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養蜂家の青年は、蜜薬師の花嫁のお付きとなる

 半日以上かけて、村に到着する。

 服を汚さないようにと気を付けて下りてきていたアニャは、いつもより疲れているようだった。


「馬車の出発まで余裕があるから、どこかで休もう」

「いいえ。回るところが、あるわ」


 なんでも、具合を悪くしているお爺さん、お婆さんの家に行くという。旅行で不在ということも伝えたいらしい。


「イヴァンは、馬車乗り場で待っていて。すぐに、戻ってくるから」

「アニャ、俺も一緒に行くよ。荷物はどこかで預かっていてもらおう」


 久しぶりだと声をかけてきたおばさんの家に、荷物を置かせてもらった。それからアニャと共に、見回りに出かける。


 一軒目は、寝たきりのお爺さん。

 娘さんには体に不調はないと話していたようだが、アニャが問いかけるとすぐに訴える。


「最近、喉が痛くてねえ」

「どんな感じ?」

「イガイガと言えばいいのか。ツバを呑み込んだだけでも、痛むんだ」

「だったら、温かいお湯に蜂蜜を溶かして飲んだらいいわ」


 痛みの原因となる炎症を蜂蜜が和らげ、さらに喉を潤してくれるらしい。


「じゃあ、先生のところの蜂蜜を、買ってくるように言っておこう」

「いいえ、うちのじゃなくても、どの蜂蜜でも効果を発揮するわ。オススメは、アカシアの蜂蜜よ」


 アニャは耳が遠いお爺さんが理解できるように、ゆっくり、はきはきと喋っていた。

 自家製の蜂蜜を勧めないところは、アニャらしい。


「この前も、先生に看てもらったら、調子がよくなって。本当に、感謝しているよ」

「そう言ってくれると、とっても嬉しいわ。でも、私は医者じゃないし、蜂蜜も万能ではないの。だから、症状がよくならなかったときは、お医者さんを村に呼んでね」

「ああ、わかっているよ」


 アニャは特製の蜂蜜飴をお爺さんに手渡し、また来ると言って手を振って別れた。

 お爺さんの娘さんから、感謝される。


「お父さんったら、あたしが聞いてもいつも大丈夫って言うから」

「娘の前では、強がりたいのかもしれないわ。うちのお父様もそういうところがあるの」


 マクシミリニャンは多少の熱ならばなんともないと思っているようで、張り切って仕事をしているらしい。すかさず、アニャが発見して安静にしているようにと言うのだとか。


「どこかにも、怪我をしているのに仕事の支障になるから、黙っている人もいたわね」

「ウッ!!」


 痛いところを刺されてしまう。

 俺も、お爺さんを責められない立場にあるようだ。


「先生、お代です」

「いや、今日は私が勝手に押しかけただけだからいいの」

「でも」

「喉が痛いって聞きだしただけだから」


 喉の痛み、切り傷にはアカシアの蜂蜜、胃もたれ、胃痛には栗の蜂蜜など、種類によって異なる効果をアニャは娘さんに説明する。


「だったら、先生のところの蜂蜜を買っておくわ」

「あ、その、うちの蜂蜜でなくても大丈夫」

「いいの。街の養蜂園の蜂蜜より、山で採れた蜂蜜のほうがおいしいから」

「え、えっと、あ、ありがとう」


 アニャが気まずそうに返事をする。街の養蜂園というのは、俺の実家だ。

 娘さんも、まさかアニャの隣に街の養蜂園の息子がいるとは思ってもいないのだろう。

 娘さんとはそのまま別れた。


「えーっと、イヴァン。なんか、悪かったわね」

「大丈夫。山の蜂蜜は、本当においしいし」


 作った環境が異なるので、味わいに違いがでるのは当たり前だ。

 街の蜂蜜は輸送費も含まれるので、価格も上乗せされて山の蜂蜜と値段もそう変わらないし。

 そういう状況であれば、客は好きなほうを選ぶだろう。


「物事を比べるのって、よくないとわかっているの。無意識のうちに誰かを貶めたり、傷つけたりしていることもあるから。でも、人は比べてしまう生き物なのよね。私も、気を付けなければいけないって、肝に銘じておくわ」

「そうだね」


 俺は昔から、双子の兄であるサシャと比べられてきた。だから、物事に優劣があるのは当たり前で、人はそれを比べるものだと思っていた。

 アニャのように、よくないと理解している人のほうが稀だろう。


「アニャ、ありがとう」

「なんのお礼よ」

「上手く説明できないけれど、なんだか感謝したくなって」

「ふふ、変なイヴァン」


 ほんわかと幸せな気持ちでいたら、こちらに目がけて急ぎ足で接近する者が現れる。

 ジロリと、こちらを睨んでいるような、いないような……?


「ええ、何? 怖っ!」

「あれは、カーチャだわ!」

「カーチャって、アニャが可愛すぎるあまりいじわるなことを言って、関わりを持とうとする信じがたいくらい残念な奴ーー!?」


 思わず、説明口調になってしまった。

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