3-1:春芸祭準備
春の木漏れ日を受けながら、空に雲ひとつない青を目に写し、周りの喧騒から耳を遠ざけつつ一人俺は呟く。
「元に戻りたい」
「ふわぁー、何か言った?」
大きな欠伸をしながら隣で作業をしていたエウロスが涙目で訪ねてくる。
「お前のその釘留め、反対だぞ」
「いっ!本当だ!早く言いなさいよーもー!また親方にドヤされるじゃない!」
そう言いながら釘を抜く。
今俺達は春芸祭の準備をしていた。この春先になると春を祝う祭りが一週間ヴェルサスでは開催される。その規模は街全体で行われて、屋台が通りに立ち、陽気な人々が行き交う、どこもかしこもお祭り気分が味わえる。
そんな春の陽気に当てられた人々へと楽しみを演出するためには、準備が必要であり、この時期になると大工仕事のクエストが多く発注される。その一つである、アーケード作りの仕事を引き受けていた。
「あんた手を止めてんじゃないわよ。ただでさえ紙を折ってるだけなんだから、しっかりしてよね。 あたしなんか見なさいよ。昨日教えてもらったのをもう習得しちやったんだから!
ふふん、これも才能ね。いやーね才能って。凡人には無いものを持っているのは気分が良いわ!」
俺は力仕事よりも細かい作業の方が向いているようで、アーケードの看板につける紙で花を象ったものを作っている。
エウロスはアーケードの看板を作っているだが、上手くいっているところを見たところがないのだが、どこからそんな言葉が出てくる自信があるのか。
「こらぁ!アズマ!てめぇのやったところまた歪んでるじゃねぇか!何度教えたら理解しやがるんだ!」
「ごめんなさい……すぐ直します」
「いいよ!俺がやっとくから!」
責任者である親方が来て叱られると肩を落とすエウロス。
「才能がなんだって?」
「調子に乗りました……」
こんな調子で春芸祭の準備をしながらマガツヒさんの負債クエストを待っている。
借金のせいで世界樹の夜露も魔王討伐も夢のまた夢だと落胆しているのは俺だけで、エウロスはなんだかんだで、この世界を楽しんでいる気がする。適応力だけは高いんだよな。
春芸祭のクエストだけでは日々の生活費しか工面できない。
やはりここは一発大きいクエストをするしかないと結論付けた。絶対にシマスの時のような失敗をしない前提だけども。
そもそも金払のいいクエストは専ら魔王関連なのでユウヒ達に持っていかれるのが定石。
ABのクエストで現状見合ったのが、智略猿武ヒントママの尻尾を納品しかなかった。ヒントママは討伐したことがないが、その尻尾は高値で売れるらしい。
しかし討伐方法が特殊も特殊で、智略との称号を持っているのでエウロスがいたら絶対に無理だろう。
他のクエストをしていってもいいが、ヴェルサスからかなり離れる事になるので、マガツヒさんクエストを受けられない事態になるのは避けたい。これ以上負債を被るのは勘弁願いたい。
俺達だけじゃやれることが知れているのであって、昨日から思っている事をエウロスに述べる。
「なぁエウロス。そろそろパーティー募集してもいいか?」
「いった!何よ!集中してるんだから急に話しかけないでくれる!?」
トンカチで指を打ち付けて、痛そうにしながら怒られた。
俺は上の空でも紙花を折れるので話しかけてしまったが、才能の無いエウロスは並行作業ができないようなので。
「すまん」
「ふん。許してあげるわ。で?パーティー募集?酒場で一杯貼ってあるじゃない。そこから選ぶのよね?」
最近は流石に毎日ハンナリー家にお世話になるのもあれなので、ギルドの酒場や格安の風呂場を利用させてもらっている。けど、金欠なので週三で通っている。
酒場にはパーティー募集掲示板があり、そのパーティーの傾向やクエストランクに見合った募集中の人員を求め張り出すことができる。最近見た中だと、古の洞窟を廻る宝探しパーティーなるものがあったな。
「そうだが、今回は俺達がどこかのパーティーに入るとかではなく、募集する側だ。基本的にはパーティーを募集する側は受け身だから、人が来るまで待つ事になるから、早めに出しておいた方がいいな」
「あたしは別にいいわよ。あたしの手足が増えるなら誰でも歓迎よ!」
「小間使いじゃなくて、パーティーメンバーーを募集するんだよ!仕事があるのは有難いけど、今ある借金を返済する為には、シマスのような高額のクエストをこなすしかないからな」
「確かにあれはあたしがいなければ危なかったわね……」
「そろそろお前の頭をハンマーでぶん殴っても許されそうな気もするんだが?どう思う?」
こいつ、自分が原因でこうなっていることを忘れているようなので、ハンマーで頭に刺激を与えて思い出した方がいいと思うのだよ。壊れたものは叩けば治るって聞いたことあるもの。
「許されるわけないでしょ!?実際あたしがいなかったらあそこで齧り殺されていたかもしれないじゃない!」
「お前が無駄に技を放ってシマスを殺さなきゃあんなことには!………」
「何よ急に黙っちゃって!ははぁん返す言葉もないってことね!はい論破!あたしの勝ち!残念無念また来週ぅ」
「嬉しそうだな」
「えぇ!とっても!・・・あ、親方・・・・お疲れ様でーす」
怒りがこもった言葉に楽しそうに返したエウロスは表情が固まった。
俺は空を見上げながら黙々と手を動かす。
親方がこっち来るのが見えたので、黙っておいて正解だった。
「口ばっか動かしてないで!手ぇ動かして仕事しろ!」
エウロスは親方から拳骨を貰ってまた涙目になっていた。
本当に俺の身体で失態を繰り返すのをやめてもらいたいところだ。
「じゃあ今日酒場でパーティー募集しとくぞ」
親方が去った後にそう言うと、エウロスは涙目のまま頷いた。
やっぱり物理的にお灸を据えた方がこいつに効くのだろう。勉強になった。親方ありがとう。
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