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暗殺者の結婚  作者: 萌木野めい
II.結婚と仕事
20/80

20.信頼

 ローラ達を部屋で待っていると、ドアをノックする音がした。


「どうぞ、お入りください」


 サザはてっきりローラ達だと思って返事をしたのだが、ドアを開けて入って来たのが二人の軍服の男だったので驚いてしまった。


(誰だろ? 領主様の部下だと思うけど……)


 サザは思わぬ状況に慌てたが、言わずもがな二人はきちんと自己紹介をしてくれた。


「私は近衛兵長のトゥーリ・アンバー大尉、こちらはイーサ城付き軍師のヴェシ・サイラス少尉です。

 私は近衛兵を取りまとめ、アトレイド少佐の指示の元で訓練や警備の指揮を担当しています。

 ヴェシは軍師ですが、今は戦争はしておりませんので法務関係の仕事を担当しております」


 トゥーリと名乗った剣士の男が言った。トゥーリは日に焼けた肌に角刈りの金髪で、いかにも逞しい体躯の男だ。サザが国一の剣士と聞いて想像したイメージに近い。

 年はユタカより一回り年上位だろうか。ベテランの剣士の風体である。


 ヴェシはトゥーリとは対照的に、身体の線は細く色白で、小柄ですらりとしている。ふんわりとした赤髪で丸い眼鏡をかけている。博識そうな雰囲気だ。

 ユタカと同じくらいの歳に見える。


「あの、領主様は城の中の皆様に顔を見せられるとのことで、少し前に出られましたが」


「いえ、私たちは奥様とお話をさせて頂きたいのです」


「わ、私……?」


(何だろう?昨日の馬の乗り方が荒すぎて注意されるのかな? 随分長い距離を全速力で走らせちゃったから)


 サザは怒られるのかと思って身構えると、二人は急にサザの前の床に膝をついて跪いた。


「ちょ……止めて下さい」


 人に跪かれるのは初めての体験だったので、サザはあわてて止めたが、二人は頑なに跪いたままだった。


「昨日の事で謝らせて頂きたく参りました」


 トゥーリが続ける。


「昨日の事で、と言いますと?」


「昨日、領主様は命が脅かされるほどの大変な怪我をされました。

 領主様をお守りするのは本来、私たちのすべき事です。嫁いだばかりの奥様をあのような恐ろしい目に合わせてしまい本当に申し訳ありません。

 森にも警備の近衛兵をつけていますが、不十分でした。すべて私たちの責任です」


「いえ、私も領主様も無事でしたし、気にしないで下さい」


 ヴェシが口を開いた。


「それに、奥様が領主様を手当てをして馬で連れ帰って下さらなければ、私たちは領主様を失っていたのです。

 何とお礼を申せば良いか」


「そんな、私はただ……出来ることをしただけです」


(領主様のことをすごく大事に思っているんだな)


 サザが問題ないことを熱心に説明すると、二人は何度も丁寧にお辞儀をして帰っていった。


 その後、部屋で過ごしていると、何人もの近衛兵や城で働く人達が、サザを気遣い、直接お礼を言いにきてくれた。皆、律儀で優しい人たちだ。

 サザはユタカがとても慕われていることを改めて感じた。


 程なくしてローラとメイド達がウェディングドレスや化粧道具を持って部屋に来てくれた。サザの短い髪にリボンを編み込んできれいに結い、化粧をしてくれる。


 サザはふと、ウェディングドレスの袖の長さが気になったが、ちゃんと首元が高く長袖のものが用意されていた。

 恐らくユタカが言っておいてくれたのだろう。気の回る人だ。


 白いドレスは、所々にイーサの領主印に使われているすずらんの図案が銀糸で刺繍されている。サザが動くとすずらんが刺繍されたレースが重なって揺れ、まるで風に揺れる本物のすずらんの様だ。ドレスにはてんで興味の無いサザでもときめくくらいに、とても可愛らしかった。

 サザは鏡を見て自分の変貌ぶりにびっくりしてしまった。


「とってもお綺麗ですよ」


ローラや他の若いメイドがうっとりした様子でサザを見て言った。


(はは……馬子にも衣装を地で行ってるな、これは……)


 サザが着替えている間に部屋に戻ってきたユタカが、ドレスを着たサザを見て一瞬息を飲み、一言だけ口にした。


「……似合ってる。きれいだよ」


「あ、ありがとうございます……」


 如何にも結婚式という言葉のやりとりをする日が自分にも来たのかと思ったら、サザはとても恥ずかしくなった。ユタカとサザの様子にメイド達は目尻を下げている。


「そろそろ行こう」


 ユタカがまるでお姫様にやるようにサザに深々と礼をすると、手を取って部屋を出た。恐らく軍式の正式な礼なのだろうが、今まで普通の青年の雰囲気だったのにいきなりこういうことをされるとそのギャップに驚いてしまう。


 階下の広間に降りると、城の前に準備してある馬車までの通り道の両脇に先ほどのトゥーリやヴェシ、近衛兵やメイドや従者たちが皆集まってくれていた。拍手をして二人を見送ってくれている。

 多分な気恥ずかしさの中で、サザは皆の温かい気持ちを感じて自分の心も温かくなる気がした。

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