2-6:ところがどっこい
あれから一週間。特別変わったことはなく、入れ替わった身体で一週間過ぎた。
俺は販売の仕事をし、エウロスは地下で鉱石を掘って、仕事が終えれば毎日ハンナリー家の風呂を借りて、お礼と言ってはなんだが、夜ご飯をハンナリー家で食べてからボロ小屋に帰り、寝る。の繰り返し。
因みに家の風呂は水を張ってみたらいたるところから水漏れが発生したので、結局使えず、トイレは水洗式なのだが、偶に詰まったりするのがネックだった。
井戸は枯れているし、隙間風はびゅうびゅうだし、それを風邪を避ける為にエウロスは押し入れで寝ているのだと気づいたのは二日目の夜だった。
一応毛布を買ったが、寒さを凌げるかといえば、微妙だった。春が訪れればもうちょっとマシになるだろう。
「よーし!今日こそあの班長をぎゃふんと言わせるわよ!」
エウロスの愚痴を聞いていると、同じ班に配属された班長に初日反抗心剥き出しで接して、目の敵にされているようだ。これを聞いて俺も付いていくべきか迷ったが、この弱小の体ではあそこは食い物にされるので、任せておいた。
どうにかして班長をぎゃふん!と言わせたいらしく、日々画策しているが、今日までに言わせたことはない。
「程々にしとけよ」
「出来ない相談ね!身ぐるみ剥いでやるわ!」
「どうやってだよ」
「ふふん。それは剥いでからのお楽しみね!」
こうやって毎日本日やりたいことの会話をしながら朝の身支度を終える。
「んで?あんた、またあの男来てるの?」
「あぁ今日も来た」
ギルドで合流してハンナリー家へ向かう帰り道では本日の反省会。
「来てたな。なんか俺の販売するパンが一番美味いんだってよ。作るならわかるが、手渡しするだけで味が変わるもんか?」
初日から毎日同じ男性がエウロスの見た目を偉く気に入ったらしく購入しにくる。
「あんた……本気で言ってるわけ?」
「何だ?何か問題か?」
「あたしの美貌が男達を狂わしているのよ」
「ふっ」
「何よその馬鹿にした笑いわ!あたしの美貌は男を狂わすのよ!本当よ!実証済みだもの!」
鼻で笑い、小馬鹿にすると虚勢を張るエウロス。狂わしているのはお前の妹である。
「どうせお前の手から豊穣の力が漏れてるだけで、パンが美味くなっているだけだろ。それはそれで良いことだろうが」
「嫌よ!あたし散々おばあちゃんみたいに温かい手ねって馬鹿にされてきたんだから!男共を冷たくあしらうわ!あたしは冷たい女よ!」
「情に熱い女か冷たい女かどっちなんだよ」
「日替わりよ!」
「都合のいい女だな」
「言い方!!!」
俺達の身体は入れ替わっているて、同じように加護も入れ替わっている。だがエウロスの体に染み付いた神の力が残っているので、俺の意思とは関係なく豊穣と風の力が発動することがある。
エウロスは俺の受けている加護を使えるわけではないので、持っている豊穣と風の力しか使えない。
二週間経った。
「今日こそ、今日こそ勝つわ」
悪い顔しながら疲れが抜け切っていない顔でエウロスは朝日を浴びて体操をしながら言う。
「お前何と勝負してるんだよ」
朝の日課にするためと、こいつの身体を絞る為に手始めに体操することにしている。エウロスは最初は嫌がったが、尻を叩いて背中を崖から落とす勢いで押してやると、日課になった。
「男と男の真剣勝負よ」
「お前中身女神だろうが」
あまりの過酷差におかしくなり始めつつあるのかもしれない。
「それよりも、あんたギルドに呼び出されているんですって?」
「あぁまぁ大したことじゃないがな」
二週間経っても俺のギルドカードの自動適正クエスト割り当てがSランクのままなのである。そのことでギルドの上層部に報告が行き、上層部の人間が時間を作れるまで待たされて、今週末に呼び出された。
「あんた人目につくなと言っておきながら、あんたが一番目立っているじゃない」
「それは……そうだな」
まさかいきなりギルド上層部に呼び出されるとは思いもしなかった。これにはエウロスに返す言葉もない。
「狡いわよ!あたしも目立ちたいわ!あたしを見なさいな!あたしを崇め祀りなさいな!」
「俺が崇めてやるよ。偉い偉い」
「それ崇めてるより褒めてるわよ!?」
だが満更でもなさそうな表情であった。
今週末までは特別な事はないのだろうと思っていたが、そんな会話から三日後に事件は起きた。
「アズマー!お金貸してー」
いつも通りの仕事終わりに半泣き状態で人目も憚らずにエウロスがしがみついてきた。
「な、何やってんだ!エントランスだぞ!」
「お金よー、お金がいるのよー」
小声で叱ってもそんな返答しか返ってこずに拉致があかなかった。周りは筋肉漢が女性に金をせびっているのを稀有な目で見ていた。
「だーもう!分かったから!少しなら貸してやるから放せ!」
「本当!」
目を輝かせてエウロスは言う。変わり身が早いな。
「だが何に使うんだ?お前結構稼げているだろ?」
「えっと、その……ね。必要なのよ。勝てば返せるわ、倍!三倍にして返すわ!」
何を言い淀んでいる?それに勝つって……金が必要になって勝敗が決まる物事。
こいつ、もしかして。
「お前、いつも給料を財布に入れてなかったよな?」
「え?あーえーっと、あれよ。そう!ギルドポイントにしているのよ」
「の割には俺のギルドカードにポイントが無いのは確認済みだが?」
自分の金の管理とエウロスと俺のギルドカードは俺がしている。エウロスはエウロスが稼いだ分の金を持っているはずなのだ。
「お前、賭け事してないか?」
「うぐう……」
地下ではまともな娯楽がない。だから地下暮らしをしている人間達が娯楽を自分たちで作り出したのが賭博。闘技場でもそんなことがあったな。
エウロスはぐうの音をあげた。
「怒らないからどれくらい消費したか言え」
「……ホント?本当に怒らない?」
上目遣いでエウロスは震えた子犬のように見つめてくる。俺の身体でか弱さを演出するな。
「あぁ怒らない。だから正直に言え」
「………ぶ」
「何?」
「全部」
我が耳を疑いたくなった。
「全部って、全額?二週間働いてきた給料全部?軽く見積もって、30万ゼンは稼げていただろ!?それを、全部!?!?」
「だ、だってだって!あの四角鼻の鼻っ柱折ってやりたかったのよ!そしてがっぽり稼いでやるつもりだったのよー!」
こいつ仕事に燃えているんじゃなくて、仕事後の賭博に燃えてやがったのか!罰として更生施設と名高いあそこに送ったが、まさか更生せずに更にやらかすとは思いもしなかった。
「お前!本当に戻りたいのか!?」
「あー怒った!怒らないって言ったのに怒った!嘘つき!あたしだってね、戻りたいわよ!だから一生懸命頑張っているじゃない!あんたも身体で稼ぎなさいよ!あたしばっかり肉体労働させて、あんたはパン売ってるだけでしょ!」
「お前全国の販売員さんに謝れ!どんな職業でも一生懸命で、辛さは同じなんだよ!この!箱入り女神!お前の堕落したその考えを俺が修正してやる!」
度重なるエウロスのやらかしにより、ついに我慢の限界で、理性のブレーキが壊れて、渾身のストレートでエウロスの顔面を殴る。
「いった!ぶったわね!パパにも打たれた事ないのに!」
エウロスも財産の消失と敗北の哀情で自棄になって俺に掴みかかってきた。
俺達はギルド員に止めらるまでエントランでもみくちゃな喧嘩をしたのであった。
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