プロローグ
ある世界に、一人の老獪な魔導師がいた。
その魔導師はその星の神すら認めた次元魔法という世界を行き来する魔法の使い手だった。
魔導師は様々な世界を見る為、次元魔法を使用することを決めた。
しかしその術は不完全だった。
魔法は暴発し魔導師を殺した後異世界に繋ぐ入り口を作った後その先にいた人間たちを殺してしまった。
そして、人間たちの魂は魔導師のいた世界へと流れてしまう。
その責任を異世界の神より問われた神はその者たちの魂を保護し世界のルールの下に新しい生を与えることにした。
この物語は、そんな被害者達の第二の生の物語である。
痛い。
そう思った時は遅かった。
その痛みは全身へと伝わり、体のすべての部位が痛くなるほどの激痛へと変わった。
どこが痛いとかじゃない。
全部が痛いのだ。
普段意識しないような、脳や心臓などの内臓までも、至る所が痛い。
その中で辛うじて動かした眼球で見たのは、恐らく同じような現象に陥っているであろうクラスメイト達。
先生でさえも、そうだった。
下を見ると、それよりも異様な物があった。
どこまでも深く、暗いブロック状の闇。
私の意識は、それに引き込まれるかのように、深く、深く、落ちていった。
と、ここまでが目が覚めた時に最初に思い出した記憶。
私は今、謎のモニュモニュに包まれている。
誘拐かな?、と思ったけど記憶をたどった限り誘拐ではないと思う。
クラス全員を誘拐するなんて非現実的だ。
しかもこんなモニュモニュした麻袋なんてあるはずが無い。
力でも入れてみるか。
うらぁ。
あ、なんかモニュモニュに亀裂入った。
このまま出れるかな?
おらぁぁぁ!
パチュンという音がして外の景色が見える。
しかしそこは、日本では、いや地球ではなかった。
気色悪い程ある大量の謎の卵。
それが置かれているのは腐臭がする紫色の木の森の茂みの中。
人もいた。
ただしその格好はあまりにも地球の物とは思えない。
砕かれた鎧や剣、謎の杖にローブ。
しかもそれをつけている人間はすでに死んでいる。
そこに群がっているのは巨大な青虫達。
一匹一匹が1m程の大きさがあり人間の肉を貪り食っている。
そして周りの白い卵から次々と殻を破って青虫が出てくる。
出てきては人の肉を貪り喰らい、無くなったら仲間を食う。
怖い。
逃げたくなるが手足に力が入らない。
ひんやりとした感覚に襲われ思わず下に目を向ける。
青白いどろっとした液体。
そこに写っていたは、紛れも無く、周りと同じ青虫だった。
はい?
うん?
どゆこと?
整理しよう。
今私は青虫になってる。
なんで?
アレか?
異世界で転生無双!みたいなあれか?
いや、異世界確定なのはわかるけど無双は無理だわー。
マジで無理。
だって純粋に幼虫嫌いだし。
特にカブトムシ。
あれはトラウマもんだな。
いや、今の状況もかなりトラウマもんなんだけどさ。
て言うかまずなんで青虫が肉食ってんだよ。
逃げたい。
しかし、謎の飢餓感が急に出てきた。
目の前のバラバラにされた元人間たちが視界に入る。
しかし、それを見ても嫌悪感や恐怖などは一切無く、あるのは餌を見つけた生命としての歓喜。
食べたい。
腹部の下にある足が勝手に動き出す。
お腹が空いた。
アレを食べたい。
気がついたら食べていた。
自身への嫌悪感と罪悪感に襲われながらも、体は食べることをやめない。
私は、人としても、青虫としても、生まれて初めて人を食べた。