心状態なので放置。
「何言ってんだ!なんでニニリーに愛の告白してんだよ!」
「はぁ!だってあんたがちゃんとした発言と行動を気をつけなさいって言ったじゃない!だから発言と行動を猫被りモードで正したのに何が気に食わない訳!天界の本ではあれで落ちない女はいないのよ!なんなの!?いちゃもんつけたいだけ!?」
あ、アホという、常識がないと言うか。なんとも可哀想な奴だな。
天界の常識は下界では通用しないから、俺がしっかり教育してやらねば、こいつは今後生きていけない。というか、お互いにやっていけない。
「何よそのママがよくする目で見ないでくれる!?」
こいつの母親の気苦労が知れる。
「あのなぁ、言葉遣いや行動を正しくするのは当たり前なんだよ。
俺が言いたかったのは、俺になりきれとは言わないが、中身が俺とじゃないと疑われないようにしてくれって事だよ」
「なんでよ。別にあんたの中身があたしでも何も問題ないじゃない」
「・・・そうだな。療養所を追い出される前に診察したよな」
「したわね。あの医者いけすかなかわったわね」
「そのいけすかない医者に本当のことを話してどんな対応された?」
「……鼻で笑われたわ」
「それで俺は食い下がらずに他に事例がないかとか、色々訊ねたな。で、紹介されたのはなんだった?」
「精神療養所ね」
「そういうことだ」
「どういうこと?あのヤブ医者をぶん殴ってもいいってこと?」
「違う!俺達が本当のことを話しても信じてもらえないってことだ!
前例がない医療事実を信じてもらえない!俺とお前が入れ替わっていると誰に言おうが頭のおかしい人物のレッテルが貼られるだけだ!お前頭のおかしい奴だと思われたいのか?」
「お、思われたくないわね……」
一から十まで説明するとようやく理解して首を縦に振る。
「だったら、この事は周りにバレてはいけないんだ。できるだけ隠し通す。分かったな!返事!」
「分かったわよ!はぁあ、未聞の事象を鼻で笑い飛ばすなんて人間って本当に愚かね。女神と人間の精神が入れ替わるなんて、前代未聞の事件なのに・・・」
「あのぉ」
「何よ」
自称エウロスか顔を上げるとニニリーが妄想の世界から帰ってきていた。
「今の、アズマ君とエウロスさんの精神が入れ替わった話って……」
どうやら俺達の秘密会議はスパイに聴かれていたようだった。
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