4-10:豪雨の子
「エウロスたま!」
この豪雨の中でも透き通るような声で、キラキラと目を輝かせながら俺の事を見つめている子供。
「おいエウロス、何だこいつ」
「はぁ!?何?だから大きな声で喋り…なさい……よ………」
隣にいるエウロスを呼んでいるようなので、エウロスに声をかけると、次第に声が雨音で消えて行った。
「エウロスたま?どうして無視するでちか?キラポンでちよ?」
キラポンと名乗る子供は自分の存在を主張する為に、未だに無視を決めている俺の脚をゆさゆさと揺らす。
「あ、あ、あ、あたしは認知しないわよ!そんな子知らないわよ!あんたの子よ!そう!現段階ではあんたの子!」
狼狽した様子でエウロスは人差し指をを俺に突き付けた。
「えぇ!もう子供作ったですよ!?」
「えぇ!お姉ちゃんが義姉ちゃんになっちゃうってこと!?」
「違う!紛らわしいことを言うな!この子は一体誰なんだよ!」
「キラポンはキラポンでち!あ!そうでちた!」
俺の質問にはこのキラポンと名乗る子供が答えてくれるようで、一歩離れてキラポンは大きく息を吸った。
「あたちは豪雨の子!下位ウネモイ、キラポン!」
そして自分で考えたのかポーズを決めて名乗り直した。
下位ウネモイ。その単語は最近覚えた。神学に疎いので、休みの日にナナリーのところへと通って神学のお勉強をしていた。最初に覚えたのは主にエウロス周辺のことだが。
そのエウロスの眷属にあたるのがキラポンで、その眷属達を纏めた呼称がウネモイだったな。
キラポンは確か冬と春の間の雨風を司る神だったはず。だとすれば、このタイミングで現れたとなると、俺達が撃退する繚乱が目の前にいるのかもしれない。
「な、なぁキラポン」
「なんでちか?エウロスたま!あたち急いでエウロスたまの元に来まもごもご」
「やーね何か言ってるわ、このモンスター。ほら急いで退治しましょ!こうこのまま首を折ればいいのかしらね」
エウロスは愛想笑いのような笑いをしながらキラポンの口を塞ぐ。顔は笑っているが目が笑っていないし、行動が物騒だ。本当に神の間では殺戮が流行っているのか?
俺が助けようとするとキラポンはエウロスの手を噛んで抜け出した。
「何するでちか人間!」
「いったー!噛まれた!噛んだわよ!危険よ!討伐対象よ!早く!ハーリー!ハーリーアップ!」
「うるさい」
必要以上にキラポンを屠ろうとするエウロスの顔を押しのけて、キラポンの前に立つ。
「キラポン。お前はこの大嵐を生み出しているのか?」
「そうでちよ!あれ?エウロスたまがあたちを呼んだんでちよね?」
「どう言うことだ?説明してくれ」
「えーっと。エウロスたまが来てくれーって念じた、もしくは言葉にしたから、あたちがその想いをビビビーッと受け取って急いで駆けつけたでち!」
キラポンの説明を聞き終わって追加の説明を求めるようにエウロスを睨むと、エウロスは気まずそうに目を逸らした。はい、犯人確定。
「お前なぁ!!」
「違うのよ!故意じゃないのよ!説明をさせて!暴力の前に説明をさせてよ!お願いよぉ!」
「あぁやって主導権握っているんですよ」
「DVってやつね。駄目よお姉ちゃんは暴力反対です」
「断じて違う!……いいから説明してみろ」
二人が要らぬ誤解を招いているのをいちいち解消していられないので、説明責任のあるエウロスの説明を聞こう。
「あのね、あたしにはウネモイっていう私設の眷属団体がいてね。その子達とは念と言葉で繋がっているの。特に感情が昂った時に呼応してしまうのよね。それでね、シマス討伐時に言ったことを覚えているかしら?」
「お前の発言はいちいち覚えてない」
「そ、そう。あたしは嵐で試練を与えたりする。って言ったのね。それが多分キラポンに伝わったのか、来ちゃったの」
あぁ確かにそんな事を言っていた気はする。
「お前がこの嵐を呼んだって事で良いな?」
「はい。あたしが呼びました」
しゅんと目にわかるように落ち込んでエウロスは答える。ガタガタと震えているのは寒さからではないだろう。
「あたちはどうすればいいでちか?」
キラポンは小首を捻って尋ねてくる。
「キラポンはこの大嵐を司っているんだよな?」
「そうでち!」
「よし、じゃあ、進路を変更してくれ」
「えぇっ!今からでち!?」
「出来ないのか?」
「出来る出来ないで言うと出来るでち。でもでもあたちが存在保てないでち!」
「そんなことか。大丈夫だお前には俺がついているだろ」
キラポンの肩を叩いて微笑む。キラポンは神と言えども下位の神、己の力をしっかりとした目的で使わないと存在が保てなくなるのだ。だが、その上位の存在であるエウロスが指示したとなれば、エウロスの力が補ってくれる。みたいなことが書いてあった気がする。
まぁ最低でも存在は消えないが、今後力を使うのに時間を要するだろう。俺には関係ない事だ。
「鬼よ」
それを知っているのはエウロスだけのようでボソリと呟いた。
「何か言ったか?」
「何も言ってないわよ!」
睨みを効かせるとわざとらしく口笛を吹く。
「出来るな?キラポン。俺はお前を信じているぞ」
「信じている?」
「あぁ!頼りにしている!」
「本当でち!?他のみんなよりもでち!?」
「あぁ!誰よりもお前が一番だ!」
「よーし!頑張るでち!」
勢いに乗せるとキラポンは両手に力を込めて、その力を天高く掲げるように解放した。
すると雨音が次第に小さくなり、どす黒かった雲が遠ざかっていく。
「凄いな……って、あれ?キラポン?」
雨が降る前の曇り空だけを残したキラポンの凄さに驚いていると、今まで目の前にいたキラポンがいなくなっていた。
「いったわよ」
「そうか」
キラポンは嵐と共に去ったか。まぁこれで当初の目的通り春の大嵐は撃退できただろう。あの団扇を仰ぐ労力と比べれば簡単であったな。
「あ、アズマって結構薄情なのね」
「そう……なのか?」
他人からそう言われると気にしてしまうが、今回の場合はこいつが招いた災いなので、こいつに言われるのは癪に触る。
「あれ?皆さんがいないですよ?」
「ホントだー。リーベちゃん達はー?」
クエピーとイマテラスさんが言う通りに、あたりを見回すと俺達しかいなかった。
「あ、そうそう。この雨合羽ね、風を一切受け付けないのよ。だからさっきよはゲリラ豪雨並みの雨粒だけじゃなくて、家をも吹き飛ぶ風速だったわよ」
「つまり?」
「全員吹き飛ばされたわね」
こうして俺達は春の大嵐を撃退したが、吹き飛ばされていった仲間達を救出するのにとんでもない労力を消費したのであった。
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