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2-4:仕事帰りは

「あんた!あんたあんたあんた!」


 販売の仕事を順調に終えて受付で報酬を貰ってると、エウロスが俺を見つけて怒り肩で近づいてきた。


 いきなり地下送りにして怒っている様子。


「あんた!明日もあたしをあそこに行けるようにしなさい!」


 違った。あの地下に強制的に放り込まれたら、通常の人間は二度と行きたがらないものなのだが。女神だから新鮮だったのか?まぁ過酷な分鉱石を掘れば給料は出るから、俺の身体ならそれなりのお金は稼いでこれるだろう。


「そんなに楽しかったのか?」


「楽しいですって!?楽しくなんかないわよ!憎たらしいわよ!絶対吠え面描かせてやるわ!あの四角鼻!」


 鼻息を荒くして憤慨するエウロス。

 何か嫌なことでもあったんだろうな。何にせよやる気になっているなら辞めさせる必要もないか。


「分かった。じゃあ明日から今日と同じ時間にここに来るぞ」


「よし!待っていなさいよ!あたしのことを屑だの駄目人間だの行ったことを後悔させてやるわ!……ところであんたは何してたのよ」


「俺は露店の販売員をしていた」


 何故かいつもよりも男性客が多いと店長に言われ、できれば明日もお願いしたいと言われてしまったので、俺も明日も販売員の依頼が指名で入っていた。


「ふーん。あたしだけに働かせて遊んでいた訳じゃないのね。ならいいわ」


 仕事量の格差にいちゃもんをつけられるかと思ったが何も言われなかったので肩透かしだった。


 エウロスもエウロスで何かに燃えているようだし、まとまったお金が手に入るまで、お互いの適材適所を活かして仕事をしていこう。まずは借金返済かな……。


「この後どうするのよ」


 ギルドを出て、日も落ちきって街灯に灯が灯り始めた中心街の通りを歩きながらエウロスと会話する。


「汗掻いたし、さっぱりしたい」


「えぇあたしも、あんな放水じゃまともに身体が休まったとは思えないわ」


 俺とエウロスは確定した事実を言わなかった。


「お前は知らないだろうが、このヴェルサスの街の人間は湯浴みをこよなく愛している。

 ちょっと汗をかけば湯に浸かり、仕事が終われば湯に浸かり、朝から晩まで湯に浸かっている奴だっている。それ程までに湯浴みが根強い人気だ」


「へぇーだから至る所に風呂屋があるのねー」


 どうやらエウロスも自分から言い出すつもりはないらしい。ならば戦争だ。どちらが先に折れて自分から言い出すか。


 俺達はどちらも手持ちの金が少ない。だからどちらかが先に行こうと言えば、言った人間に代金を持たせようとしているのであった。


 だから戦争だ。


「そうだぞ。だから石鹸の匂いをさせた人や、肌がツヤツヤした人達が沢山いるだろ」


「いいわねー、清潔ってだけで好印象よ。あーあたしも好印象を持たれたいわー。どこかに良いお風呂屋ないかしら。知っている人が近くにいないかしらー」


「俺の知り合いがそこの風呂屋が安くて良心的な値段だと言っていたぞ。それに風呂上がりの牛乳が絶品とも言っていたな」


「あらそうなの?だったら一度試してみたいわね」


 エウロスがそう言った後にハッとした表情に変わる。言質を取った!


「へぇー行きたいのか。だったら行くしかないよな!勿論お前が行きたいと言ったからには、お前が持ってくれるんだろ?いやぁー助かるね。流石は高貴なお方だ太っ腹だね」


 鬼の首をとったかのように攻めるとエウロスはニヤリと笑う。どうして笑う。俺の勝ちだろ。


「あたしが試したいと言ったのは牛乳の方よ。それに試したいと言ったまでであって、行きたいとは一言も言っていないわ。あらぁ?実はあんたが行きたいんじゃないの?今、行きたいって言ったわよね」


 しまった!罠だったか!エウロスがブラフを張っていたのに気が付けなった。エウロスは大口を開けて待っていたのだ、間抜けな俺が罠にかかるのを!


 ここから勝機は薄い!だったら禁じ手を使うしかない!これを使ってしまうと世界が変わってしまうが、なけなしの金をエウロスの為に払うくらいなら、使う!


「でも俺達は入れ替わっているから行けないけどな」


 禁じ手。


 互いの身体が入れ替わっているから、俺は女湯には入れないし、エウロスは男湯に入れない。強行しようとしても俺が許さない。だって俺は絶対に女湯に入るなんてことをしないから。エウロスだけ綺麗さっぱりするのは許せない。


 禁じ手を使い、エウロスは黙ってしまった。


「……あ!あそこ個室の風呂屋らしいわよ!」


「値段を見てみろ」


「1、10、100、1000、5000ゼン!一風呂5000ゼン!?」


 エウロスは俺の顔と値段表記を見ながら目を白黒させている。


「マッサージ付きだからな。最近は風呂単品じゃなくてあぁやって付属品もつけるんだよ」


「狡い商売ねー。あたしだったら、もっと豪華にするわ!専属の洗師をつけて、バスルームはプールのように!マッサージは当たり前!風呂上がりは愚民を見下しながら最高級のフルーツ牛乳を飲むのよ!」


 高笑いしてドヤドヤと言わんばかりの表情だが、感覚が微妙に庶民感覚なんだよな。


「まぁ、結局俺達は入れないだけどな」


 そう告げてお互いに肩を落とす。どうする、あの廃屋もとい借宿の冷たい水で身体を洗うのは無理だ。そもそも風呂場があるようだが、あの廃屋だからまともに機能しているかどうか怪しい。


「あれ?アズマ君とエウロスさんだ」


 そんなこんな考えていると、ばったりとお風呂帰りのニニリーと出会った。水の湿気でペッタリと落ちた髪がいつもの雰囲気と違った。


「ニニリー、風呂帰りか?」


「うん、そうだよ。アズマ君達もお風呂?」


「いや、俺達は、な」


「あっ……で、でもアズマ君のお家はお風呂あったよね?」


 家の話をされて脳が強く刺激される。


「イエ、ナクナッタ」


「え、家無くなっちゃったの!?じゃあ昨日どこで寝泊まりを!?」


「オオヤ、カリヤド、クレタ。オレタチ、ソコスマウ」


「何でさっきから片言なの!?アズマ君は大丈夫なのエウロスさん!」


「そ、相当トラウマになっているようね。アズマの言う通り、家が無くなって、更には無一文になって、お風呂にも入れない身に落ちたわ……」


「全部お前のせいだがな!!!」


 血涙が出るくらいの勢いでエウロスに掴みかかりたかったが、往来でそんなことをすれば目立つので、血涙だけ流しておく。


「わ、悪かったわよ。だからしっかり働いているじゃない。このあたしがよ!?このあたしが罪悪感で、自分の身を犠牲にしてるよ。滅多にないんだからね!もしかしたら台風が来るわよ!?」


 まぁこいつ自分の宮殿を持っているくらいだし、この為体の身体が、不健康で不摂生な日常を送っていたのだと知らしめている。


 生活力皆無だろうから、そんな奴が仕事をしているだけ偉いか。偉いか?


「あ、だったら私の家のお風呂使う?」


「「いいの!?」」


「う、うん。お家のお風呂使うのお姉ちゃんしかいないし。困っているなら力になりたいし」


 ニニリーの優しさに血涙が涙へと浄化されていく。


「ニニリー。やっぱりあなた、あたしの加護を持っているだけあるわ!ここまで自分の神に尽くす信者は中々いないわよ!好き!ほんとうに好き!」


「しゅしゅしゅ!」


「だから止めんか!」


 結局往来での注目の的になってから、ニニリーの家へと行くのであった。


「面白い!」「続きが気になる~」と感じ、お思いになられたら、


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