3-6:噂
「おや?アズ……エウロスさんじゃないですか、本日は春芸祭のお仕事と仰っていませんでしたかですよ?」
昼前のギルドの酒場にやってきていた俺はばったりとクエピーと出会った。
「そうなんだが、俺の受け持った仕事が早く片付いて、次の仕事を割り振られるのが明日だから、半休になったんだよ」
手際が良すぎたので予定よりも早く終わったらしい。逆にエウロスは手際が悪く、何度もやり直している。あいつは何だったら得意なんだろう。
「なるほど、では昼間っから酔っ払うためにやってきたですよ?」
「俺はそんなに飲み屋じゃない。何か討伐クエストがないか見に来たんだよ」
半休になったのなら、また別のクエストを探してお金を稼げばいい。エウロスは厳しい親方が目を光らせているから置いて来ても大丈夫である。
「討伐クエストですよ!?」
「クエピーも来るか?」
「行くです!行くですよ!」
討伐クエストと聞いて目を輝かせるクエピー。アーマードロア以降試しにモンスターが絡まないクエストに行ったら、一切やる気を感じない対応だったので、こいつもこいつで、討伐クエスト以外ではほとんど役に立たないのだろう。
「今ある俺たち二人でいける討伐クエストは……」
クエストボードに張り出されている討伐クエストはヒントママだけ。俺とクエピーでは厳しいし、これ三人用のクエストなんだよな。
「ヒントママだけですよ……ぷーちんも家族なんで三人目に認定されないですかね?」
「ギルドカードが作れれば認定されるんじゃないか?」
「成程ぉ!その手がありますですよ!善は急げですよ!」
適当に打った相槌で感心するクエピーは早速ギルドカード製作に向かってしまう。目的のためなら手段を選ばない奴だな。
さて、簡単な討伐クエストはアーマードロアを討伐したことで元の縄張りに帰ってきた低級モンスター達なのだが、緊急に討伐を要請されている感じではない。
やはり報酬額が高く、出来るだけ簡単なのがいいが、そんなの裏がありそうなのはないな。
「んー私達の受けられるクエストはないわね」
「残念。せっかくリーベちゃんと久しぶりにクエストできると思ったのにぃ」
俺の隣で聞き覚えのある声がしたので横目で確認すると、勇者パーティーに在籍している魔導士リーベ•イワナガとリーベの友人?なのか子供体型のリーベとは対称的な色々と包容力がありそうな女性がクエストボードを見ていた。
良かった、リーベの脚は無事治ったようだ。
そういえばオフの日は違うパーティーでクエストに行っていたりしていたと聞く。それがこの人とか。
「ん?なに?何か用?」
横見で見ていたけど、少し見つめ過ぎたようで、察知能力の良いリーベに気づかれてしまう。なんとか誤魔化さないと。
「いえ――」
「エウロスさーん、断られましたですよ!ぷーちんはそこらの畜生だって証明されましたですよ!私悔しいですですよ!」
誤魔化そうとしたところにクエピーが門前払いをくらったようで、帰ってきた。
「エウロス?あんたが?」
エウロスの名前を聞いてリーベが反応する。
「およ?お知り合いですよ?」
俺との約束通り白を切ってくれるクエピー。エウロスよりは人を騙す演技力はあると見た。
「いえ初対面ね。でも噂は聞くわよ。あのポンコツになったアズマとパーティーを組んでいるってね」
「アズマさんってあの、家が竜巻で吹き飛ばされたり、女の人関係でだらしないあの?」
ポンコツになったのはそうだが、それからの諸行は全部エウロスがしたことなので俺に非は無いと説明したい。
「そ……そう。そのアズマとパーティーを組んでいるエウロスです……」
喉元まででかかった説明を飲み込んで、下唇を噛みながら初めて出会った程で自己紹介をする。こんなにも惨めで悔しい自己紹介があっていいのか。呪いをかけたウテナが悪いのか、悪評を広めた行為をしたエウロスが悪いのか。とりあえずどちらも憎んでおこう。
「クエピーですよ!今はエウロスさんのパーティーに入れてもらっているですですよ!」
「私はリーベよ。こっちが」
「イマテラスでーす。イマお姉ちゃんって呼んでください」
「後半は無視していいからね」
「えーリーベちゃんひど〜い」
「にしても、あなたも物好きね。あのアズマと組むなんて、あいつ使い物にならないでしょ?それに自棄になったのか色んな女性に声かけてるらしいじゃない。そんな奴のどこがいいのか」
小馬鹿にしながらリーベは俺への悪評を述べる。
昔からリーベは俺に対して当たりがきつい。最初から素気はなかったが、いつからか当たりがきつくなった。まぁそれも信頼の証だと思うので深く考えていなかったが、久々に面と向かって言われると、心に刺さる。
「アズマはあたしが誘った。難しいクエストに行きたくて丁度パーティーメンバーを探していたし、元勇者パーティーのメンバーなら申し分ないと思ってね」
「ふん。あなたがちょーっと綺麗だからあの男はホイホイついていったのね。自分は堅物ですよーって顔しながら、本当は女性が好きなムッツリスケベなのよ。あーやだやだ」
嫌悪感を示しながらリーベは言う。
言われ放題であるが、周りからそう見られても仕方ない。エウロスがしでかしたことだが、俺の身体でやったことで、俺の評判だし自分でフォローしておかなければ、今後の生活にも関わってきそうだ。
「アズマは別に誰でも彼でも女性が好きな訳じゃ無いぞ」
「え!?そうなんですよ!?」
「あっ……そうな……んだ……」
「あらあら」
クエピーは驚き、リーベは引き、イマテラスは朗らかに笑う。
えっとなんでそんな反応するの?何かまずいことを言ったのか?女性を見れば誰にでもついていく男じゃ無いとフォローしたつもりなのだけど。
「アズマさん、同性が好きだったんですよ?」
なんで!?なんでそうなった!とにかく撤回しなければ。
「違う!違うぞ!男性は恋愛対象に入らないからな!女性だけだぞ!」
必死に撤回する。男性に恋愛感情は一切ない。女性の節度がないのも嫌だが、同性愛でもないのに同性愛だと噂されるのも困る。
「まるで自分の事みたいに言うのね」
「あっ、いや、アズマが…そう言っていた」
「……」
リーベに疑いの目を向けられる。エウロスの美顔で誤魔化すために、汗をかかないよう注意して笑顔を作って誤魔化そうとする。
「随分と仲がいいのね」
「うん。まぁ……な」
ジトっとした目でリーベが見続けてくる。なんか品定めされているようで嫌だが、リーベ的にはどう言った心情なんだ?俺が変な女に騙されてないかと、気にかけてくれているのか?そんなに優しかったかな?
負傷した際に傷薬を仕方ないからあげるとか。趣味の手料理が余ったから嫌がらせかと言うほど食べられないくらい持ってくるとか。女性と話してるとすぐ機嫌が悪くなるって理由を聞いても、女性の扱い方が悪いとか。まぁあんまりいい思い出がない。
そんなリーベが気にかけてくれるのだろうか?
「そりゃそうですですよ!アズマさんとエウロスさんは同じ屋根の下で暮らしてますですよ!親密になるのは時間の問題ですですよ!」
クエピーが親指立ててウインクしてくる。
多分だが悪気がなくクエピーなりのこの場を丸く収めようとするフォローだろうが、俺があえて言葉を濁した部分をぶちまけてくれた。
前述の通り、リーベは俺の女性関係に対して嫌悪感を抱いている。
そこに知り合って間もない女性と同棲しているなんて言ってしまうと。
「は……」
「は?」
「破廉恥漢と破廉恥女!」
身体を震わせて、これでもかと言うくらい顔を赤くして、大声でそう叫んで走り去ってしまった。
また要らぬ噂が広まりそうな予感がするな。
「面白い!」「続きが気になる~」と感じ、お思いになられたら、
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