コミカライズ第2巻発売記念SS マクシミリニャンとぬいぐるみ
マクシミリニャンが真剣な様子で針仕事をしていた。
何をしているのか覗き込むと、クマの絵が描かれた設計図をもとに、何かを作っているようだった。
「お義父様、何を作っているの?」
「リトル・ベアだ」
「リトル・ベア?」
それはクマのぬいぐるみだと言う。
なんでも今、国中の子ども達の中でリトル・ベアと呼ばれるクマのぬいぐるみが流行っているらしい。
職人によってデザインも異なるようで、リトル・ベアを求めて旅するマニアもいるようだ。
麓の村でも独自のリトル・ベアを販売しよう、という働きがあるようで、マクシミリニャンも誘われて作ることになったようだ。
マクシミリニャンのリトル・ベアは、山羊のやわらかい毛で作られているらしい。
完成した物は職人顔負けのクオリティで、ふかふかしていて抱き心地がよさそうだ。
「初めて作るゆえ、一体に十日もかかってしまってな」
山羊の毛の扱いも難しいようで、余計に手間暇かかっているようだ。
「お義父様、俺も手伝おうか?」
「いいのか?」
「任せて!」
こう見えて、山羊の毛の扱いには慣れている。
義姉の命令で、甥や姪が着る靴下や外套作りをしていたのだ。
そんなわけで、俺もリトル・ベア作りに挑むこととなった。
マクシミリニャンと俺は得意な工程を分担し、最短三日ほどでリトル・ベアを作り上げるようになった。
だんだんとどうやったらかわいく仕上がるか、とこだわるようにもなる。
来週にはリトル・ベアを販売するお祭りも開催されるので、よりいっそう気合いが入っていた。
そんな俺達の様子を見たアニャが、一言物申す。
「お父様にイヴァン、あなた達、養蜂業からぬいぐるみ職人に転職するつもりなの?」
「いやいやまさか!」
「これはほんの暇つぶしである」
「暇つぶし、ねえ」
ここ一ヶ月ほど、マクシミリニャンと二人でぬいぐるみ作りに夢中になっていたので、アニャは呆れているのだろう。
「アニャ、ごめん」
「平気よ。でも、リトル・ベア祭りが終わったら、私とたくさんお喋りしてね」
「アニャ~~~~!!」
今すぐアニャとお喋りしたかったものの、作りかけのリトル・ベアが山のようにあった。これらをやっつけないと、リトル・ベア祭りに間に合わないだろう。
アニャに見守られながら、リトル・ベア作りに精を出した。
そしてリトル・ベア祭り当日――マクシミリニャンと共に山を下り、麓の村で露店をオープンさせた。
広場にはたくさんのリトル・ベアが並んでいる。ライバル店の商品も気になったが、まずは自分達のリトル・ベアを売らなければ。
「イヴァン殿、今日はこのような品を用意した」
それは、かわいいクマのアップリケがついたエプロンだった。
この程度ならば、問題ない。
前回、マクシミリニャンとパンを売りにきたときは、愛らしい動物のかぶり物をして売ったのだ。
あれに比べたら、クマのアップリケはかわいいものだ。
エプロンをかけたあと、さらにマクシミリニャンは小物を差しだしてきた。
「頭にはこれを装着してほしい」
「こ、これは――!?」
クマの耳がついたカチューシャである。
すでにマクシミリニャンは装着していて、噴きだしそうになった。
「これ…………いる?」
「絶対に必要だ」
クマのカチューシャを装着した成人男性が二人もいたら、不審者扱いされないか。
なんて思ったものの、道行く子ども達からは「クマちゃんだ!」と評判がよかった。
仕方がない、とクマ耳のカチューシャを装着する。
その結果、子ども達の注目を集め、リトル・ベアも一時間ほどで完売した。
早めに完売できたので、その日のうちに帰宅もできた。
「あら、今日は泊まってくるんじゃなかったの?」
「すぐに売り切れたから、家に帰ろうって話になって」
さすがに、片道八時間を往復でするのはきつい。
けれどもアニャが嬉しそうにしていたので、よしとしよう。
アニャへのお土産は看板クマとして飾っていた、ワンピースを着たぬいぐるみである。アニャをイメージしたもので、お客さんからもかわいいと評判だった。
何度、売ってくれと言われたか。
アニャにプレゼントすると、目を丸くして驚いていた。
「これ、もしかして私?」
「そうだよ。かわいいでしょう」
「ええ、とっても! 驚いたわ。こんな物も作っていたのね」
「一番よくできたんだ」
「嬉しいわ」
お気に召していただけたようで、ホッと胸をなで下ろす。
リトル・ベア祭りが終わったので、アニャとお喋りできるぞ! と思っていたのだが――。
「そういえばイヴァン、来月は工芸品祭りがあるのよ。一緒に鹿の角からペーパーナイフを作らない?」
「え!?」
「前に、作り方を習いたいって言っていたでしょう?」
「う、うん」
「作りながら教えてあげるから」
「わ、わあ、やったー」
そんなわけで、俺はペーパーナイフ作りに励んだのだった。