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養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


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番外編 野菜作りの秘訣

 俺達家族の生活を豊かにしてくれる畑――ここでは多くの作物が育てられている。

 畑はいくつかの区画があり、農業の知識をフルに使って運営されていた。

 ただ、単純に、野菜を育てているわけではないようだ。


 ジャガイモを収穫したあとの畑で、続けて同じ作物を育てることはしないという。

 どうしてなのか、アニャがわかりやすく説明してくれた。


「ジャガイモはね、土の栄養をたくさん吸収しながら育つの。だから、収穫するころには、畑が痩せてしまうのよ」


 このような状態では、同じようにジャガイモは育たない。


「どうすると思う?」

「うーん、肥料をたくさん撒いて、畑をしばらく休ませる?」


 アニャは両手をクロスして、バツ印を作った。その動作があまりにも可愛くって、不正解でもいいや、という気持ちになってしまう。


「正解はマメ科植物である、ソラマメやエンドウ、インゲンを植えるのよ」


 なんでも、マメ科植物は石灰以外の栄養をあまり必要としないらしい。そのため、ジャガイモを植えたあとの痩せた畑でもぐんぐん育つようだ。

 さらに、マメ科植物は畑を肥やしてくれるという。至れり尽くせりな作物というわけである。


「なるほど。じゃあ、マメ科を育てたあとに、ジャガイモをまた育てるというわけだね」

「いいえ、違うわ。マメ科植物のあとは、アブラナ科の野菜を植えるの」


 アブラナ科の野菜というのは、キャベツやブロッコリー、カリフラワー、ルッコラ、クレソンなどである。


「マメ科を育てたあとの畑では、アブラナ科の野菜――特にキャベツに発生する根っこに白いこぶができる病気を防いでくれるのよ」

「お、おお……!」


 その次に根菜類を植えて、次の年にやっとジャガイモを育てることができるらしい。


 同じ野菜を続けて育てると病気や害虫の発生率がぐんと上がる。そのため、さまざまな野菜を植えて対策するようだ。


「あとは、肥料も重要ね」


 自家製の肥料は野菜作りには欠かせない。

 中でも、家畜小屋に敷いていた藁が重要な役割を果たしていると聞いたときは驚いたものだ。


 家畜が快適に暮らせるように藁を敷いているものだとばかり思っていたのだが、回収した藁を利用し、堆肥にしていたのだ。


 堆肥というのは、枯れ草や落ち葉、雑草、藁などの廃棄物を使って作られる。その中で重要なのが、家畜小屋に敷いていた藁というわけだ。


 まず、家畜の糞は堆肥を作るために必要な細菌の活動を活発にするらしい。尿は堆肥にほどよい湿り気を含ませ、藁の空洞は堆肥に酸素を与えるのだとか。

 これらの廃棄物をどんどん積み上げ、自分の背よりも高くなったらいらなくなった毛布を被せる。二ヶ月後になったら堆肥を混ぜ、さらに二ヶ月間放置。

 四ヶ月の時を経て、堆肥は肥料として利用可能となる。


 なんというか、農業は習ってみると科学的な知識が必要なものだと思った。

 ただただ愛情込めて作物を育てたらいいわけではないのだ。


 今日、収穫したキャベツは、こぶ病が発生しないよう、工夫されて育ったものである。

 まるまると成長したのは、アニャやマクシミリニャンが知識を持っていたからだ。

 よく育ってくれたと、頬ずりしてしまった。


 今日はこのキャベツを使って、夕食を作る。

 春キャベツは葉がやわらかく、みずみずしい。生で食べてもおいしいが、今日はキャベツをメインにした料理を作る。


 まず、以前アニャに教えてもらったエッグヌードルを作る。

 習った当初は作る手つきもぎこちなかったが、今はずいぶんと上達した。

 小麦粉に朝採れ卵を落とし、オリーブオイルを垂らしつつ混ぜていく。ほんのちょっと塩を加えて生地を練り、なめらかになったら細長くカットする。

 エッグヌードルは一度茹でて、少し固めの状態で湯から上げる。

 フライパンにオリーブオイルを入れて、スライスしたニンニクとトウガラシを炒める。これに刻んだアンチョビを加え、キャベツを加える。

 最後にエッグヌードルを投入する。キャベツから水分がでるので、固めに仕上げていたエッグヌードルはいい感じに火が通っただろう。

 しばし炒めたら、春キャベツのパスタの完成だ。


 外で作業していたみんなを集める。


「昼食できたよーー!!」


 ここにやってきてから、腹から声を出して叫ぶという技術を習得した。慣れないうちは喉を痛めていたのだ。今は気持ちいいくらい声が出る。

 山暮らしが長いアニャやマクシミリニャンよりも、ツヴェート様の叫びが一番通りがいい。何かコツがあるのか。今度聞いてみたい。


 小走りでマクシミリニャンとアニャがやってくる。ツヴェート様は近くにいたようで、すでに席についていた。


 神様に祈りを捧げたあと、ありがたくいただくことにする。


「イヴァンや、料理が上達したねえ」

「とってもおいしそうだわ」

「食べようか」


 料理が上達したのは、教えてくれたみんなのおかげだろう。

 感謝しつつ、キャベツのパスタをいただく。


 キャベツはパリッと食感がよく、甘みがじゅわっと溢れる。

 これと、モチモチパスタとアンチョビのしょっぱさがよく合う。


「イヴァン、おいしいわ」

「たいしたもんだ」

「自慢できるぞ」

「みんな、ありがとう」


 素材の味の大勝利だが、褒め言葉はありがたく受け取っておく。

 次は何を作ろうか。

 考えるだけでも楽しい。

 そう思えるのは、おいしいと言って食べてくれる人達がいるからこそ、なのだろう。

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