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3-5:クエピーの加護

「そうだ!クエピー!」


「何ですよ?」


「うおっ!!」


 クエピーの生死を確認するために振り向くと、クエピーが既に俺の後ろにピンピンして立っていた。


「だ、大丈夫なのか?」


 マナハイブラスターを直撃しても煤ぼこりのようなのを肌につけているだけのクエピー。えっと、さっき見た時は目も当てられない怪我だったんだけども。幽霊か?


「えぇ!この通りですですよ!」


「だって、さっき!」


 頬や腕を触っても女性の柔肌であった。火傷など一切なく、怪我すらなかった。


「くすぐったいですよー」


「あぁ、すまん。本当に大丈夫なんだよな?生きてるんだよな?」


「驚かせて申し訳ないですよ。一応これが私の加護とだけ言っておきますですよ。それにしてもアーマードロアの中身は綺麗でございますですね!」


 加護。あんな重体が治る加護なんてあるのか?基本的に治癒の加護には対価が付き物だが、何かを支払った様子でもないが。


「では実食ですよ」


「って何してんだ!」


 クエピーの加護について考えていると、クエピーはアーマードロアの本体である液体をゴクゴクと飲んでいた。


「うまうまですよー。え?あぁこうしないと本当に死んじゃうんですですよ」


「いやいやそれ人間には毒だろ!いいから出せって!ぺっしろ、ぺっ!」


 アーマードロア本体の液体は人間が食べると毒であるが、少量なら塗り薬となる液体だ。決して食べる物ではない。


「やめてくださいです。人殺しですですよ」


「あんた!やめなさいな!」


 俺がクエピーの喉奥まで指を突っ込んで吐き出させようとしてると、エウロスに腕を掴まれて止められた。


 クエピーはまた液体を飲み始める。


「何すんだよ、このままじゃクエピーが死んでしまうだろ!」


「大丈夫よ。クエピーからは叔父様の気配がするから」


「叔父様?お前の叔父様だと、確か・・・ホデスか……なるほどな」


 ナナリーのところで見たエウロスの家系図を思い出して納得する。

 エウロスの叔父にあたる人物冥界の主ホデス神。その加護を持つ人間は少なく、俺も見たことがない。噂では死ぬと発動するようだが、明確な事は一切明かされていない。


 恐らくクエピーは死ぬと、対価として他の命を捧げないといけないのかもしれない。


「でもそれが毒だぞ?」


「大丈夫よ。供物に毒も糞もないわ。捧げたらいいのよ」


「そういうものなのか」


「そういうものよ」


 神学に疎いから、こう言う時にはエウロスが役に立つな。


「ごちそうさまですよ!」


 綺麗にアーマードロアを食べ終えたクエピーは手を合わせて食後感謝した。


「いやー、流石はエウロスさんとアズマさんですよ。おかげで久しぶりにアーマードロアを食せましたよ!伍長クラスの持つマナハイブラスターを食らわないと食べられないので、本当に良かったですよ!」


 ……なにか発言がおかしいな。

 俺を助けるために身代わりになったような感じではなく、まるでマナハイブラスターに当たって加護が発動した事を喜んでいるようだ。


「アズマ、このクエピー、マナハイブラスター見た瞬間目を輝かせていただけじゃなく、涎まで垂らしていたわよ」


 そうエウロスに耳打ちされる。


 あぁ、つまりだ。

 クエピーはわざと物珍しいマナハイブラスターを食らって、その死の対価として食せないアーマードロアの本体を食べてご満足と言ったところか。


「なぁクエピー、聞いていなかったが前のパーティーはどうして抜けたんだ?」


「んあ?えーっとですですね。……食生活の不一致ですですよ」


 逡巡した後にクエピーは言う。


「モンスターを食べるところを見ていられずにパーティーから追放されたと」


「ギクッ!ち、違いますですよ!私がモンスター討伐に役に立たないとか、直ぐに攻撃に突っ込むとかじゃないですよ」


「よーく分かった」


 モンスター本体は人間には毒性が強いものが多い。だから供物にすることでモンスターという珍味を食べているのか。

 それに付き合わされるパーティーは必ずクエピーの為にモンスターを倒さなければいけないと。愛想を尽かされるわけだな。


「クエピー、残念だが」


「待ってくださいですよ!お願いですよ!役に立ちますですよ!ぷーちんもお願いするですよ!この通りですよ!」


 俺がパーティーメンバーを見送ろうとすると、凄まじい速さでぷーちんと共に頭を下げた。


「でも、なぁ」


 エウロスという疫病神がいるのに厄介な偏食家をパーティーメンバーにいれるのは気が引けるので、エウロスに同意を求めると、エウロスは俺から目を逸らした。


「おい、なんで目を逸らすんだ」


「な、何でもないわよー」


「絶対なんかあるだろ!言え!」


「お願いしますよですよ!女神エウロス様!剣闘士アズマ様!」


「………なんて言った?」


 俺が何かを隠しているエウロスに吐かせようとしていると、クエピーが俺達へと交互に頭を下げておかしなことを言う。


「お願いしますですよ。女神エウロス様。剣闘士アズマ様ですよ?」


 復唱するクエピーだが、おかしいのだ。

 無論エウロスのことを女神と言っているのがおかしいっちゃおかしいが、マガツヒさんのように冗談で神と掛けているとも考えられる。


 おかしいのは。


「俺が?」


 俺自身に指を刺す。


「剣闘士アズマ様」


「こっちが?」


 今度はエウロスに指を刺す。


「女神エウロス様」


 もちろん身体は入れ替わった状態でだ。


 エウロスが冷や汗を流している。隠している事はこのことか!


「何でバラしたんだよ!」


「あたしじゃないわよ!クエピーが死んで、加護を与える叔父様が降りて来た際に叔父様が勝手にバラしたのよ!あたしは悪くありませーん!悪いのは叔父様ですぅ!」


 この堕女神悪びれもしないとは。

 まぁ確かに良い悪いで言えばエウロス何もしていないが、ホデスが悪いなら隠す必要があったのか?・・・まだ何かエウロスに不都合なことを隠してやがるな。


「えぇっと、えぇっと、アズマさんとエウロスさんは入れ替わってるんですよね?それを隠していたんですよね?」


「そ、そうだ。できれば周りに言わないでもらいたい」


 クエピーはぷーちんと視線を合わせて悪い笑顔になる。


「えーどうしましょうですよー。あーどこかに身を置けるパーティーがあれば口が重くなりそうなのですが、どこかに私とぷーちんを置いてくれるパーティーはないでしょうかですよー」


 分かりきったことを吐かすクエピー。自分をパーティーに入れないと言いふらすって脅しじゃねぇかよ。


 脅しに屈するか、世間様に入れ替わりの事実を吹聴されるか。俺が選ぶのは。


「クエピー」


「はいですよ!」


 期待した目で見つめるクエピーに告げる。


「お前をパーティーメンバーに入れる」


「やったーですよ!これで食いっぱぐれなくて安心ですですよ!」


「ただし、お前達を消せば誰も事実を知らないって言うのも忘れるなよ?」


 そう、目と言葉に重めの圧をおいて言うとクエピーとぷーちんは喜びの動作から固まった。


「へっ?じょ、冗談ですよね?」


「さぁな。ただ、俺は剣闘士だってことを常々覚えておいてくれ。分かったか?」


 人やモンスターとの戦闘に身を置いていたからこその職業名だ。どちらの消し方も身に付けている。脅すなら更に脅し返しておくだけだ。

 クエピーも身を置きたくて出た言葉だろうから、本気で言いふらそうとも考えていないだろう。むしろそんなことを言えば気が狂ってる判定をもらうのはクエピーだからな。でも一応保険として言っておくのも損ではない。


「返事が聞こえないんだが?」


「サーイエッサーですよ!」


「プー!」


 クエピーとぷーちんは顔を青ざめさせて、敬礼して叫んだ。


 こうして俺とエウロスのパーティーにクエピーが入ったのであった。

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