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3-9:眠神

「てめぇ!」


「うっ、なんれふか?」


 俺が風貌の変わったイマテラスさんに声をかけると、一足で俺の前まで移動して両頬を片手で掴まれて、瞳を覗き込まれる。


「成程な。理解した。糞蟹を倒せばいいんだな」


 蟹?ヒントママは猿なのだが。


 そんな疑問を抱えていると、イマテラスさん?が首筋の裏辺りに手を持って行き、何かを掴んで、引き抜いた。


 イマテラスさん?の背中には何もなかったが、突然手には巨大な大剣が握られていた。


「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ!この糞蟹が!」


 森の上方にいるであろうヒントママを捉えたのか、脚に力を入れて十メートル程の木を駆け上がっていく。駆け上がるのは俺でもできるが、一息で一番上までいけるのは常人じゃないな。


 森の上で雷が何度もなったかと思ったら、黒い影が落ちてきた。それがヒントママではなく、Cの形をした鋏が特徴的な蟹のモンスターであった。


「これは……なんだ?」


「ピントガニだよ低脳」


 木の上から着地してからイマテラスさん?は苛立ちながら言う。


「ピントガニ?」


「ピントガニも知らねぇのか!?」


「知らないですね。教えていただいてもいいですか?」


 まだクエピーは蘇生されないので、この怖くなったイマテラスさんに訊くしかない。


「ッチ!仕方ねぇな可愛い眷属に頼まれちゃあ教えてやらんでもねぇよ。ピントガニってのはなヒントママの好敵手のようなモンスターだ。ヒントママのように同じような問答を問うてくるが、その答えは普通の答えとは逸脱した答えになってんだよ。んで温厚なヒントママとは違って不正解時の罰は命を奪うものとなっている。この糞蟹の主食が肉だからな。糞低脳依頼主もピントガニだと思わなかったんだろうな」


 ピントガニ、そういうのもいるのか。だったらこいつは討伐した方が俺たちの為にもなっているのか。


「あのぉ、失礼な質問ですけど、イマテラスさんですよね?」


「あぁん!?」


「あ、答えたくなければ大丈夫なんで」


「誰が答えないって言ったんだよ!俺の器がそんなに小さいって言いたいのか!?」


「じゃあ誰なんですか?」


「俺の名はオネイロス。睡神オネイロスだ」


「オネイ…ロス?」


 その名はよく知っている。俺に加護をくれている神の名前だ。だが神が人間の体に雇っていることなんてあるのか?………いや、神と身体が入れ替わっているんだし、そんなことがあっても驚くことじゃないのかもしれない。


「俺だってお前に聞きたいことがある。お前は俺の眷属だが、その身体はお前のもんじゃねぇな。お前は一体誰だ?答えによっては、これを向けることになるから慎重に答えろよ」


 手に持っている大剣のことを指すオネイロス。慎重に答えろって言われても、信じてもらえるかは分からないが、何もやましい事ないので真実を言うほかないだろう。


 エウロスの身体でこのオネイロスと剣を交えるのは自殺行為だ。そもそも俺の身体で万全の状態でも勝てるか怪しい相手だ。


 俺は包み隠さず、エウロスと身体が入れ替わった事をオネイロスに話す。すると最後まで聞き入っていたオネイロスの頬が緩んだ。


「何だそれ!あの箱入り傲慢馬鹿娘と身体が入れ替わったって!そんな不幸な人間もいるもんだな!」


 オネイロスは膝を叩いて大笑いする。あいつ神との間でもそんな呼ばれ方しているんだな。


「戻り方とか分かりませんかね?」


 神ならば戻り方を知っているはずだと思ったので尋ねてみる。少なくとも箱入り傲慢馬鹿堕女神よりは知っていそうだ。


「わかんねぇなぁ。少なくとも俺は聞いたことがねぇ」


 やっぱり神の間でも珍しい事のようだ。だとすると、手がかりはあの神話本しかないな。


「オネイロスさんはどうしてイマテラスさんの身体の中にいるんですか?」


「お前、口は堅そうだな。まぁ俺の眷属だから答えてやってもいいか。俺は天界の門番でな、いつも通りに仕事中に居眠りこいてたら、いつの間にかイマテラスの身体に封印されてたんだよ。こんなことしやがんのは糞魔王しかいねぇんだよ!だから俺はイマテラスの身体を借りつつ、あの糞魔王をぶっ殺そうとしているんだよ!!!」


 語りながら語り口調に怒りが乗って最後には叫びながら大剣を振り下ろして木を横に斬ってしまう。


「イマテラスさんは今この状況見ているんですか?」


「見てねぇよ。あいつが活動してる時は俺は眠っているし、俺が活動している時はあいつは眠っている」


 なるほどな。イマテラスさんが雷に撃たれても傷が浅い理由が分かったぞ。イマテラスさんの身体の中でオネイロスが眠っているから、受けた傷がすぐに治癒してしまうのだろう。


「ま、これからはお前、アズマだっけな。アズマがいるから楽になるな」


「ど、どういうことです?」


 何か不穏なことを口走ったような気がした。


「アズマは俺の加護を受けているんだから、俺に関する事を手伝うのは当たり前だろ。だからアズマ、これからよろしくな!」


「ちょ!ちょっと待て!確かに俺はあんたの加護を受けているが、手伝う義理はないだろ。俺だってエウロスとの身体を元に戻さないといけないんだ」


「はぁん!?てめぇ!!!俺の言うことが聞けねぇのか!!!」


 耳だけではなく、体の芯まで響く咆哮にエウロスの身体が身震いする。


「聞けないな。俺はもう誰にも命令されないし、させない。神だろうが、何だろうが、何者にも俺の意思は曲げさせない」


 怖気付く自分は闘技場に置いてきた。たとえ自分に加護を与えてくれている神でも、俺は俺の意思を曲げない。


 オネイロスと俺は睨み合う。


「………そうだな」


 今から剣を抜いて戦ってもいいように準備をしていたが、オネイロスから殺気と気迫が消えた。


「ではギブアンドテイクといこう。俺はアズマの身体が戻るのを手伝う。アズマは俺が天界に戻れるように手伝う。これでどうだ?」


 一方的な願いではなく、お互いに利点のある解決案。確かにオネイロスの力があれば、危険なクエストもいけてしまう。それに俺達の最終目標は身体が元に戻るもあるが、その過程の中に魔王を討伐するのも目標としてある。


 ならば、ここは互いの手を握るべきだ。


「イマテラスさんは、それでいいのか?」


「元に戻ったら、パーティーに誘ってみろ。それで駄目なら俺は諦める」


 意外とイマテラスさんを気遣っているようだった。


「分かった。イマテラスさんに戻る前に、一つ頼みたいことがあるんだが」


「なんだ?何でも言ってみろ」


「このモンスターを食べられるように一緒に解体してくれないか」


 俺の剣ではピントガニの解体が一苦労なので、オネイロスがいる間にクエピーに食わせてやらないといけなかった。


 オネイロスは鼻で笑ってから、文句を言わずに解体を手伝ってくれた。

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