1-5:いいから食事しろ!
道中かなりの人に稀有な目で見られたが、仕方ない。
どうせ勇者パーティーから追放された身、どれだけ悪評が回ろうと、それ以上のものはないだろう。
「いらっしゃーい。うえぇ!アズマ君どうしたの!」
行きつけの食事店の扉を開けると、この店の店員である二つに分かれた三つ編みと三角巾が特徴的な女性ニニリーが、引きづられている俺を見て慌てて寄ってきた。
「すまんが、いつものを持ってきてくれないか、あとお冷」
「あ、え?は、はい。かしこまりました。お父さーんアズマ君のいつものー」
掻き入れ時が終わった昼過ぎなので店の中に客はいなかった。
というか穴場の店なので、掻き入れ時でも繁盛はしていない。
エウロスをテーブル席に置くと、力なくテーブルに突っ伏した。それを見てから俺も対面に座る。 こいつの身体が非力すぎて腕も脚も震えているし、既に筋肉痛になり始めていた。どんだけ運動していないんだよ。
「お、お冷です」
「あぁ、ありがとう」
結露したコップを手に取って口へと運ぼうとするが、腕が震えすぎてびちゃびちゃとテーブルに水を溢してしまう。
まだ目の前にいたニニリーと目線を合わせる。
「えぇっと、私がお口まで運びましょうか?」
ニニリーは心が全て優しさでできているのではないかと錯覚する女の子だ。
困っている人を見ると、つい助けてくれる。心優しき女の子。
だが、飲ませてもらうなど男としての威厳が許さない。
「大丈夫だ。自分で飲める」
口まで持っていってコップを傾けると顔面に冷水をぶちまけた。
「あぁ!大丈夫ですか?いまお拭きしますね」
言わんこっちゃないと言われてた気がした。
ニニリーに顔面をハンカチで拭われていると、エウロスが震えていた。
飢餓状態でおかしくなったのかと思ったが、笑っているようだった。
誰のせいでこうなってんだと、ムカついたので足の爪先で股間に蹴り入れてやると、声にならない悲鳴をあげて悶えていた。
俺の身体だし、多少の暴力で傷つく柔な体ではない。だがこちらの股間も痛くなってきそうな悶え方であった。
「あのぉ、アズマ君とどういったご関係ですか?」
「関係?」
こいつと俺の関係か。
恋人とかに見間違えられるのは絶対に嫌だし、ビジネスパートナーが無難。となると。
「す、すみません野暮でしたよね。アズマ君はどうしたんですか?こんなに元気のないアズマ君初めて見ます」
「そんなに気にしなくていい。水を溢して悪かった。こいつとはパーティーメンバーだ」
「いえいえお客様の事にずかずかと聞き入った私が悪いんです。って、アズマ君は別のパーティーに入っているんですけど…」
「元気のない原因はそのパーティーから追放されたからだな。
俺の名はエウロス、その……元々アズマとは組んでみたかったんだよ。そうだ。憧れていたんだ」
ポンポンと口から出まかせ、嘘の上塗りをしておく。そうすることで相手、しいては世間を納得させることができる。
ニニリーは俺と自称エウロスを交互に見る。
とりあえず信じてもらうために愛想笑いでもしておこう。
「あの噂、本当だったんだ……」
「何か言った?」
ボソリとニニリーが何かを言ったようだが、聞こえなかった。俺の身体だったら聞こえているはずだろうから、こいつの耳に兎の排泄物詰まってるんじゃないのか?
「いえいえ何も!あ!そろそろご注文できてるかも!お冷の交換も持ってきてますね!」
トタトタと少々慌ただしく厨房の方へ姿を消していくニニリー。
こんな変な状態の俺を見ればそりゃあ逃げたくもなるわな。
「お待たせしました~。いつもの水風船豚のソテーとワイルドポテトの盛り合わせに、シュガーナッツサラダです」
エウロスの目の前に料理が運ばれてくるも、チラリと料理を見るだけで手につけようとはしなかった。
「どうした?食べないのか?」
「どうして私が下界の食べ物なんて食べなきゃいけないのよ。不浄よ不浄」
「そうか、なら仕方ない。食べないのなら俺が食べるが」
ポテトの盛り合わせの山からひょいと取り上げて口に運ぶ。
「うーん。ガッツリとした歯ごたえのあるワイルドポテトは美味しいな!なぁニニリー」
「えっ?あ、はい」
「どれどれ」
ぐうううううううううう。と、ワイルドポテトに更に手をつけようとしたところで、エウロスの腹の音が店内に鳴り響いた。身体は素直なこった。
「アズマ君。無理しちゃだめですよ?」
「む、無理なんて・・・していないわ」
ぷるぷると身体を震わせながら言う言葉じゃない。とにもかくにも食べてもらわないと、俺の身体が死んでしまうので、食欲を煽る。
「そうだぞー、こんなにも美味いご飯が食えるのはここだけだぞ~」
「だって・・・下界の食べ物は・・・不浄って・・・」
「あぁ!もうまどろっこしいな!いいから食べろ!」
ワイルドポテトを掴んでエウロスの口に突っ込んでやった。嫌々ながら、もぐもぐと口を動かしてポテトが口の中に消えて行く。
「おっ」
「お?」
「美味しいじゃない!」
ポテト一つで元気を取り戻してナイフとフォークを持って食べ始める。
食わず嫌いにも程があるだろ。
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