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養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


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122/156

養蜂家の青年は、尋問を受ける

 花嫁衣装の話し合いから戻り、布団へと潜り込む。

 中はアニャの体温でホカホカだ。

 重くなっている瞼を閉じた瞬間、隣に横たわっていたアニャがもぞりと動く。


「おかえりなさい、イヴァン」

「た、ただいま!」


 起きていたので、跳び上がるほど驚いた。

 どうやら、アニャを起こしてしまったようだ。


「アニャ、眠っていたのに、ごめん」

「いいえ。起きていたの」

「そうだったんだ」


 アニャは夜型人間である。だから、なんら不思議ではない。

 今までは眠っていたので、驚いただけで。


「ねえ、イヴァン」

「な、何?」

「最近、お父様と毎日のように酒盛りをして、仲よさそうね」

「あ、えっと、まあ……。こ、これまでは、毎日忙しかったから、ゆっくり話す暇もなかったからね」

「そう」


 アニャがぐっと近づいてきた。胸がどきんと高鳴る。


「お酒のにおい、しないわね。今日は飲んでいないの?」

「あ、えっと、うん。そんなに、強くないし」

「そう」


 甘えてきたのかと思ったら、単なる飲酒チェックだった。

 結婚してしばらく経つのに、いつまで経ってもドギマギしてしまうわけである。


「イヴァンは、お父様のこと、大好きよね」

「それはもう――」


 マクシミリニャンは実の親よりも、俺を大事にしてくれる。

 逞しくて、頼りになって、尊敬できる。理想の父親だろう。


「お義父様のこと、大好き――うわっ!?」


 アニャのほうを見たら、大粒の涙を零していた。


「どどど、どうしたの!?」

「だって、お父様に、イヴァンを取られちゃったから!」

「ええーーーー!?」


 すんすんと涙を流すアニャを、ぎゅっと抱きしめる。

 アニャは静かに震えていた。


 ここ最近、毎日のようにマクシミリニャンの離れに通っているので、アニャは寂しい思いをしていたらしい。


「わ、私とお喋りしても、つ、つまらないんじゃないかって、思って。だって、男の人は、すぐに、女の人を、仲間はずれにする、で、でしょう?」

「うわー、アニャ、ごめん! アニャとお喋りするの、とてつもなく楽しいよ!」

「だったらどうして、夜はお父様とばかり過ごすの?」

「それは、それは――」


 本当のことを言うべきか、迷う。

 けれども、マクシミリニャンやツヴェート様は、アニャへのサプライズを楽しみにしているようだった。

 アニャに嘘はつきたくない。

 必死に必死に考えて、俺は叫んだ。


「じ、実は、お義父様と、アニャについて、毎晩語っているんだ!!」

「え!? な、なんで?」

「ふたりとも、アニャが大好きだからだよ」


 俺やマクシミリニャンだけではない。ツヴェート様も、アニャが大好きだ。

 だから揉めながらも、毎晩花嫁衣装について真剣に話し合っている。 


「アニャがどんなものが好きだとか、どんな服が似合うとか、そういうことを話しているんだ」

「そ、そうだったの?」

「うん」


 嘘は言っていない、嘘は。

 アニャの涙がぴたりと止まったので、安堵した。


「まさか、私についての情報交換をしていたなんて」

「ご、ごめん。アニャについて、いろいろ知りたかったんだ。お義父様も、知らない情報があれば、知りたいみたいで」

「私に直接質問すればいいのに」

「なんでも、答えてくれる?」

「もちろん」


 いい流れができた。布団の中で、ぐっと拳を握る。

 花嫁衣装について聞くために、いくつか質問をぶつけてみる。


「アニャは、何色が好きなの?」

「空に浮かぶ、雲のような白」

「どうして?」

「手が届かないものほど、美しく見えるの」

「なるほど」


 ということは、純白の花嫁衣装は、アニャの好きな色合いとなる。

 絶対に喜んでくれるだろう。


 ちなみに、白い花嫁衣装は、異国の女王がはじめてまとい、瞬く間に広がったらしい。

 それ以前は、皆自由な色合いのドレスを着ていたようだ。

 今も純白のドレスが当たり前なので、よほど素敵なお姿だったのだろう。


「えーっと、次は、好きな花は?」

「イヴァンと見た、満開のソバの花かしら?」

「あれは、きれいだったねえ」

「ええ」


 一面真っ白に咲いたソバの花は、本当に美しかった。

 今でも、記憶の中で鮮やかに甦る。


「次! 好きな服はどんなの?」

「そうねえ。動きやすい服がいいかしら」

「う、動きやすい服!?」


 花嫁衣装はスカートの裾が長くて、大変動きにくい。

 アニャの好み通りにしたら、短いスカートの花嫁衣装になる。

 絶対に、マクシミリニャンとツヴェート様が許さないだろう。

 個人的には、アリ寄りのアリだが。


「あ、えっと、オシャレ着だったら、どんなものが好き?」

「オシャレ着? うーん、あんまり意識したことなかったわ。イヴァンは、どういうのが似合うと思う?」


 まさか聞き返されるとは。

 オシャレ知識を総動員し、考える。


「アニャはさ、レースとか、リボンが似合いそうだよね」

「そう?」

「うん」

「レースといえば! この前見かけた、レースの長袖のドレス、素敵だったわ」

「それって、花嫁さん?」

「そう! スカートはクリームみたいに上品で、美しかったわ」

「なるほど、なるほど」


 大変参考になりそうな情報を、聞かせていただいた。

 神がかり的な会話の流れに、感謝する。


 今日は久しぶりに、アニャとたくさん会話できた気がする。

 楽しい夜だった。

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