4-3:突撃隣の群れ
春の大嵐。今年の春の大嵐の名前は繚乱。最大風速が非常に高く、繚乱が通り過ぎた後は、屋根や看板が道路に落ちていたりする。恐らくだが俺達が住んでいる家は今回の繚乱通過に伴い吹き飛ばされるであろう。
「そもそもそんな台風をどうやって撃退するですよ?」
モンスターではないので興味が薄いクエピーは俺に質問してくる。
「これと言った撃退方法はないな。強いて言うなら力技で逸らしている……とか?」
「どう言うことですよ?」
煮え切らない説明にクエピーは追求してくる。
「前方にいるホムホムのことを知っているか?」
台風繚乱を撃退に向かっている列の先頭に立つのはユウヒを抜いた勇者パーティー。リーベにガウェインにホムホム。台風繚乱を退けるにはホムホムの力が欠かせないのだ。
俺達は、というか俺がガウェインを視界に入れたくないから最後尾にいる。
「はいはい〜お姉さんホムホムちゃんのこと知ってるよ〜。ちいちゃいお顔なのに、くりっとした大きい目が可愛くて、まるでお人形さんみたいな子なの!しかも声も可愛くて聴いているだけで幸せなの!」
確かにホムホムは愛玩動物のようで愛らしいが、俺が訊いたのはそこではなかった。
「ホムホムの見た目は置いておいて、加護の話だ。ホムホムの加護は物を作り出す加護で、その力を使って超巨大な団扇を作り、それを仰ぐ」
「馬鹿なの?」
間髪入れずにエウロスに言われてしまう。台風に対して団扇で仰ぎ返して進路を逸らすなんて言葉にしても、文字にしても馬鹿らしいな。
だがこれが今のところ一番効果的な方法なのだから、ずっと続いてきたのである。
「超巨大な団扇をどんなのか想像できてないようだが、三十人でようやく持ち上げられる程巨大な団扇だぞ」
「馬鹿なの??」
エウロスは心底馬鹿にした表情と疑問符を含んだ表情で言う。風を司る女神だからこその反応なのかもしれない。
「お前が言いたいことは分かる。風で煽られたり、俺達が吹き飛んでいくと思っているのだろうな」
「そうじゃないの?」
「そこでリーベの出番だ。リーベはヘラの加護を持っているから、生命に関わる力を扱える。肉体増強を使うと団扇を持つ人数が減り、進路を避ける力も増す。本当はそこにユウヒの力も加えて万全の状態でやるんだがな」
ユウヒの加護の一つである自然の力を身体に宿すという加護で風をものともしないことが出来るので、必須と言えば必須の人物であったが、いない人間を求めてもしょうがない。
「ふーん。あの子ママの加護を受けてるんだ……あっ!なるほどね」
エウロスは俺の顔を見て何かを思い付いたようだった。どうせしょうもない事なので聞く気もない。
「台風はモンスターではないんですよ?」
「モンスターではないのだが、モンスターを孕んでいると言えば良いのか、モンスターを巻き込んでいると言えば良いのか……」
「あのねあのね台風が強ければ強いほど、その風に乗ってモンスターや動物が飛んでくるだよ」
強風と共に台風の通り道となった場所のモンスターや、動物や草花の種が飛んできて、後日の後片付けが大変なこともある。毎年毎年、意思を持ったように嫌がらせのように、新種のモンスターを持ってくる。ピントガニとかもその手のモンスターだろう。
「成程、じゃああれもそうですよ?」
「あれ?」
クエピーが指さす方向は俺たちの隊列の側面。遠くから土煙を上げながら何かの群れがこちらに向かってきている。
目を凝らしてよーく観察すると、もっさりとしたアフロのような体毛から猛々しい巻角が生え、走ることだけのために鍛え上げられた四肢を動かしているモンスター。バッファローサンシロウの群れが向かってきていた。
「今日の晩御飯ね!大工仕事で力がついたあたしの前には敵はないわ!よーし狩るわよ狩るわよ!」
エウロスは腕をぐるぐると回して一人で突っ込んでいく。
「あ!おい馬鹿!」
俺が止める間も無く突っ込んでいき、先頭のバッファローサンシロウに突撃されて、思いっきり吹っ飛んで帰ってきた。
「いだぁい!擦りむいたぁ!」
「その程度で済んで良かったな」
「バッファローサンシロウは一頭でBクラスですよ。それが群れになると、Aクラスになるですよ。それにそれにあの強固な巻角は大木をも抉ると言われているですですよ」
俺の身体じゃ擦りむいた程度では済まなかっただろうからな。
「お姉ちゃんがやっつけちゃおっか?お姉ちゃんにパワーを送ってもらえれば、いつでもできるよ!」
そうイマテラスさんは期待と羨望の眼差しで言う。イマテラスさんの言うパワー。オネイチャニイム?を摂取すると、オネイロスと入れ替わるらしい。何故入れ替わるかは本人達も知らない。
「いや、ここはパーティーリーダーの出方を伺う」
「あんたの?」
「俺達のパーティーはもっと大きなパーティーの中にいる。一番前と中間と後方でパーティーが割り振られているのは訊いたな?」
「だから後方のパーティーをまとめるリーダーがあたしだから、実質的にあんたになったのよね?」
「それらを統括しているのが勇者パーティーだ。だからリーベの出方次第で、俺はそれに従う」
「あーやだやだ指示待ち人間って可哀想。自信持って突っ込むあたしを見習いないなさいよね」
「お前のは傲慢な自殺行為だ。他のメンバーが真似したらどうなる」
「あのー、他の人達行っちゃいましたですよ?」
「は?」
エウロスが突っ込んだせいで後方が突撃しなければならないと思ったのか、後方にいた命知らずなパーティーが突っ込んで行っていってしまった。
「なるほとね、あぁなるのね」
突っ込んで行った人員がバッファローサンシロウの群れにお手玉のように遊ばれているのを見ながらエウロスは感心して呟いていた。踏み蹴られなくて安心したが、一刻も早くも助け出さなければ!
「感心してる場合か!エウロス!クエピー行くぞ!」
「はいですよ!」
「しょうがないわねー」
「お姉ちゃんはー?」
「イマテラスさんは俺達を応援してお姉ちゃんパワーをください!」
「わーいするするぅ!」
イマテラスさんを置いていかないと、オネイロスがギルドメンバー事消し炭にしかねないからな。
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