1-2:夢であるように
この世界は魔王に脅かされていた!
魔王の軍勢が人間界を侵食し、人間達の生活と生命は危機に陥ろうとしてた!
そんな魔王を倒そうと立ち上がった者達がいた。
それがゼオス神に選ばれた勇者である!勇者は有能な仲間を集め、パーティーを組み、魔王の軍勢と戦ってきた!
現在の勇者はユウヒ•フォンヌ•シュバリエ•ローゼンただ一人!
果たして!勇者パーティーは魔王を打ち倒す事ができるのか!
子供の頃にちんどん屋がそんな謳い文句で読み聞かせをして小金をかせいでいたのを思い出す。
俺はそんな勇者パーティーを追放された男だ。
あれが悪夢であって欲しかった。
だが現実であった。目を開けると俺の視界には知らない白い天井であった。
横を見渡すとカーテンで仕切りがしてあった。
鼻をかすめるアルコールのような臭いに、苦しそうな呻き声。
どうやらここは俺の住む街の療養所のようだった。
硬い枕から体を起こすと、身体が鉛のように重かった。
二の腕も、胸も重い、まるで無駄な肉が付いたように重い。
何か悪いものでも食べたのかと視線を落とすと、自分の腹が見えなかった。
腹よりも上、胸部に変な膨らみがあって視界が遮られていた。
「なん…だ?」
得体の知れないものを両手で挟むように握る。
水風船のように柔らかく、掴みごたえのあるものであった。というか、掴んでいる手も白くて細い指に変わっていたし、手を動かすと自分の胸が掴まれていると知覚できた。
「……は?」
状況が読み込めなかった。
暫くして脳の読み込みが完了し、ある嫌な事が思い立ったので、療養所のベッドから飛び降りて、姿見を求めて洗面所を探す。
胸が揺れてうまく走れない。
足元を見ようにも足元が見られない。
もつれてこけそうになるが、白衣の天使である看護師にぶつかって事なきを得た。
「大丈夫ですか?」
「すみません!姿見!鏡どこにありますか!」
「えっ、あの、角を右に曲がったお手洗いに」
俺の剣幕に怯んで曲がり角を指さして教えてくれた。
俺はそれを見てからおぼつかない足取りで走り出す。
「あっ!待って!廊下は走らないでください!」
右の角を曲がってトイレに入って鏡の前に立った。
嫌な予感はしていた。そうではないかと思っていた。ただ受け入れ難かった。
鏡には銀髪を腰まで伸ばした容姿端麗な女性が額を大きく赤くして、息を切らして立っていた。
これは夢で見た女性?
いや?よくみると微妙に違う。似ているけども、あの女性とは同一人物とは思えない。なんか麗しさとか、凛々しさが足りない気がする。
それよりもだ。
顔を触れて見る。
胸を揉んでみる。
恐る恐る股間に触れてみる。
「………」
あるものが――あったものが、ない!
鏡に映る女性は鏡写に同じ行動をするだけ、ドッキリであれ、夢であれと願い、頬を引っ張っても鋭い痛みが、現実だと知らしめる。
「ちょちょちょっと!ここ男性用のお手洗いですよ!貴女はこちらですよ!」
先程の看護師に腕を掴まれて女性用のトイレに案内される。
「いや、トイレしに来たんじゃなくて、俺の姿を確認しに来たんです……迷惑かけてすみませんでした」
現実を受け入れて肩を落として元きた道を戻る。
これは俺の身体が女性の体に変化してしまったのか?俺があまりにも恋い焦がれるから似ている体に変化した?
そんなことある!?
「ない。絶対ない。ないないない」
必死に否定しながらさっきまで俺が寝ていた微かに温もりのあるベッドに座る。
隣では未だに苦しそうな唸り声が聞こえてきていた。
ただよくよく聞いていると、その唸り声はどこか聞き覚えがあるような声だった。
失礼だが、しきりのカーテンをこっそり開けてみた。
隣のベッドでは俺が唸り声をあげて寝ていた。
その時俺の頭の中で何かが弾けた。
そして何かが造られていくような気がした。脳宇宙が誕生した瞬間であった。
「なんで俺が寝てんの!」
その宇宙の創造を止めて、現実に戻ってくる。
「おい!起きろ!俺!いや俺か?見た目俺!見た目だけ俺!起きろ!」
ベッドに寝ている俺を揺さぶる。
このか細い二の腕ではがっしりと鍛え上げられた俺の身体は重かったが、頑張って揺さぶった。
すると唸り声ではなく、明確な言葉を発した。
「あと五分で起きるわよ~」
そんな寝坊二度寝常習犯の常套句を言った。
「今起きろ!すぐ起きろ!骨砕くぞ!」
絶対こっちの骨が折れるのはさておき、脅し文句を言いながら、さっきよりも必死に大きく揺さぶった。
「うるさいわね~」
ようやく姿だけ俺が眠い目を擦って起きた。
お互いに目が合った。そして姿だけ俺が指さして言う。
「え?あたしが目の前にいるんですけど………あ、夢か」
俺は姿だけ俺の頬を全力で平手打ちした。パァンといい音が療養所の一部屋に鳴り響く。
スナップ効かせたのが良かったんだろうな。
「いったぁ!何すんのよ!夢の中のあたしだからって調子に乗って!……ん?」
姿だけ俺が反撃の為に腕を振り上げる。
そこで自分の腕の不自然さに気がついたようだ。
俺と同じように腕を触り、胸を触り、青ざめなが股間を触った。
青ざめた表情のまま、俺へと視線を戻し、恐る恐る確認するように口を開いた。
「ねぇ、もしかして、あたしとあんた……入れ替わってる?」
「信じたくないが、そうみたいだな」
どうやら俺はこの身体の女性と入れ替わってしまったみたいであった。
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