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5-10:世界樹林9

「魔王に付け狙われていたのは本当よ!……ほ、ほら嘘発見器とやらも鳴らないわよ!本当なの!全てはあいつよ!あいつが呪いをかけたことが切っ掛けなの!」


 そう涙目でラヴィの方を指さすエウロス。ここまでは本当のことを言っている様だ。さっきの話だと、神も死ぬ呪いと言っていたが、その部分が嘘なのだろう。そもそも天界に死の概念がないし。


「そうなのか?」


 黙って俺たちの動向を見ていた。ラヴィに訊ねると、ラヴィは鼻で笑ってから答えた。


「そうですね。私の入れ替わりの呪いはどうやら成功しているようで安心しましたよ。これで魔王様もより世界征服に注力してくれることでしょう」


「何が世界征服よ!本当は自分が愛してもらいたくて、あたしに嫉妬しただけでしょ!」


「お前みたいな売女に嫉妬するわけないだろう!私はお前みたいな売女から魔王様をお守りするのが私の仕事!決して私情ではなく、他の奴らよりも魔王様に愛してもらおうなんてではない!」


 最後の方の力強さは本音だろうな。だとすればこの呪いをかけたのはラヴィということになり、呪いを解く方法の一つ、魔王を倒せば入れ替わりの呪いは解けると言う目的は果たせる。ただ、そうすると天界へと向かう方法がなくなってしまう。


「お前は天移陣を使えるんだよな?」


「えぇ、使えますが何か?」


「お前だけしか使えないのか?他の使徒が使えたりは?」


「質問の多い人間ですね。天移陣は私にしか作れませんよ。ですが、私が魔王様と融合すれば魔王様も使えないことはありませんが。まぁそんなことは私が倒されなければ起こり得ることのないことですがね」


「そうか。やることは決まったな」


「ひぃぃ!ごめんないごめんない!あたしが悪かったの!あいつに呪いをかけられたけど、あんたに呪いをかけたのはあたしなの!許して!悪気はないと言えば嘘になるけど、こんな事になるとは思っていなかったの!だからアズマ、お願いよ!殺さないで!」


 エウロスは俺の前で土下座をして泣いて謝った。


「顔を上げろ」


「こ、殺さないで…」


「殺さない。やるって言ったのはラヴィをだ。あいつを倒せば天界には一時的にいけなくなるが、入れ替わりの呪いは解けるはずだ」


「ほ、ほんと?な、なーんだ。あいつの事だったのね。てっきりあたしが殺されるのかと思ったわ」


「まぁ殺すまではいかないが帰ったら折檻だからな」


「折檻は嫌だけど、殺されないと分かって安心したわ。流石はアズマ!器が大きい慈悲のある男!よっ男前!」


 あははーとエウロスは俺を煽てながら安堵の表情で笑う。俺も釣られて笑みを溢す。そして笑いながらエウロスが言った言葉を頭の中で復唱して、笑いながら固まった。


「なぁエウロス?さっきお前、俺に呪いをかけたって言わなかったか?」


「そうよー。天界って暇でねー、さっきも言ったけど勇者パーティーの動向を見て楽しんでいたのよ。そんでちょっと前に悪戯でアズマの夢の中に入ったのよ。ほら、あのアズマが罹った病あるじゃない?あれよあれ」


 エウロスは無邪気に白状する。ちょっと待て、いきなり衝撃の事実をぶち込まれて頭が理解してくれない。はっきりと理解できるのは嘘をついていない事。


「お前の妹が俺にかけたんだろ?そう言ったよな?」


「あ、あれはちょっと魔が差したって言うか、その場のノリって言うか、勢いと言うか。アズマが殺すとか言うから怖くなって嘘ついちゃったのよ。あ、もちろん妹自体はいるわよ」


 妹がいるとかどうかは重要じゃないんだ。あの時のエウロスの態度。やけに自分が体験してきた様な目線で語っていたのは、本当に自分で体験していたからか。


「でも、お前とは似ているが、体型や雰囲気は全く違ったぞ」


「そりゃあ、あれは夢の中で作り出した夢の理想系のあたしだからよ。これは秘密だけど、あたしの持っていた水晶玉にはオネイロスの力が宿っているのよ。それでパパに勇者パーティーにちょっかいだしているのがバレそうになったから、バレる前に水晶玉を処分する為に天界から落とそうとしたら、あたしが落ちて、丁度落下地点にアズマがいたってわけよ。ふー、胸のつっかえが取れてスッキリしたわ」


 エウロスは憑き物が落ちたような清々しい顔で冷や汗を拭きながら真実を告白した。嘘発見器は鳴らない。できれば鳴って欲しかった。じゃないと、この剣を今にもこの隣にいる虚言傲慢阿保堕女神へと振り下ろしてしまいそうだ。


 ナナリーは何と言っていいのか分からない表情をしていて、エウロスへと助け舟を出そうとはしない。


「じゃあ何だ?俺が追放された原因はお前か?」


「そうよ。だけどアズマは許してくれるんでしょ?流石はあたしが見込んだだけの男だけあるわ!ラヴィを断る時も勇者を指したんだけど、なんか勘違いしたラヴィがあんたに呪いをかけたのよね」


「なんだ……それ」


「ムカつくわよね!一緒に倒しましょう!そうすれば天界に帰れるし、天界に帰ればアズマの呪いも解けるわ!」


「全部、お前が原因か」


「え?いやいや、待ちなさいな。言ったじゃない、あたしは悪くないわよ。原因はラヴィや魔王よ。魔王が存在しなければラヴィはいないし、ラヴィがあたしに嫉妬することもなかったのよ。だから全部あの糞魔王が悪いのよ」


 エウロスは悪びれた様子はない。既にエウロスの中では俺に許された事柄だと勘違いしているからだ。


「エウロス、俺が許したのは、お前が入れ替わりの呪いをかけたのがラヴィだと隠していことに対して嘘をついた事だ。それ以外のことは一切許した覚えはない」


「え?え?だって………え?」


 俺も嘘偽りなく自分の心を伝えるとエウロスは目を泳がせて、冷や汗をまたかき始めた。その冷や汗を拭っても拭っても、ずっと冷や汗は止まらないようだ。


「恋煩いも、入れ替わりの件も、追放された理由も全てお前が原因でいいんだな?」


「あっ、あのアズマ。ね。ね、ね、ね。落ち着きましょうね。あたしが悪いの。だけどもうどうにでもならないの。今は現実を見ましょう。ほら、あいつもそろそろ我慢の限界よ。こんなに長い話し合いを待ってくれる悪役なんてそうそういないのよ。ね、だから私と一緒にあいつを倒しましょう」


 既に俺の臨界点は限界を迎えて、越えようとしていた。こいつさえ、こいつさえいなければ俺は追放されることはなかった。こんな阿保女神さえいなければ。


 剣闘士としてエウロスを切れる。それが自分の体だとしてもだ。だけど、俺は切れない。


 切れずに怒りを目に溜めて、怒りが涙となって放出される。とりあえず切る前にこの前やられたヘッドバットを返しておこう。


「いやー!アズマ思い直して!いやよ!死にたくなーい!」


 暴れるエウロスの顔面を押さえつけて、ヘッドバットの体制をとる。


「仲間割れですね。実に素晴らしい。ですが、貴方達は魔王様を愚弄し過ぎた。ここで消えてもらいます!」


 ラヴィがまた瞬間移動で突撃してくる瞬間に俺の怒りの粒が地面へと落ちると同時に、俺たちの頭上に影が出来た。それは巨大な水滴で、俺達を包み込んで地面にぶつかると同時に弾け飛んだ。


 ラヴィはそれが俺達の何かしらの攻撃だと思って一旦攻撃をやめた。


 水滴と言うにはあまりにも大き過ぎたが、巨大な水滴は俺達を濡らし尽くした。びしょじょになった俺の手には額を赤くしてぐったりとしたエウロスがいた。


「おやおやアズマ•クラタチは自爆ですか。売女とそこの人間だけなら殺すことは造作もない事でしょう。ではお死になさい!」


 罠ではないと判断したラヴィは空間移動して俺の後ろへと出現して、心臓を貫こうとする。


「その攻撃パターンはもう見破った」


「なっ!がふっ!」


 俺の裏拳がラヴィの顔面に直撃して後方へと吹き飛んでいく。


「な、何!?私の攻撃が見破られた!売女にそんな能力はないはず!だとすれば!」


 目の前には額を赤くしてぐったりとしたエウロスがいる。ここの所鏡を見るとよく写っていた顔だ。まるで自分の顔かと勘違いしてしまうが、これは元々エウロスの顔だ。


「アズマ君?」


 ナナリーが俺を呼んだ。


「何もそんなに驚くことじゃない。俺がアズマ•クラタチだ」


 どうやら俺とエウロスは元に戻ったようであった。

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