1-11:諸悪の根源
「魔王を討伐って、どうしてだ?」
医療器具と共に倒れたエウロスは放っておいて、話を続ける。
「んー、まず入れ替わった理由が魔王の呪い説。
魔王って人間に興味がなくて、神様が好きなのねー。
んでんで、好きになった神様を自分の物にするために呪いをかけるのさー。
その呪いの一つに入れ替わりの呪いがあったりするんだー。あの本の本文には書かれていないけど、絵には蛇が描かれていたりするんだー。
その蛇が魔王を表していたり、とか言われてるー」
「なんとも魔王らしい自分勝手な奴だな」
「そうなのよね。本当屑よ屑」
ようやく立ち上がって、頭にメスを指しながらうんうんと頷くエウロス。
「エウロス、お前知っているのか?」
「えっ?い、いやぁ?友達の女神がそう言ってたのよ!あたしにだって友達の一人くらいいるわよ!」
「そこは何も疑っていないんだが……」
友達がいると言うことにしておいてやろう。時には優しさで接してやらないといけない時もある。
「続けるよー?魔王を討伐する事で呪いが解ける可能性がある。説が正しく、解けたとして、天界に行く方法があるよー」
「あ!なるほど!あの屑の天移陣を使うのね!」
「さすがはエウロス神、天界のことは物知り」
「なんだ?その天移陣ってのは?」
「ふふん!女神エウロスから教授賜るなんてそうないんだから感謝なさい。
いい?天移陣って言うのは下界から天界へと行ける魔導陣のことよ!」
エウロスが誇らしく言ったが、想像どおり、名前通りの仕様だった。
「何で魔王がそんなものを?」
「あの屑はね、自分の配偶者見つけるためなら、自ら天界に移動してくる異常者なのよ!
移動してきてすることが、きっっっもい文の手紙は送ってくるわ、貢ぎ物に自分の写真が入って食器送ってくるわで、もうホント最悪よ!」
ふぅふぅと息を荒くして感情を乗せてエウロスは叫ぶ。
「……友達の話だよな?」
「え?……えぇ!あたし友達の為なら怒れる女神なの!
なに?悪い?情に熱い女神じゃ悪い訳!風吹かせて、芽を芽吹かせているイメージじゃないと駄目!?情緒に熱くなっちゃ駄目!?」
「悪くも駄目でもないが」
「じゃあ何も言わないで!」
「お、おう……」
力任せに話を終わらせられてしまった。何がこの女神を熱くさせているのかは俺には理解不能であある。
「その天移陣で天界に帰るってことか。俺の病はどこに関係がある?」
この病は恋患い。俺が夢で見た女性に異常に恋焦がれてしまう病。
それが魔王を討伐する理由とは関係があるとは思えない。
「それ、神の悪戯だよ」
「………何?」
「よくある御伽噺で、神様が暇潰しに人間に悪戯するの。
アズマ君はその女神様?に悪戯で病をかけられたと推測」
「待て、つまり俺のこの想いは、俺自身が本気で思っている訳じゃないってことか?」
「そうなるねー、あくまで予測だけど」
この病、恋患いは頭にこべりついている女神の暇潰しで、この恋心は作られた虚実ってことか。
俺は女神の暇潰しで、勇者パーティーから追放させられ、日常生活もままならない状態になり、そのせいでこんな阿保堕女神のエウロスと身体が入れ替わった。
「……なるほどな、天界に行ってその女神を見つけ出すってことか」
明確な終着点と諸悪の根源が明らかになったことで、沸々と怒りが込み上げてくる。
「ね、ねぇ?単純な疑問なんだけど、その女神見つけたら、どうするわけ?」
俺の怒りが体から漏れ出しているのを察して、初めて見る本気の怒りにエウロスは恐る恐る訊ねた。
「どうする?そりゃそれ相応の責任を負ってもらうことになるな」
「ぼ、暴力?」
俺は首を振る。
「ぼ、暴行?」
一緒だろ。首を振る。
「もしかして、追放ですか?」
俺は怒りを含んだ笑顔で親指を立ててやる。
俺と同じ思いをしてもらう。
あの女神を天界から追放して、下界に降ろして、暫くは俺の監視下において下界で暮らしてもらう!
泣いて謝っても、赦しを乞うても、俺から奪った大切なものの重みを理解するまで、絶対に許さない。
「こ、殺さないのね」
「もしかしたらそいつが反省もしておらずに、俺のこの状況を笑いやがったら衝動的に手を出すかもしれないが、女神だし大丈夫だろう」
「何その自信!神だって痛覚あんのよ!
あたし……の友達だったらどうする訳!あんた人の友人殺すわけ!」
「神学には詳しくないが、天界に死の概念が無いのは知っている」
「いやいや待ちなさいな!これだから無知蒙昧わ!神はね、下界におりたら普通の人間と変わらないのよ!死んだら死ぬのよ!一回ポッキリなのよ!」
「ふーん。だったら天界で一回殺してもいいな」
「なんで!?さっき暴力暴行じゃないって言ったじゃない!?発想が物騒よ!?」
「暴行も暴力もしない。痛みなく一撃で決める。
安心しろ、俺は剣闘士だから、そういうのは慣れてる」
「あんた剣闘士じゃなくて処刑人か何かなの!?いいい、嫌よ!駄目よ!神殺しなんて駄目よ!」
「どうしてお前がそこまで怯える必要があるんだ?……もしかしてエウロスお前」
「な……何かしらぁ?」
ひどく怯え、さっきよりも顔を青ざめさせて震えた声にならない声でエウロスは返した。
「お前の身内だから庇ってるのか?」
俺が夢で見たのはエウロスに似ている女神だった。
エウロスではないのは確かだ。雰囲気が似ても似つかない。
あそこまで似ていてエウロスではないとなると、相当なそっくりさんか、エウロスの身内ということになる。
それだったらさっきから友達だとか嘘をついて、狼狽しているエウロスに合点がいく。
「そ……そうよ!悪戯っ子の妹を庇っているよ!言えないわ!決して妹の名は言えないわ!」
バレた事であっさりと真実を吐く。この女神、性格悪いなぁ。
「エウロス神の姉妹はウテナのみ」
ずっと話を聞いていたナナリーが神学の本を取り出して、ゼオスの家系図を見せてくれた。確かにエウロスの妹にウテナという女神がいた。
「じゃあ。そのウテナを見つけて、この呪いのような患いを解いてもらえばいいんだな」
「そゆことー」
よし!よしよしよし!解決の糸口が掴めたぞ!これで俺は元の身体に戻れるし、天界に行ってウテナさえ見つけて、懲らしめればすべてが解決するんだ!テンションが上がってきたぜ!
「まぁ、大前提としてだけど、どうやって魔王倒すのー?」
「あ・・・」
俺もエウロスもその質問の答えを知らなかった。
俺のテンションは地に落ちた。
「面白い!」「続きが気になる~」と感じ、お思いになられたら、
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