5-11:世界樹林10
「元に戻った!?どうやって?……そうか、世界樹の夜露か!確かあの叙事紀に世界樹の夜露が関係しているのを思い出しましたよ。まぁ元に戻ったところで、たかが人間の剣闘士一人に私が倒せるとは思えませんがね!」
毎度の如くラヴィは空間を捻じ曲げた球を放出する。
「私を忘れるなー」
ナナリーがラヴィの球を打ち消そうとした瞬間にナナリーは、背後へと移動してきたラヴィの攻撃で何処かへと消えてしまった。
「忘れていませんよ。貴女は邪魔者だってね。これで一対一。貴方に価値の目など一切ありません」
「そうかな。やってみないことには分からないだろ」
「やる前から知れていること。貴方の事は事前に情報がある。貴方の加護までもを知っている。エレスとオネイロスの加護では私に太刀打ちできることはできませ」
ラヴィが俺を見下しながら喋っている途中にエウロスから剣を奪って、その場で素振りをした。すると剣から風の刃が出てラヴィの右腕を持っていった。
「ん?」
元の身体に戻ったのだが、俺はエウロスの加護をまだ身に宿している様で、しかもその加護は最上級であり、本人そのものが扱えるのと同等。今までエウロスの身体で活動していたからだろうか感覚でなんとなく理解できる。
「な、なぜ貴方が、売女の加護を使えるんです!?いえ、それよりも、この威力は」
ラヴィは自分に不都合な真実を言いかけて唾を飲んで堪えた。ラヴィが言いかけたのは、エウロスの加護があれば俺はラヴィを倒せてしまう。
怒りが沸点を超えて頭が冴え渡っている。ふつふつと湧いていたものは霧散していく。霧散していくほど、力が湧き出てくる。
「腕を切ったところで、こうすればくっつきます。いい気にならないでくださいよ……何を指を刺しているんです?」
切り落とした腕を切断部分からくっつけて、戦いは今からだと言わんばかりのラヴィの顔面を指さす。
ラヴィの鼻からは先程決めた裏拳のダメージの象徴である鼻血が流れ落ち始めた。
「ふん、こんなものでダメージを与えたつもりですか。しかし私の顔を傷つけたのは大きな罪です!こんなもので済まない痛みを与えてあげましょう!」
ラヴィが瞬間移動してきて俺の目の前に現れる。
「へぶっ!」
エウロスの身体だったら辛うじて反応できただけだったが、自分の身体だと普通に反応できる。だから目の前に現れたラヴィの顔面を剣の柄で殴った。
「よくも、私の顔を二度も殴ったな!」
「お前の敗因はたった一つ。俺を怒らせた事だ」
「私はお前に対して何もしていないだろうが!というかそれは勝ってから言え!」
ラヴィが既に手の中で作り上げていた球を俺の胸にぶつけるために、何度も瞬間移動を繰り返して捉えさせない様にしてくる。これは流石に捉え切れない。
だが、攻撃してくる場所が最初に特定できているなら、こいつを追わなくても反撃を決めることができる。これはもう闘いでの経験値でしかないが、今の俺ならばできる。
ラヴィが攻撃を決めるために、丁度俺の死角に入って胸を狙ってくる。
全て理解できる。この地と風が俺に力齎してくれている。風を読み、地に足つけて、根っこの様に大地から栄養を貰い、それら全てがエレスの力と還元されて、前の俺以上の強さが出ている。
剣に風を纏い、大地を踏み締めて、大きく体を跳ねる様にして、剣を横に薙ぐ。
「おかしい!おかしいおかしい!ありえない!ありえてはいけない!使徒の私が負けるなんて!これはバグだ!バグでしかない!」
上半身と下半身を真っ二つにされても、残った上半身だけで悔しそうに地面を叩くラヴィ。流石は魔王の使徒、真っ二つにされたくらいじゃやられないようだ。
まぁ元に戻れたし、この女神を天界に返してやる義理もないので、さっさとラヴィを倒してしまおう。それが世の中の平和に繋がる。
「終わりだ」
「ま、待て!私を殺すと魔王様が強化されて手をつけられなくなるぞ!」
ラヴィは上半身から血を流すこともなく、ただ焦った風に命乞いをする。鼻血は出るのに身体二つになっても血が出ないなんて使徒はどうなっているんだ?
「どう言う意味だ?」
「わ、私が死ぬと魔王様に私の力が行く。魔王様はば――不完全だ。だから我々使徒が力を分け与えられているのだ。その我らを殺せば取り返しのつかないことになる」
「成程。つまり魔王が完全体になるから、殺すのは徳ではないと」
「そうだ!だから見逃してくれ!見逃してくれたら、私はこれから人里には手を出さないし、天界にいつでも連れて行く!貴方の目的は呪いを解くことでしょう!?その呪いは天界へ行かなければ解けませんよ!」
「そうらしいな。お前とエウロスの言っていることが合っているから、それは本当なんだろう」
「ならば見逃してくれるんですね!」
「駄目だ。お前のことが信じられない」
「なっ!ではその売女のことを信じるんですか!?」
「こいつも信じられん。もう俺は俺しか信じない!だから俺は自分で決断する!」
ラヴィを縦に両断する為に剣を振り上げる。流石に頭から二つに割れたら絶命してくれるはずだ。
「動くな!こっちには人質がいるんだぞ!」
振り下ろす前にラヴィはそう叫んだ。ラヴィの視線はクエピーの方にあった。視線を追うと、ラヴィの下半身がいつの間にかクエピーの首に絡み付いていた。そういえばクエピーが人質になっているの忘れていた。
今の話し合いはどうやらクエピーの元に行くまでの時間稼ぎだったか。
「この女は仲間でしょう!どうなってもいいのですか?」
「あぁ」
「ですよね。だったら私を見逃しなさ……今、なんと?」
「どうなってもいいって言った」
「待ちなさい。貴方怒りで倫理観が壊れているんですか?貴方の仲間ですよ?貴方仮にも勇者パーティーに選ばれた人間ですよ!?その一人がそんな外道鬼畜な発言許されるんですか!?」
魔王の使徒に倫理観や道徳を説かれるとは思いもしなかった。人質がクエピーじゃなくてナナリーだったら従っていたかもしれない。クエピーを人質に選んだラヴィは運が悪かった。
「残念だが、この状況でそいつに人質の価値はない」
「こ、この人で無しが!!!最後にこの女を殺してやる!」
ラヴィの下半身がクエピーの首を折るのと、俺がラヴィを叩き斬るのは同時だった。
叩き切ると、今まで話していたラヴィは静かになり、討伐は成功した。
「およ?私は何してたですよ?枕使って寝ていたですよ?頭の後ろにふよふよしたものがあるですよ」
殺されたことにより起床の合図になったか、クエピーがラヴィの股間を枕と勘違いして手探りで触りながら起き上がってから、現物を見て顔を青ざめさせる。
少女の絹を裂いた様な叫び声が世界樹林に響き渡った。
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