26.襲撃
(殺される!)
サザは咄嗟に立ち上がり、馬車の壁に両手を突っ張らせて身体を浮かすと、身体を前後に振って両足で思い切り馬車のドアを蹴り飛ばした。
激しい音がして木製のドアが外に吹っ飛ぶ。
「サザ様⁉︎」
サザの突然の行動に驚き立ち上がったリエリの両肩を全力で引っ掴むと、床を思い切り蹴って馬車から飛び降りた。
それと同時に、魔術の炎の球が馬車に激突し、大きく爆発した。
サザはリエリを押し倒すような形で二人で地面に倒れ込んだ。
熱い爆風が後ろから吹いて頰を熱くする。
沿道の人たちが驚いて悲鳴を上げている。辺りは騒然とした。
「……ひ……」
リエリがあまりの出来事に目を見開き、言葉を失ったまま地面に倒れている。
後ろから吹く爆風が落ち着いたので、サザはリエリの上に倒れたまま、顔だけで馬車の方を振り返る。
馬車はかろうじて車輪だけを残して跡形もなく大破し、めらめらと炎が上がっている。爆発に驚いて大きくいなないた馬車の馬を、従者と近衛兵が何度か手綱を引いて宥めている。
(死ぬところだった……)
サザは身体中からどっと冷や汗が出るのを感じた。
どうやら、馬車だけを集中的に攻撃されたようで、馬車を引いていた馬や近衛兵、周りにいた一般の人たちは被害は無さそうだ。
その事にサザは胸をなでおろした。
しかし、本当に危なかった。
もしリエリが本当にユタカだったら、体重があるのでサザの力では一緒に飛び降りるのは無理だった。
二人で即死していただろう。
騒ぎに気づいたユタカが、青い顔をしてこちらに走ってきた。
ユタカは走りながら近衛兵に魔術士がいた方を調べるように指示し、馬車の横に倒れているサザとリエリに駆け寄った。
「サザ!リエリも……大丈夫か?!」
「ええ……何とか、直前で飛び降りたので」
サザは服についた土埃を払い、立ち上がりながら答えた。
リエリも、やっと気を持ち直したようで、体を地面から起こした。
「暗殺者がおれとリエリを見間違えたんだな。迂闊だった……」
ユタカは立ち上がったサザの両肩を強く掴んだ。
「助かって良かったよ……
でも、どうして避けられたんだ?」
「サザ様が私を……」
立ち上がったリエリが服の埃を払いながら口を開いた。
(まずい)
「リエリが!!」
サザは声を張り上げてリエリの言葉を遮った。サザがやったことがユタカに知れたら、絶対に疑われてしまう。
「リエリが、私を助けてくれたんです」
「……え?」
隣に立っていたリエリが驚いてサザの顔を見る。サザは気にせずにそのまま続ける。
「リエリが、既の所で私の身体を掴んで一緒に馬車から飛び出してくれたんです。
そのおかげで助かりました」
ユタカがサザを抱いた手を離し、リエリに向き直る。
「そうだったのか……
リエリ、本当に良くやってくれたよ。リエリに護衛についてもらって本当に良かった」
「いえ、私ではなく……」
「リエリ!ありがとう」
サザはリエリが答え終わる前に、強めの口調で言葉を重ねた。
「……!」
リエリは何か言いたそうな表情をしたが、サザの言葉の圧を察して押し黙った。
「入城の手続きは終わった。
危ないかもしれないから、早く城の中に入ろう」
そう言うとユタカはサザの身体を両手で抱き上げた。
所謂お姫様抱っこというやつだ。
(わああ……!)
急なことに狼狽えるサザと対照的にユタカは特に気にする様子もなく、サザを自分の馬に乗せた。リエリは他の近衛兵の馬に一緒に乗せてもらっている。
ユタカは隊列に合図を出して足早に前に進ませ、イスパハル城の門を通過した。