2-7:懲罰
「君らー喧嘩は大いに結構やけど、人様に迷惑かけたらあかんよ」
エントランスで喧嘩をした俺達は、本日呼ばれていたギルドの上層部へとそのまま連れてこられ、ギルド上層部、ヴェルサスギルドの統括者である糸目でお淑やかな俺とは対極的な男性マガツヒ•ウニウスさんの前で二人して正座をし、叱られていた。
「「すみませんでした」」
二人で頭を下げて謝る。その光景をみてマガツヒさんはニパッと笑う。俺この人苦手なんだよな。
「分かればよろしい。と、言いたいんやけども、ギルドとしては問題行動を起こした者達には懲罰を与えへんと、あかん訳なんやね。アズマ君はその辺知っとるよね?」
「はい」
「いやいやエウロスちゃんやなくて、アズマ君に言ったんやけども」
げっ反省し過ぎて、中身が入れ替わっているの忘れてた。
「は、はいはい!懲罰ね!知っているわ!」
すかさずエウロスがフォローを入れてくれたが。
「なんかアズマ君、キャラが変わってへん?」
素のエウロスだったので疑われてしまう。
「い、イメチェンよ!」
「……イメチェンか、ええね!僕もアズマ君の歳の頃はイメチェンしとったわ。ちょい悪気取ったり、右腕に包帯巻いてみたりやっとったわー」
マガツヒさんは手に持った扇子で仰ぎながら調子良く言う。この人はどこか掴めない人なんだよなぁ。
「エウロスちゃんに懲罰の説明しとくね。
ギルドは問題行動を起こした人物に懲罰を与えなあかんねん。それが個人の懲罰なら、その人物に見合ったランクのクエストをギルド指定でやってもらう。
ほんで今回はアズマ君とエウロスちゃん両人、複数人の懲罰の場合やね。これまた個人個人でクエスト受けさしても、両者の反省の色が見えへんことが多くてなー。せやさかいに、問題を起こして、ランクの高い方のクエストに連れて行くって規定になったんよ。それやったらギルドの人間なら弱い人間を守るし、そもそもいざこざの抑止力になるんや」
懲罰としてのクエストは何度か見たこともあるが、軽い魔物討伐ばかりであった。Sランクを持つ人間が懲罰を受けるほどの問題を起こすことがないのだ。
「懲罰はわかりました。が、あたしのギルドランクって不明なままですよね?」
「ブフォッ」
あたし呼びをしている俺を初めて見てエウロスが吹き出した。
「ご、ごめんなさいな。つ、続けて」
笑顔を必死に堪えながら身体を振るわせて言う。こいつ事の重大さが分かっていないな。
「そのことやねんけども、何度やってもSランクなら、そらもう潜在的にSランク何ちゃうかってのがこっちとしての見解や」
「しかし貢献度に応じてランクが付与されるのでは?」
「そーいう仕組みやね。だからこそエウロスちゃんはギルドに入る前からギルドに貢献していたんちゃうかな?直接的か間接的かは知らへんけども。そやったら潜在的にSランクになっててもおかしくはないねん」
ギルドのシステムや魔導具の仕組みを詳しく言ってくれなさそうだな。とりあえずこの説明で俺たちを納得させようとしているので、納得しておくほかなさそうである。
「じゃああたし達はSランククエストに駆り出されると?」
「え、Sランク!それって相当ヤバイんじゃないの!?」
やっと状況を理解したエウロスが目を見開いて叫ぶ。
「うーん。まぁそうなるはずやった」
「違うのですか?」
「入りたての人間が過程的にもSランクで、更には力を知らないままSランククエストに駆り出すのはギルドとしては認められへん。って事になってな。
とりあえずエウロスちゃんのランクはBになったんや。んで今回の件はアズマ君には一応お世話になってきた身やし?情状酌量の余地として、そのBランククエストに行ってもらうことになったわけや」
「Bランク。なら、余裕そうね!あた……俺がいれば簡単よ!」
Bでも命に関わるクエストが多いのを知らないエウロスは豪語する。
「ふーん。まぁ仲直りクエストで、見せしめでもあるから、Bの中でも中くらいのものになるんやね。因みに討伐クエストやで」
「何を討伐するんですか?」
「祈り鬼シマスの討伐や」
「ブフォッ」
今度は俺が吹き出した。
「いや!それAAくらいのクエストじゃないですか!どう考えてもB中くらいじゃないですよ!」
「あかーん聞こえへん。歳かな?まだアラフォー行くのは早いんやけどなー。知らんでー、丁度Bランクのクエストがなかったからって代用したとか知らんでー。なんも聞こえへんでー」
マガツヒさんは耳をこちらに向けながら恍ける。Bランクのクエストがないのは嘘かどうかは知らないけど、この人は自分が面白ければ人に無理難題を吹っかける人なのは過去に証明済みであった。
昔、流離のキンニクンというモンスターと戦っているとこが見たいと言う理由でクエストを依頼されたことがある。流離のキンニクンの討伐方法は自分の筋肉をポージングして相手に自分の筋肉の美を認めさせる事。マガツヒさんはそれが見たかっただけだった。
だから今回もそういう画が見たいのだろう。
「ねぇアズマ。祈り鬼シマスって何?変な名前だけど、そんなに危ないの?」
マガツヒさんが聞こえへん知らへん音頭を取っていると、エウロスが耳打ちしてきた。
「祈り鬼シマス自体に危険はほぼほぼない。ただ祈られているだけだしな」
「祈られている?」
「祈り鬼シマスは低級なモンスターの神様的な存在だ。まともな知恵がなくても信仰っていう儀式めいた事は低級モンスターでもできる。祈り鬼シマスの周りには沢山の低級モンスターがいるんだよ。祈り鬼シマスを討伐しようとすればそいつらが怒り狂って襲ってくる。無論、そいつらも討伐対象に含まれる」
祈り鬼シマスの討伐に当たって、数の暴力という言葉が最も当てはまる言葉だと思う。生半可な気持ちで討伐すると贄にされる。
「なるほどね。分かったわ」
エウロスは大きく頷いた。エウロスの目には自身に満ち溢れたような力が宿っていた。何か嫌な予感がする。
「祈り鬼シマスはあたしが討伐するわ!」
エウロスは立ち上がって声高らかに宣言した。
「ええ意気込みやねアズマ君!僕はその言葉を待っとったんや!ほなほな善は急げいうさかいに、受注しとこか。ほれポンポンと」
いつも俺は抵抗して抵抗して色々と値段交渉をした上で最終的に受けるのだが、エウロスが二つ返事で承諾してしまったためにご丁寧に用意していたクエスト依頼を受注されてしまう。
なぜ抵抗するかって?だって報酬が見合ってない事が多いから。
マガツヒさんは抗議される前に、急いで認可判子を押してしまう。
まぁ今回は懲罰クエストだからゴネようもないが……なんだか陰謀を感じるな。
「ほな!武運を祈ってるで!」
用事は終わりのようなので俺は立ち上がって部屋を出て行こうとする。しかしエウロスはその場で立って動こうとはしなかった。
「どうしたん?」
そのことに疑問を持ったマガツヒさんはエウロスに尋ねた。
「あ、足が痺れたから、もう少しこのままで」
「ブフォッ」
最後にマガツヒさんが吹き出して、俺は額を抑えてため息をついたのであった。
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