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5-1:落胆女神

 春の大嵐繚乱もといキラポンを退けさせることに成功してから二日経った。キラポンの暴風で吹き飛ばされて重めの怪我を負った人間はフーカイネ村で同時療養し、軽症だった人間と共に俺達は無事ヴェルサスへと帰ってきた。


 そこで俺達は大嵐を退けた事を先に知っているであろう住民達に歓迎されるはずだった。だがしかし、ヴェルサスの住民はそれどころではなかったのだ。


 帰還して目にしたのは、ヴェルサス入り口の外壁は崩れ、検問所は破壊され、入り口付近の家屋は倒壊したり、焼け焦げたりしていた。


「な、何よこれ」


 変わり果てた街の姿に先頭にいたリーベが呟いた。


「おぉおかえり。ちゃーんと撃退できたみたいやね。お疲れさん」


 俺たちの姿を見つけてから、労いの言葉をかけながら出迎えてくれたのはマガツヒさんだった。


「マガツヒさん、どうしたんですかこれ?」


「んーやっぱ気になるよね。簡単に説明すると、魔王軍に攻められた」


「魔王軍に!大丈夫だったんですか!」


「大嵐撃退に参加してなかった手練れのギルド員がおったから街中までは侵攻されへんかったけど、壁を少し越えられてな。ご覧の有り様や」


 いつものように掴み用のない笑顔だけど、悔しさや怒りのような感情を含んでいるはずだろう。


「ま、一応は撃退したしな。君らもお疲れやろ?早くクエスト報告して体休めた方がええで」


「そうさせてもらいます。行こう」


 撃退したなら今の俺たちに出来ることはない。修繕修理のクエストは出ているだろうが、それを手伝うのは明日以降だ。キラポン撃退以降身体が疲れで悲鳴を上げている。


 クエピーとイマテラスさんは俺の後について来たが、エウロスだけは一点だけを見つめて動かなかった。


「おい、どうした?」


「ねぇ、あれってあたしが作ったやつよね?」


 そうエウロスが一点だけを見つめている先には、ここ数日汗水垂らして苦手な大工仕事をこなし、最後には親方に褒められた出来のアーチが無惨にもただの残骸となっていた。


「あのちょっと歪なのはお前のだな……まぁ何だ。残念だったな」


「そうね……」


 ふっと悲しげに鼻で笑うとエウロスはとぼとぼとギルドの方へと歩き出した。意外にも落ち込むんだな。もうちょっと声の掛け方に気を遣ってやっても良かったかもしれない。


 それからクエスト報告を終えて、全員がクエスト報酬を貰った。特別報酬はこんな状況だから後日決定した後に支払われることになった。


 エウロスならごねるかと思ったが、ここでもやる気のない一言を呟くだけだった。


 これは相当重症だと思ったので、お金も手に入ったことだし久しぶりにハンナリー家へで食事をしようと提案した。


「今日はお前の好きもの頼んで良いぞ」


「わーい!じゃあヘビウシのサイコロステーキですよ!」


「お姉ちゃんはねー、美肌定食!」


「クエピーとイマテラスさんは自分で支払うのは当然だぞ?」


「嘘つきですよ!」


「アズマちゃんだけ贔屓だー」


 二人とも俺が奢るのが当然だと言う態度だった。この二人俺達が借金しているって知っているよな?


「何とでも言え。で?お前は何を頼むんだ?」


 ぶーぶーと言っている二人を無視してエウロスに尋ねる。


「あんたのと一緒でいいわよ」


 やはり元気がない言葉が返ってくるだけであった。飯の時にここまでテンションが低いエウロスを見るのは初めてなので扱いに困る。


「アズマ君、エウロスさんどうかしたの?」


 注文を聞きに来ていたニニリーに耳元で話される。ニニリーにエウロスが落ち込んでいる理由を話してやる。


「それで。確かに自分で作ったのを蔑ろにされると嫌な気持ちになるもんね」


 料理を作ったりもするニニリーは作り手の気持ちになって共感していた。


「飯を食えば立ち直るかと思ったんだが、思い違いだったようだ。あとは寝たら忘れてくれるか?」


「エウロスさんってそんなに単純……かなぁ?」


 エウロスを擁護しようとしたようだけども、今までのエウロスの事を思い返してぎこちない回答だった。


「ニニリーも何か元気付けてやってくれないか?」


「わ、私が?えぇっと、えぇっと。ま、毎日朝ごはん作るよ!」


 ニニリーが意を決してエウロスを元気づけてくれた。


「ニニリー、それは別の意味に聞こえるから、また違った元気づけで頼む」


「えっ!?あっ!うん!あのあの……これで、どう?」


 ニニリーは服の裾を捲って自分の二の足を見せた。あー健康的な肌色に、立ち仕事なので程よい筋肉がついた御御足が素敵。


「ニニリーさん!何やってんの!?」


 ついつい綺麗な脚だったから感想を言ってしまったが、我に返ってツッコミを入れる。


「えっ、えっ、だってアズマ君脚が好きだって聞いたから……嫌いだった?」


「好きだけども!いや待て待てお前らそんな目で見るな!脚を隠すな!好きだからって全部色目で見てないから!つーか誰情報だよ!てかちがーう!ニニリー、俺を元気付けてどうするんだ!」


「あ、そうだよね。えぇっとじゃあ唐揚げ定食の唐揚げオマケするね!」


「ありがとうね」


 いつもならエウロスが涎を垂らして喜ぶ内容なのだけども、エウロスは乾いた笑いでニニリーに礼を言うだけだった。


「重症だね」


 あの優しいニニリーが匙を投げる程エウロスは傷ついているようだった。

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