表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/156

養蜂家の青年は、反省し謝罪する

 アニャは膝枕を貸してくれた。なんて心優しいのか。彼女は地上に舞い降りた天使のようだと思ってしまう。


 叩かれた頬を冷やしたあと、アニャは鞄に入れていた薬を取り出す。缶をパカっと開いた瞬間に、質問してみた。


「アニャ、それ、もしかして打ち身軟膏?」

「そうよ。もしかしたら、イヴァンが怪我をするかもしれないと思って、持ち歩いていたの」

「なんていうか……ごめん」


 アニャは無言で、打ち身軟膏を頬に塗ってくれる。

 塗り終わったあと、軟膏の入った缶の蓋をパキンと閉めた。その音が、いつもより大きく聞こえてしまった。


「アニャ、もしかして、怒っている?」

「ええ」

「お土産屋さんの奥さんに、何か言い返したほうがよかった?」


 アニャはふるふると首を横に振った。

 俺のへたれた対応を、怒っているわけではないようだ。


「ごめん。なんに対して怒っているのかわからないから、教えてくれると嬉しいな、と」


 手をパタパタ動かしながら質問したら、アニャは素早く俺の手を取る。そして、顔を覗き込み、泣きそうになりながら言った。


「イヴァンが、怪我をするのが嫌なの! 出会ってから、何回こうやって、あなたの怪我の治療をしたと思っているの?」

「ご、ごめん」

「もっと、体を大事にしてほしい。雑に、扱わないで。あなた、自分さえ犠牲になって問題が解決したら、それでいいとか思っているでしょう?」

「まあ、うん。そういうふうに、考えているときも、ある、かな」

「イヴァンは、本当に、ばか!」


 アニャはそう言った瞬間、真珠のような涙をポロポロと零す。


「アニャ、ごめん。俺、二度と、ばかな行いは、しないから」

「約束よ?」

「うん、約束」


 アニャを泣かせてしまうとは、本当に情けない。

 自分だけが我慢すればいいという状況は、許されないのだろう。

 もっともっと考えて、行動しなければならない。


 起き上がって、アニャの涙を手巾で拭ってやる。

 そして、手と手を取り合い、一緒に立ち上がった。


 ◇◇◇


 そのまま、山を登る。マクシミリニャンの売り上げは急ぎではないので、次回でいいらしい。

 ふと、大事な用事を忘れていることに気づいた。


「っていうか、アニャにリボンとかレースを買ってあげたかったのに」

「そんなもの、村に売っているわけないでしょう?」

「え、そうなの?」


 振り返ったアニャは、コクリと頷く。


「村で注文したら、商人が買い付けてきてくれるけれど、都から取り寄せるから高いのよ」

「ええ~」


 わざわざ都から取り寄せなくても、湖畔の町ブレッドだったら、普通に売っているのに。 


「ミハルの店だったら、あるかも」

「ミハル?」

「友達。実家が商店なんだ」


 ここで、ピンと閃く。すぐに、アニャに提案してみた。


「ねえ、アニャ。冬になったら、俺の育った町に行かない?」

「湖畔の町に?」

「そう。アニャを、ミハルに紹介したい」


 きっと、めちゃくちゃ羨ましがるだろう。


「あとは、家族とか、甥とか……。まあ、一部の人達になりそうだけれど」

「私が会っても、いいの?」

「うん。むしろ、会ってほしい」


 冬になれば、養蜂の仕事も一段落するだろう。

 ミハルは心配しているだろうし、ツィリルだって寂しがっているはずだ。


「その、サシャは紹介できないかもしれないけれど」

「まあ、難しいお年頃ですものね」


 アニャがサシャを「難しいお年頃」と言うので、笑ってしまった。


「湖畔の町で、アニャにいっぱい喜ぶような物を買ってあげたいな」

「いらないわ。私は、あなたがいるだけでいいの」

「そんな、無欲な」


 そうは言っても、アニャは贈り物をしたら目一杯喜ぶだろう。俺は、アニャについては人より詳しいのだ。


 ◇◇◇


 山の家にたどり着いたのは、夕方だった。

 買い集めた荷物が思った以上に重たくて、遅くなってしまった。

 マクシミリニャンは首を長くして待っていたのだろう。庭先で、手を広げて迎えてくれた。


「アニャ、イヴァン殿、よくぞ帰った!!」


 アニャは抱きつきに行こうとしない。広げられた手が、手持ち無沙汰となる。

 仕方がないので、俺が抱きつきに行ってあげた。


「お義父様、ただいま!」

「おお、おお……!」


 ぎゅっと、力強く抱き返される。

 マクシミリニャンは外で一日中仕事をしていたのだろう。土と、葉っぱの匂いがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ