番外編 マクシミリニャンの日記帳
〇月×日
婿殿は今日も朝からせっせと働いている。働き者なのは感心だが、たまに休憩も取らずに動き回っていることがある。
そのため、たまに声をかけなければならないのだ。
今日は、薪割りと薪の整理をしている。
途中から手伝っていたら、ふたりして四時間ほどぶっ通しで働いていた。
アニャの声かけで、休みなく働いていることに気づいたのだ。
婿殿とふたりして、アニャに働き過ぎだと怒られることとなった。
無念なり。
〇月△日
アニャは婿殿がやってきてから、明るくなったように思える。
もともと明るい娘だったが、年を重ねるにつれて笑顔が減っていたのだ。
ふたり並んだ姿は、お似合いとしか言いようがない。
我の目は確かだったのだ。
村でも、婿殿の評判はすこぶるいい。どこであんなにいい婿を見つけるというのかと、褒められた。そのたびに、誇らしい気持ちになる。
最近では、婿の探し方を教えてくれと言われるくらいだった。
婿は探すものではなく、出会うものである。
そんな話をアニャにしたら、婿殿と出会ったときの話をせがまれた。
婿殿と話しをする中で、雷が落ちるような衝撃を覚えたのだと言うと、アニャから初恋のようだと言われてしまう。
たしかに、妻と出会ったときも雷が落ちたような衝撃を覚えた。
この人だ! と思った瞬間に感じるものなのだろう。
奇跡的な出会いに感謝したのは言うまでもない。
□月▽日
ツヴェート殿は若干苦手である。
ズバズバとした物言いは気持ちいいが、どうしても萎縮してしまう。
ただ、彼女がやってきてからというもの、アニャの表情がこれまで以上に優しくなったように思える。
おそらく、母親から得られなかった言葉にできぬ感性のようなものを、吸収していたのかもしれない。
妻の亡きあと、後妻を迎えないか、という話もあった。
アニャには母親や弟、妹が必要なのか、悩む日もあった。
けれども、私にとっての妻は、ひとりだった。その我が儘に、アニャを付き合わせてしまったのだ。
ずっと申し訳なく思っていたが、今はそれでよかったのだと思うようになった。
ツヴェート殿のおかげかもしれない。
ひたすら、感謝している。
□月〇日
今日は久しぶりに熊を仕留めた。
山で目が合い、向こうから襲いかかってきたのだ。
おそらく、我の強さを感じ取り、殺されると思ったのかもしれない。
そんなつもりはなかったのだが、軍人時代の癖が抜けていなかったのだろう。
ひとりで山を歩いていると、ついつい急襲に備えてしまうのだ。
少々、殺気立っていたのかもしれない。
仕留めた熊を背負って帰宅すると、婿殿にたいそう驚かれてしまった。
無茶をしないでくれと、泣かれてしまう。
そんな婿殿を、アニャとツヴェート殿が慰めていた。
そして我は、婿殿を泣かせるなと怒られてしまう。
いつもの光景であった。
△月〇日
夜――たまに婿殿が酒に付き合ってくれる。
星空の下で飲む酒は、極上の味わいだ。
そこで、昔話をしたり、笑い話をしたり、心のモヤモヤを打ち明けたり。
婿殿は大昔からの友人のような気安さがあるのだ。
彼と話していると、優しい気持ちになれる。
本当に、不思議な男だと思った。
△月×日
アニャが肩揉みをしてくれた。知らないうちに、凝っていたようだ。
途中から、婿殿が代わってくれたが、岩のように硬いと叫ばれてしまった。
通りかかったツヴェート殿が、ハンマーを使って叩けばいいとアドバイスしてくれる。
さすがの我も、ハンマーで叩かれたら骨が粉砕するだろう。
婿殿は純粋で、なんでも信じてしまう。
わかりにくい冗談は止めてほしいと、ハンマーを握る婿殿を見ながら思った。




