4-2:ファンです
「全員揃いましたですよ」
暗雲が遠くに見える出発の朝、四人全員が揃ったのを確認してクエピーは言う。
「遅れてすまんな。こいつがぐずってな」
クエピーとイマテラスさんが先に来ていて、最後に俺達が到着したのだ。遅れた理由はエウロスにある。
「また二日酔いですよ?」
「頭痛いの?お姉ちゃんがよしよししてあげようか?」
「その程度ならいいんだけどな」
俺の背後で身を縮めているエウロスを二人は覗き込む。
「何ですよ?雨ガッパですよ?」
「あらあら可愛い。ぎゅってしていい?」
エウロスは春の大嵐対策と謳って自作の雨合羽を珍しく夜鍋して全員分作っていた。俺の分も作っていたのでただ見ているわけにもいかずに、手伝っていたら、そのせいでお互いに睡眠不足で起床時間がズレてしまった。
どうしても雨ガッパが必要だと譲らないので、エウロスのせいである。
「ほら!あんた達のよ!絶対着なさいよ!着なかったら今後近寄らないでよ!」
と、俺に対して言った脅し文句を言いつつ、二人にエウロス特製雨ガッパを手渡す。
「やーんアズマちゃん指が痛々しくて初々しい〜私達のために苦手な針仕事をしてくれたのがビンビンに伝わってくる〜お姉ちゃん凄く感動しちゃう!」
エウロスの指は何度も針が刺さった刺し傷があり、いくら俺の硬い皮膚といえど、何度も何度も同じ場所を刺していれば傷もつくものだ。細かい作業が苦手で面倒くさがり屋のエウロスがここまで行動的になるのは特別報酬のためだろう。
「わーいエウ……アズマさんありがとうですよ!」
二人は雨ガッパを着て雨風を凌げる装備を着用した。
「その雨ガッパにはあた……エウロスの加護が載っているから、防水防風対策は万全よ!大嵐が何よ!あたしはその上をいくものよ!どこからでもかかってきなさいな!」
意気込みは万全のようだが、こいつが意気込んでいる時は何がやらかしそうで肝を冷やす。
「わー凄〜いサイズもピッタリ!どうして分かったの?」
そういえば俺はともかく二人のサイズを測ってもいないのに丁度いいサイズなのは不思議だ。
「ふふん。それはね。あたしは人の身体を見るだけでスリーサイズが分かるのよ!凄いでしょ!」
「やーんエッチだ」
「男性が女性にしていい発言じゃないですよ」
エウロスの発言に周りに集まった女性ギルド員達に白い目で見つめられる。俺がいつもそんな目で女性を見ている人間と思われてしまうじゃないか。
それにしてもランクをBBに下げたからか、いつも迎撃に赴いている人物達とは顔ぶれが違った。
何だかガラの悪い奴も混じっているし、統率者がいないと被害が大きくなりそうな予感がする。
「ア、アズマ!さん……」
ピンクのモヒカン頭でサングラスをして自分の顔程に大きい肩パッドをつけたガラの悪さ筆頭の男がエウロスに声をかけた。
俺は直ぐにモヒカンから目を逸らす。
このモヒカン前にエウロスと握手していたやつか。
「あら、ガウェインじゃない。何々?あんたもこのクエストに出るの?」
「そそそそうです!ユウヒさんがいない分俺も頑張らないといけないので!アズマ!さんとも一緒にクエストに行けて光栄です!」
「良い心がけよ!流石はあたしのファン一号ね!」
鼻高く胸張って偉そうに言うエウロスの袖を引っ張る。
「おい、誰だ?俺はこいつを知らんぞ」
「そうなの?あんたのファンであり、闘技場での後輩とかなんとか言っていたわよ」
闘技場。後輩。その二つの単語で自分の過去と照らし合わせても、この奇抜な格好の男が検索にヒットする相手はいなかった。
ガウェインという名前で後輩なら、一応いたにはいるが、もっと細身で女の子と間違うくらいの奴だった。だから同一人物ではない。
「もっと繊細な奴なら知っているが、こんなに厳つい奴は知らないな」
「ふーん。結構熱心なファンよ。ほら、あの肩パッドに彫ってあるイニシャルあんたの名前よ」
「そんな情報はいらん!とにかく俺の視界にはあまり入れないでくれ」
「何よ冷たいわね。あんたのファンよ。あ、分かった照れてるのね。照れ隠しね。押すな押すなの反対ってやつね!ガウェイン自己紹介しなさいな!」
エウロス独特な曲解でガウェインの背中を叩いて俺の前に押し出した。
馬鹿野郎そいつの頭がピンクだから目も合わせられないんだよ。と、当の本人を前にして言えるわけもないので、俯くしかない。
「俺、ガウェイン•ハニヤスです!アズマさんが去った後の闘技場の覇者で、今はユウヒさんのパーティーでお世話になっております!」
見た目とは裏腹で礼儀正しくお辞儀するガウェイン。闘技場も勇者パーティーに関しても俺の後釜か……なんか気まずい。
「クエピーですよ!」
「イマテラスよ。イマお姉ちゃんって呼んでね」
「エウロスだ」
「クエピーさんに、イマお姉ちゃんさんに、エウロスさん」
ガウェインが喋る度に目にこべりついたモヒカンを思い出してしまい、あの女神が頭の中に現れる。
そうなると心拍数が上がってきて、息も上がってくる。胸が苦しいし、もどかしい気持ちが昂ってくる。このままではマズイ。ガウェインから離れなければ。
「ちょっとどこ行くのよ!」
「お手洗いだよ」
俺は嘘をついてでも、この場を離れることにした。
「ごめんねー、あいつ照れ屋なのよ」
離れて行く際に背中からそんなエウロスの言葉が聞えてきた。エウロスの馬鹿は戻ってきたら修正してやる。
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