3-10:蟹
「あー!あんた達どこ行ってたのよ!」
無事にピントガニを討伐し終え、蘇ったクエピーにピントガニの一部を食べさせてから、クエスト報告のためにギルドへと戻ってくると、エウロスが俺たちを見つけて近寄ってくる。
「どこってクエストだが?」
「あたしを置いて!?さては美味しいものを食べに行ったわね!?ズルいわよズルいわよ!」
ようやく春芸祭準備のクエストを終えたようで、本日分のストレスを俺達に当ててくるエウロス。
「あ、じゃあ私がクエスト報告してきますですよ」
察したクエピーは面倒ごとに巻き込まれないために、ピントガニを持って受付へと逃げてしまう。
「あ!アズマ!あんた何逃げてんのよ!」
と、そこへエウロスを追って目くじら立てながらリーベがやってきた。何か面倒ごとの予感がひしひしと伝わってくるので、身構えておく。
「げっまた来た」
「何よ!来ちゃ悪いの!?さっきから私のこと避けてばっかり、そんなに元パーティーメンバーとは話したくないわけ!?」
「ねぇアズマ、どうにかしなさいよ。あの女ずっとあたしに突っかかってくるのよ。元々あんたのパーティーメンバーでしょ。てか何したらこんなに必要以上に追われなくちゃならないのよ。あんた一体どんな因縁付けられてるのよ」
リーベは無視すると怒るし、自分の目的が達成されなければずっと執着する性格だ。エウロスはそのことを知らないし、そもそも知り合いではないから適当な事を言って逃げていたのだろう。
「因縁と言う因縁はないが、あいつは俺の事をあまり好いてないんだ。だが真摯に向き合えば聞き入れてくれるし、納得もする。だからこう言え」
エウロスへとごにょごにょと耳打ちしてやる。真摯な態度とは程遠いエウロスがそれをできるかどうかは知らないが、言わないよりはマシであった。
「あた……俺は今ちょっとした記憶障害なんだ。だから昔の仲間と出会っても分からない時がある。すまない」
「えっ……それが言っていた病気?」
「それとは違うんだけど……まぁすまない」
急な返答でアドリブも入れられずエウロスはただ謝った。謝るのは嫌だとか言いかねなかったが、リーベの執着心をその身で味わったようなので素直に伝えた事を言ってくれた。
リーベは少し気まずそうな顔をしていた。
「ねぇアズマ訊きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「何であんたから他の神の気配がするのかしら?」
「へぇ、そこのところの鼻は効くんだな」
周りに配慮しながらエウロスの質問に感心して返そうとすると。
「リーベちゃんリーベちゃん」
オネイロスからイマテラスさんに戻ったイマテラスさんが、リーベの肩を叩く。
「イマ、どこ行ってたのよ」
「えっとね、エウロスちゃんとクエピーちゃんと一緒にクエストに行ってたんだ。それでね、それでね、一緒にパーティーを組まないかって誘われちゃった」
「えぇ!」
「えっ!」
俺がイマテラスさんの中にオネイロスがいると伝えてエウロスが驚くのと、リーベが信じられないものを見るように驚くのは同時だった。
「イマ!アズマのところはやめなさい!あいつは女性なら誰でも手を出す男よ!獣同然よ!」
「え〜?そんな人には見えないけど」
「オネイロスと仲間になるなんてあり得ないわ!オネイロスってあぁ見えて武闘派で有名なのよ!しかも怒りっぽいし、性格も悪いわよ!」
「怒りっぽいが、お前のように愚図な神ではなかったぞ」
「男は全部獣よ!」
「神は全部愚図よ!」
リーベとエウロスって正反対な性格をしていそうだが、根本的なところでは似ているのかもしれない。
「あそこならありのままの、お姉ちゃんでいられるの。だからリーベちゃん心配しないで」
「オネイロスは俺達の手伝いをしてくれる。神が仲間になるなんて有難いし、日雇いのクエストをしなくてもいいかもしれないんだぞ」
リーベもイマテラスさんに言いくるめられ、エウロスも俺に返す言葉もないようだ。
「「どうなっても知らないから」」
エウロスとリーベが同じ言葉を吐いて、お互いの了承が終わる。
「アズマ!イマのこと泣かしたらタダじゃおかないんだからね!」
「あぁ安心しろ。泣かされるのはこいつだろ」
「あんたには言ってないわよ!!!ふん!」
いつもの調子で俺が答えてしまってリーベの機嫌を損ねてしまったようだ。
「じゃあ私は帰るわ!」
「あっリーベちゃん。それじゃあアズマ君、エウロスちゃん。またね」
イマテラスさんは今度はリーベを追うようで、俺たちに手を振って急足でリーベと肩を並べた。リーベの横顔は怒っているようだったけど、どこか嬉しそうだった。
これでイマテラスさんとオネイロスが俺達のパーティーに加わった。
「あれ?イマお姉ちゃん帰っちゃったですよ?」
クエスト報告を終えたクエピーがゼンが大量に入った皮袋を持って帰ってきた。
「あぁ。だがパーティーには入ってくれるようだ」
「そうですよ!?なら良かったですよ!これでまた珍しいモンスターが食べられるですよ」
結局クエピーの目的はそれか。ヒントママを討伐してでも食べる気だったのか訊きたいがはぐらかされるだろう。はぐらかすと言うことは答えたも同然だけども。
「そうよ!結局そのお金なんなのよ!」
「クエピー、ピントガニの残り持ってるか?」
「持ってるですよ!」
「ちょっと!あたしを無視しないでくれる!?これでもガラスのハートなのよ!あたしが汗水流して釘を打ち付けている間に、あたしだけ仲間はずれにして、そのピントなんとかを倒して、美味しく頂いていたのね!最低よ!」
やさぐれているのか、強気なのかはっきりしろと言ってやりたいが、口喧嘩するよりも、口の中を旨味に変えた方がいいだろう。
クエピーが言うにはピントガニは珍しく食べられるモンスターであり、その味はそこらへんの蟹よりも一つ上で、高級蟹として知られているようだ。
クエスト報酬で渡す分と自分達で食べる分を持って帰ってきて、いつも世話になっているハンナリー家へと渡すつもりであった。
恐らくだが、優しいハンナリー家はそこで調理して出してくれる筈だろう。
「行くぞ。腹減ったろ」
癇癪起こしているエウロスにそう言うと、理解したのか口を尖らせて言った。
「お腹空いたわよ!ペコペコよ!」
「ご馳走ですよー」
その日は大人数で蟹料理を食べて贅沢な気持ちになった。
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