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暗殺者の結婚  作者: 萌木野めい
Ⅲ.家族と愛情
48/80

48.疑惑

 絶望的な答えに、三人は思わず黙り込んだ。


「何で今更……?」


「……」


 何故、今になってサザ達の正体がばれたのか。ばれる理由が全く無い。

 ユタカを襲おうとしていた者たちは鎮圧されたとヴァリスが報告してくれたから、それとも関係ないはずだ。


「……とにかく、ここは早く立ち去った方が良いね。危ないかもしれない」


「そうだけど……サザ。服がそのままじゃ大変だよ。服に血がついてる」


「えっ」


 サザが自分の胸を見ると、白いブラウスの胸に血飛沫が転々と飛んでいた。


「ど、どうしよう……」


 血を浴びた服を着て帰っては、ユタカに何も言い訳ができない。


「サザ、あたしのブラウス着て帰りなよ。

 あたし達は独り身だから汚れてても別にどうにでもなるもん。

 でも、暗殺者二十人斬りの領主様が見たら、絶対怪しまれちゃうよ」


「うん……ありがとう」


 アンゼリカとサザは素早くブラウスを脱ぐと交換して着直した。

 カズラとアンゼリカがサザの周りをぐるりと回って、他に不自然なところが無いか上から下まで確認してくれた。


「スカートには血はついてないな。大丈夫そうだ。とりあえず、早く立ち去ろう」


「カズラ、アンゼリカ……気をつけてね」


「私達はサザに守って貰ったんだ。これ以上は絶対に、心配かけない。

 私達は自分の身はちゃんと、自分で守る。大丈夫だ」


「そうよサザ。私達のことは心配しないで。

 サザは自分のことだけ、考えてくれたらいいから。

 暫くは警戒して、あたしはカズラんち泊まろうと思う」


「うん……ありがとう」


 サザ達は最後に三人でぎゅうと強く抱擁すると、素早く馬に乗り、死体の転がった森を後にした。


 ―


 サザが城に帰ると、馬小屋にユタカの馬はまだ繋がれていなかった。サザの方が先だったようだ。

 待たせてしまっていたら怪しまれるかと思っていたサザは安堵した。


 サザは馬小屋に馬をつなぐと、井戸でバケツに水を汲んで馬に飲ませた。

 サザはついでにもう一杯バケツに水を汲み、月明かりに照らされた水面で自分の顔に血飛沫が飛んでいないか確認した。

 ブラウスは交換してもらったから返り血は浴びていないはずだが、入念に確認すべきだろう。


(一体どうして急に正体がばれたの?

 それに、これからどうしたらいいんだろう……何にも分からない)


 サザは水を飲んでいる馬のたてがみを撫でてやりながら、不安でいっぱいの心で月を見上げた。今日は満月で、辺りは明るい。


(そうだ。リエリに話をしてみよう。

 何か警備の仕事中に聞いた噂話とか知ってるかもしれない)


 サザは馬小屋を出ると、今日の出来事を唯一相談できそうなリエリに話すために、近衛兵の宿舎へ向かった。

 途中に通りがかった犬小屋の前で、犬たちがきゅん、と心配そうに小さく鳴いてサザを迎えてくれた。利口な犬たちは、サザの心細さを感じ取ってくれているのだ。

 サザは「ありがとね」と言い、犬小屋の柵の隙間から飛び出た犬達の細長い鼻先を順番に撫でてやった。

 

 リエリの部屋は何回か訪れたことがあるので部屋は分かっている。ノックすると驚いた表情をしたリエリが出てきて、すぐに部屋に入れてくれた。

 さっきの森での出来事を話すと、心から心配してくれた。


「私は明日ちょうど警備で出る予定なので、森を見てみますね。

 手がかりが少ないので、できることがあるか分かりませんが、何か噂話などがないか、注意してみます」


「ありがとう……相談できるのはリエリだけだから」


「いえ、私ならいつでも。期待に応えられるか分かりませんが、また何かあれば」


 リエリは優しく微笑んで、サザを部屋から見送ってくれた。


 ―


 サザがリエリのところに行っている間に帰っていたらしいユタカとリヒトは、サザが一緒に夕食を食べるのを待ってくれていた。


「母さん遅いー! おなかぺこぺこだよ!」


「ごめん……待たせちゃって」


 食卓について頬を膨らませたリヒトに微笑んで謝ると、サザは席についた。


 リヒトが興奮気味に王宮の様子を話してくれるのを面白く聞きながら三人で夕食を取ると、ユタカと一緒に部屋に戻った。

 リヒトは疲れたようで、部屋に戻ると早々に眠ってしまったようだ。


(ふう……)


 さすがにサザも今日はとても疲れた。死ぬところだったのだ。

 ローラがじきに風呂の用意が出来たと呼びに来てくれるだろう。風呂に入って早く眠ってしまいたい。


 一息ついてベッドに腰掛けたサザのすぐ横に、ユタカが座った。


「サザ。教えてほしいことがあるんだ」


「なに?」


「さっき、おれたちより先にサザの馬は帰ってたのに、サザは部屋にいなかっただろ?

 どこ行ってたんだ?」


(まずい)


 サザはどきりと心臓が大きく鼓動するのを感じ、あわてて平静を保って口を開いた。


「月が明くてきれいだったから、中庭を歩いてたよ」


「いや、さっき近衛兵の宿舎に行ったよな?

 犬が少し騒いでるのが聞こえたから外を見たら、宿舎の方からサザが歩いてくるのが見えたから。誰のところに行ったんだ?」


「……」


(見られてたのか)


「……ちょっとリエリに話したいことがあったから」


「それならそうと、言ってくれればいいのに。なんで今、嘘をついたんだ?」


「大したことじゃ無かったから」


 ユタカは少しの沈黙の後、眉を寄せると口を開いた。


「あのさ、サザ。スカートの後ろが、切れてるんだ」


「え……?」

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