1-3:もしかして、入れ替わってる~!?
「いやおかしいでしょおおおお!額と額ごっつんこしただけで入れ替わるって!
ベッタベタな創作じゃない!これは現実よ!現世なのよ!
まぁ?まぁまぁまぁ?入れ替わるとしたとしましょう。したとすればあたしは美少年と入れ替わりたかったわ。だってそうじゃないとこのあたしと釣り合わないじゃない?
なのにこんな筋肉ムキムキマッチョマンと入れ替わるなんて何たる不幸!なんたる不運!あたしにどんな厄がついてるって訳?あたしが何か悪いことでもした!?
呪うわ、呪ったことないけど、今なら呪える気がするわ!ねぇ!あなたもそう思わない!この際だから一緒に呪いましょう!」
ベッドの上で奇声に近い文句を言った後に何かを呪い始めた姿だけ俺。
自分が奇声を発し奇行をしているのは見ていられなかった。
「なぁ落ち着けよ。とりあえずお互いに怪我が無くて良かったじゃないか」
医者が言うには俺とこの身体の女性は昨晩、額と額をぶつけ合わせて道路で倒れているところ、通りがかった通行人のおかげで、この療養所へと連れてこられたらしい。
怪我は額と額がぶつかってたんこぶができた程度だった。
俺の記憶ではこの女性は天高くから落ちてきたように見えたが、そうだとしたらかなりの高さからぶつかっていることになるし、お互いただでは済まないだろう。俺の見間違いだ。
「いや心めっちゃ怪我してますけど!あたしの硝子の心が10ゼン傷だらけなんですけど!」
「色々と突っ込んでやりたいが、俺のことを10ゼン程度の価値と思っていることが理解できて、お前との関係性が一歩進んだよ」
「てかなんであんたそんなに冷静な訳!仮にもこのあたしと身体が入れ替わってるのよ!もっと驚きなさいよ!もっと喜びなさいよ!ベタに胸とか揉みなさいよ!」
「俺も驚いているし、あんまり現状を飲み込めてない」
お互いが冷静じゃなかったら話が進まないから、驚きも何もかもを抑えて、あの女性のことを考えつつ、冷静差を保っている。
「あんた先に起きてたわよね?え?もしかしてもう触ったり揉んだりした訳?」
邪な思いではなく確認のために触っただけだと言いたかったが、触った事実には変わらなかった。なので黙って目を逸らす。
すると信じられないモノを目にしたような表情に変わり胸を抑えてくねくねとしただした。
「変態よ!筋肉ムキムキマッチョマンの変態よ!うら若き女神の御神体を触って悦に浸る変態よ!どうせその感触を思い耽ってナニするんでしょ!ナニって何!?」
「するわけないだろ!そもそもお前も俺の身体触ってただろ!」
「確認のためですぅ〜不可抗力ですぅ〜あんたは自分の性欲の捌け口にあたしの身体に触れたのよ!あーやだやだ汚らわしい!」
「病院ではお静かに!あと猥談もお控えください!!!」
「「……ごめんなさい」」
怒り心頭といった様子で看護士に注意されたので声を揃えて謝った。
反省の色を見て看護士が去っていたのを見てから、さっきよりも声の大きさを抑えて姿だけ俺が言う。
「で?どうだった?あたしの身体?包容力あるでしょ?」
「情緒イカれてんのか?」
俺の声で、俺の顔でその言葉は寒気がする。
まさかそんな言葉を俺が発声するとは思いもよらなかったな。人生初体験だらけだ!最悪のな!
「何よこねくり回して御満悦だったんでしょ?正直になりなさいよ。今なら今後性犯罪者扱いで許してあげるから」
「それは許しでも何でない罰だろ!安心しろお前には欲情しないし、恋もしない」
俺には心を射止められた女性がいるからな。
「けっ、クールぶっちゃって。筋肉ムキムキなら熱血お馬鹿キャラでいなさいっての」
意味のわからない悪態をつかれたが、まぁ身体が戻ったら折檻するくらいでよしとしよう。
「今更だが、俺はアズマ•クラタチだ」
「あ、アズマ?うーんアズマ、アズマ。何処かで聞いたことのある名前ね」
腕を組んでうーんと考える姿勢で何度も俺の名前を呟きながら俺の顔を見る。
俺の顔を見てもお前の顔だろうに。
「昨日まで勇者パーティーの一員だったからどこかで耳にしたかも知れないな」
「あっ!」
どうやら点と点がつながったらしい。
「あ、あぁ〜アズマ•クラタチね。はい。はいはい知っていますよ〜。
勇者パーティーの剣闘士で、数々の魔王の眷属たちを屠ってきたのよね。
知っているわよ。うんうん、物凄く知っているわ…」
手をうちわにして、少し紅潮した顔に風を送っていた。
部屋がそんなに暑いのか?それとも俺の体の新陳代謝がいいだけか。
「で?」
「あたしの番ね。コホン!あたしは女神エウロス!
この世界の神であり、最高権力神ゼオスの長女よ!
どう?頭を垂れ崇め讃えなさい、あんたはとびっきりに偉い神の御前にいるのよ」
わざとらしく咳をして見せた後に、腕を組んだ体勢でベッドの上に立ち上がり、俺を見下しながら決めポーズを取って高らかに名乗った。
「女神エウロス?」
女神エウロス。こいつの言う通り、勇者に力を与えた神ゼオスの長女の名前だ。豊穣とか風とかの神だった気がする。
「そうよ」
聞き返すと当たり前のような表情で答えた。
「あ、そういうのいいから。本当の名前教えてもらってもいいか?」
女神エウロスって設定なんだろう。
なるほど、こいつは頭を打つ前から自分を偽ってきたのか。
何か過去があるんだろうが、今は身元証明が優先だ。
「はぁ!?ほんとの名前も何もあたしは女神エウロスよ!
あ•た•し•が•エ•ウ•ロ•ス!耳に兎の排泄物でも詰まってるのかしら!?」
心底遺憾であると言った表情と振る舞い。
どうやら譲らないつもりらしい。しょうがない仮定として話を進めていくか。
「お前が女神エウロスだとして、なんで女神がこの世界にいるんだよ。神様は天の世界にいるもんだろ」
あんまり神学に関しては詳しくないが、そういう設定は一般常識に組み込まれていた。
「………からよ」
バツが悪そうに何かを呟いた。
「なんだって?聞こえなかった」
「……ちたからよ」
「もう一回頼む」
「だーかーらー!天界から足を滑らせて落ちたからって言ってんのよ!そのせいでこんなもっさいところにいるのよ!」
「天界って足を滑らせたら落ちるのかよ」
「普段はそういった場所には行かないわよ!ゴミを処理する為に、ゴミを投げ捨てようと思ったら一緒に落ちたのよ!」
ゴミを捨てようと思って、間違ってゴミと共に天界から足を滑らせて落ちただぁ?
こいつ、さては………相当な間抜けだな!
「今ドジっ子可愛いって思ったでしょ!」
「いや、こいつ間抜けだなって」
「まっ、間抜けはあんたよ!なんであんたが落下地点にいるのよ!そのせいであんたと入れ替わったんじゃない!
あんたじゃなきゃ!あたしはこんな惨めな思いせずにすんだのよ!
責任取りなさいよ!男たるもの責任は取って、果たすものってパパが言っていたわ!
ほらすぐ責任取りなさいな!責任!せっき!にん!せっき!にん!」
「病院ではお静かにって言いましたよね!!!そんな痴話喧嘩ができるほど元気なら出て行ってください!ここは元気な人が来る場所ではありません!!!!!!」
ベッドの上で責任コールをしている自称エウロスに対して、俺の堪忍袋の尾が切れる前に看護士の堪忍袋の尾が切れた。
こうして自己紹介を終えた俺たちは療養所を追い出された。
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