5-4:世界樹林3
「ギ?きさっ!」
「女神パーンチ!」
エウロスの拳がゴブリンの顔面を破壊する。何か喋りかけていたが、ゴブリンを見つけるや否やエウロスは攻撃し、ゴブリンの顔面は苺を潰したように潰れてしまった。
「これよこれ!このモンスターを倒さないと始まった〜って思えないのよね!やっとあたしの冒険が始まったって感じよ」
「やー!何で私のローブで手を拭うですよ!ハンカチあるですよ!」
「お姉ちゃんが綺麗にしてあげるね」
樹林の浅い場所を通り過ぎたのか、ゴブリンが出てくるようになった。だが鍛え上げられた俺の身体と、エウロスの風の力の前ではゴブリンは雑魚モンスターと化していた。
ゴブリンは仲間を呼ぶ前に倒さないと仲間を呼んで大変な目にあうから、一匹で行動しているならばすぐ様討伐するのは理にかなっているが、エウロスはただゴブリンを討伐して見たかったという好奇心で動いているだけだろう。はた迷惑な奴だ。
前の三人はモンスターに会う度に何やら賑やかに騒いでいる。割と命の危険があるはずなのだが、緊張の糸を張っているのは俺だけのようだった。
「シュッシュッ!あたしのパンチは風を切るわシュッシュッ」
調子に乗っている口で擬音を発しながら木をサンドバッグに見立ててシャドーボクシングをするエウロス。ノリに乗っているな。
「あーエウロス神その木触らないでねー」
そんなエウロスを見て地図から目を離してナナリーが言うと、エウロスはこちらを向きながら木に拳を入れた。
「何でよおおおおおお!なになになに!世界が反転したんですけどおおおおお」
ナナリーの忠告を無視してシャドーボクシングなのに木を殴ったエウロスはいきなり木から降りてきた蔦に掴まれて逆さ吊りにされ、ぐるぐると空中で回され始めた。
「これはピエロウッズって言って、木に擬態したモンスターだよー」
「せつめいはああああいいいいからあああ助けてえええええ」
振り回されているエウロスの声がサラウンドで聴こえるのが面白い。いや、面白がっている場合ではない。あの調子乗りを助けてやらねば。
脚に力を入れてピエロウッズの幹をおもいっきり蹴る。普通なら脚が折れてしまうだろうが、割と自分の力を発揮できるようになったので、この程度なら折れもしない。なんなら折れたのはピエロウッズだった。
「ま、こんなもんか。エウロス大丈夫か?」
と、振り回らされていたエウロスを探してもエウロスはいなかった。
「エウロス神はあっちに飛ばされた模様」
ナナリーが指さす方向は進行方向と同じだった。
「やーんお姉ちゃんが今助けに行くからね!」
「一人は危ないよー」
イマテラスさんがお姉ちゃん風吹かせて先に行ってしまったので、ナナリーが着いていってくれた。
「仕方ない。俺たちも行くか……クエピー?」
クエピーが返事をしないので後ろを振り向くと、なんとクエピーが上はタキシード姿で下半身は尻丸出しの褌姿の男に抱えられているところだった。
俺とその変質者は目が合う。クエピーは抱えられていて、俺にはクエピーの小さなお尻しか見えない。
変質者の顔は清潔感があり爽やかな男性だった。だがしかし上半身はタキシードで下半身は褌というあべこべで不審な姿だった。
そんな男がこのモンスターが溢れる世界樹林で年端も行かないクエピーを抱えている。何が異常か。何もが異常に思える。多分何もかもが異常事態だ。
「ど、どなたですか?」
振り絞った質問はまず有害か無害かを判断する質問。見た目は有害だが、中身は無害かもしれない。
「この子の彼氏です」
男は爽快感を感じない答えを返してきた。もちろんだが、クエピーに彼氏などいない。こんなモンスター食いの少女を好きになるやつは天地がひっくり返ってもいない。
質問の判定は有害判定ということで。
「クエピーを離せ!この変態!」
「はうう!」
そう言うと男は悶絶したかのように腰をくねらせた。その動きを見て背筋にぞわぞわと寒気が走る。なんだ、今の動き、精神的な攻撃か?
「離せと言えども私はクエピー?さんの彼氏ですから」
「クエピーに彼氏なんかいるわけないだろ!モンスターを食うんだぞ!そんな下手物好きがいるか!」
「ここにいます!」
堂々と嘯く奴だ。攻め方を変えるか。
「お前が仮に彼氏だとして、何でこんな世界樹林にいるんだよ」
「そ、それは………そうです!デートです!」
「成程ねデートね」
「納得していただけましたか?」
「おう。納得したわ。クエピーを連れてデートを楽しんでくれ……って!そんな訳あるかぁ!!!!!」
渾身のツッコミと共に剣を抜いて男に振り下ろす。それなりに素早い動きで抜いて振り下ろしたのだが、男はひらりと避けてしまう。
有害判定したとしても、殺すわけにはいかないから峰打ちですまそうとした攻撃でも、当てる気ではいた。それをクエピーを抱えながら簡単に避けられてしまった。俺の矜持が傷ついちゃったよ。
「危ないですね。貴女剣を使えるようになったんですか?」
「何?」
「それに私に向けている感情は嫉妬ですか?だとすれば、あぁ…あぁ!あぁ!なんと!何と心地よいのか!」
変質者は気持ち良そうに身震いする。あらやだ、こいつと関わるなって身体が警戒信号を赤信号で鳴らしているよ。だがクエピーを取り戻すまでは関わらないといけない。
というかクエピーはどうして一言も喋らないんだ?それに抵抗もしない。見た感じ気絶しているわけでもなさそうだが。
「私をもっと心地よくしてくれるんでしょう……いえ、いえいえ、だけど私には使命がある。取らなければいけない物がある」
「何をごちゃごちゃと、こっちだって世界樹の夜露が必要なんだよ。さっさとクエピーを返せ!」
「おや?目的は同じようですね。ならば尚更貴女の邪魔をしましょう」
「ちょっと!何で助けにこないのよ!」
変質者が何か行動に出ようとした瞬間に俺の背後からエウロスの声がした。俺がチラリと後ろに気を取られた一瞬で変質者は気配を消して姿を消してしまった。
「何をボーッと突っ立ってんのよ。あれ?クエピーはどこよ?トイレ?」
枝や葉っぱを体につけた間抜けなエウロスは小首を捻りながら俺に尋ねてきた。何だかよく分からないがまたこいつのせいで面倒なことに巻き込まれている気がするのは、気のせいではないのだろう。
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